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G7「一帯一路」対抗策は中国に痛手か_その1
2019年11月、「一帯一路」構想推進のためにギリシャを訪問した習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
2019年11月、「一帯一路」構想推進のためにギリシャを訪問した習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

G7首脳会談では「一帯一路」対抗策として巨大インフラ支援新構想を決定したが、中国のアフリカ諸国などとの連携の歴史は古く、容易には食い込めない。そもそも日本は第三国での「一帯一路」に協力を表明している。

◆バイデン大統領が唱える「より良い世界の再建」(B3W)による新構想

6月11日から13日までイギリスのコーンウォールで開催されたG7首脳会談において、バイデン大統領は自らが唱える「より良い世界の再建」(B3W=Build Back Better World)に基づいてG7参加国を説得し、何とか開発途上国へのインフラ支援新構想の合意に漕ぎ着けた。コミュニケ(共同声明)にも妥協的記述で盛り込まれた。

コミュニケでは、これが中国の巨大経済圏「一帯一路」構想に対抗するものであるとはもちろん書いてないが、随所にそれを示唆する言葉が鏤(ちりば)められており、誰の目にも対抗策であることは明らかだろう。

要は「一帯一路によって中国は発展途上国やヨーロッパ諸国を含め120ヵ国以上の国を掌握しているので、国際社会において絶大な力を持ち、国連などの国際機関を牛耳る結果を招いており、何としてもこれを打ち砕かねばならない」というのがバイデンの思惑であり、それも「中国は不透明な投資によって発展途上国を債務漬けにしてしまい、支援対象国の経済発展を阻害している」というのがバイデンの主張でもある。

もしバイデンが望むように民主主義的価値観を共有した国々が中国の覇権を抑えることができるのなら、大変結構なことだ。

しかしG7メンバー国の中には、残念ながら、日本のようにG7首脳会談ではあたかも反中のポーズを取り、実際は習近平の顔色をうかがいながらでないと動かない国もあるので、バイデンがどんなに言葉で言ってみたところで、実行には相当の困難を伴うのではないかと懸念する。

特にコミュニケでは貧困国が多い「アフリカ」に対するニューディール政策と位置付けている文言があるが、中国とアフリカの結びつきは尋常ではない。

◆中国の反応

まずは中国の反応を見てみよう。

6月12日付けの中国共産党系メディア「環球網」は<米高官がG7で世界的なインフラ投資新構想により中国に対抗しようとしている。ネットでは(G7を)“失敗者連盟”と称している>という見出しで報道し(17:35)、同日20:58には<案の定、G7が「中国に戦略的に競争するため」に世界的なインフラ計画を立ち上げた。ネットでは「笑わせるぜ、中国はずっと先を行ってるよ」と言っている>と、立て続けに報道した。

また知識層に人気のある「観察者網」は6月13日に<アメリカは世界的インフラ計画を宣言し、バイデンは現場で“人を引きずり込んだ”>という見出しでバイデンの心理と現状を分析している。

それ以外にも様々あるが、政府が言えないことは「網友」と称してネットユーザーが言ったことにして発表しているので、案外に「網友」の声も拾ってみないと本音はわからない。これらから総合的に見えてくるのは、以下のような中国側の主張である。

  • バイデンは「聯欧抗中(欧州と連盟を組み中国に対抗する)」という戦略で動いているが、欧州の意見は一致していない。
  • イタリアはそもそも一帯一路加盟国であり、日本は安倍が「第三国における一帯一路協力方式」を唱えて、半分は一帯一路に足を突っ込んでいる。ドイツはフォルクスワーゲンなど1980年代から中国の自動車産業に深く入り込んでおり、フランスも原子力発電などさまざまな分野で中国と連携しており、中国を敵に回す気はないと明言している。
  • バイデンの目的は一つしかない。アメリカが、大国として台頭してきた中国に追い越されそうなので、何としてもアメリカの覇権を維持したいと必死になっているだけだ。
  • そのために民主主義を口実にして小さなグループを作っているが、アメリカの覇権維持のために自国の利益を犠牲にしようという国は多くない。
  • 国際秩序は国連が決めるもので、各国は国連憲章に従わなければならない。しかしアメリカは国連憲章ではなく、G7という自国に有利な小さなグループの利害で国際社会を動かそうとしている。おまけにアメリカ一国では中国に勝てないので、他の国を引きずり込んでいるのである。  
  • 今年4月のイギリスの「フィナンシャル・タイムズ」は「もう遅い。一帯一路には120ヵ国以上が加盟しているが、EU27ヵ国の内の半分以上が既にその加盟国の中に入っている」と書いている。今さら「一帯一路」の代替案など実現不可能だ。
  • そもそも資金はどうするのか?バイデンは自国のインフラ投資に関して2.3兆ドルを提案したが、資金捻出に当たって金持ちや大企業の税金を増やすと言ったために共和党が猛反対しているじゃないか。バイデンはどんどん譲歩して1.7兆ドルにまで下げたが、それでも共和党が譲らず9280億ドルにまで下げろと迫っている。自国でのインフラ投資が崩壊しそうなのに、他国に支援か?(筆者注:これは「網友」の意見だが、この予算とB3Wの予算は別枠と位置付けるべきだろう。)
  • アメリカは中国の「一帯一路」の「透明度がない」とか「強迫的なやり方だ」とか「相手国を債務漬けにして潰している」などと言っているが、その証拠を見せたことはない。
  • 「一帯一路」対抗策を考えなければならないということは、アメリカは「一帯一路」が成功していると思っているからだろう。

◆中国建国以来のアフリカとの結びつき

中国は建国以来、アフリカとの連携を重要視してきたのは確かだ。

特に1955年に開催されたアジア・アフリカ会議(バンドン会議)では、それまで欧米や日本などの帝国主義国家から侵略を受けたり植民地化されたりしていた国々が集まって結束を固めたが、その立役者の一人は中国の当時の周恩来総理だった。以来、中国には「アジア・アフリカ処」や「アジア・アフリカ研究所」がどのような組織の中にもあり、毛沢東など、1958年から1962年にかけたあの大飢饉の間でもアフリカ諸国に食糧や資金を送り続け、支援対象国はアルバニアなど東ヨーロッパの国にも及んだ。

それが1971年10月の中国の国連加盟(アルバニア決議案)に反映されていくのだから、「長期的視野に立った戦略」も尋常ではない。

拙著『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』で詳述したが、自分の存在と毛沢東を重ねている習近平は、毛沢東のこの長期的戦略とアフリカ重視も踏襲している。

したがってアフリカとの連携を強化し、2018年9月4日のコラム<中国アフリカ協力フォーラムで世界制覇を狙う――後押ししたのはトランプの一言>でも触れたように、アメリカが人種を肌の色で区別し、「黒人」として侮蔑するのとは真逆の方向に動き続けてきた。人民大会堂に一堂に集まったアフリカ53カ国の首脳に向けて「私はあなたたちを最も尊敬しています。あなたたちこそは私の最大の親友です。私たちは互いに最も信頼し合う仲間です」と呼び掛けて、人民大会堂が揺れんばかりの歓声と拍手を巻き起こさせている。

だから一般の中国人もアフリカ人を喜んで中国に受け入れることに慣れているし、ハイレベルの人材がアフリカに長期滞在して仕事をしたり、アフリカで養子縁組を含めた家庭を持ったりすることなども違和感なく行われているのが、中国庶民の肌感覚だ。

◆アメリカはアフリカに溶け込めるか?

それに比べてアメリカ社会における黒人蔑視の歴史は長く、現在もひどい。それは奴隷制度から始まり、アフリカとの付き合いは「黒人」を人間とはみなさない感覚から始まっていることに原因の一つがあるだろう。そうでなくとも白人のエリート意識は強いのに、トランプは選挙のためにそれを助長した。トランプ政権時代に巻き起こったBLM(ブラック・ライブズ・マター、Black Lives Matter)運動に象徴されるように、白人警察による無抵抗な黒人への暴力や殺害行為は後を絶たない。

そのたびに50数カ国に及ぶアフリカ諸国が一丸となってアメリカに抗議文書を出すということをくり返している。特にトランプ前大統領がアフリカ諸国などを「糞ッたれ国家」と罵倒したときなどの抗議運動は顕著だ。

またインフラ投資新構想はアフリカ大陸などにある貧しい国々を対象としているので、アメリカなどの先進国がアフリカに投資した場合、果たして先進国の高価な製品を極アフリカの貧しい国々が購入するかという問題もある。当然、廉価な中国製品を購入するだろう。

したがって、B3Wに基づいたG7によるインフラ投資新構想の実現は前途多難だろう。

何と言ってもG7メンバー国のイタリアは「一帯一路」に加盟しているし、日本は安倍前首相が、自分を国賓として中国に招いて欲しいために、交換条件として「一帯一路」への協力を約束してしまった。日本の「第三国協力型」は、イタリアを加盟に持ち込むときにも道具として使われたほどだ。安倍氏の国賓招聘のお返しに習近平を国賓として日本に招く約束をしているために、コロナが武漢で発生した時に緊急に水際対策を取ることを躊躇したため、日本はコロナの阻止に出遅れてしまったという事実もある。このような実害を日本国民にもたらしているのが日本政府の対中姿勢だ。

だからG7で何を宣言しようと、中国にはさほど痛くはない。

◆決定的な痛手は中欧投資協定の頓挫

それよりも、中国にとって痛手なのは中欧投資協定の頓挫だ。

ウイグル人権問題でEUが中国に制裁を加えたのに対して、中国は報復制裁を行った。その対象人物がEU組織の重要人物であったために、EUは昨年末にようやく合意した中欧投資協定を一時停止すると宣言している。これは中国にとって相当な痛手をもたらしており、中国が報復制裁のレベルを下げない限り膠着状態が続くだろう。

そこに、バイデンはこのたび「G7+EU+NATO」という枠組みで中国への包囲網を増やしていっているので、この締め付けはジワジワとではあるが中国を心理的に追い込んでいくことが期待される。中露首脳会談でプーチンは有利にはなったが、習近平との仲に変化をもたらすことはないだろうと判断される。

慎重に検証をしなければならない要素が多いが、とりあえず「その2」では、アフリカにおける債務の現状を、世界銀行およびジュビリー債務キャンペーン(Jubilee 2000運動の起点となったイギリスの国別組織の後身で、最貧国の債務帳消しを求めて1990年から世界的に広がった社会運動)のデータに基づいて考察することとする。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.