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中国を批判すれば日本人も捕まるのか?――香港国安法38条の判定基準
2020年7月17日
香港に導入された国家安全法(写真:新華社/アフロ)
香港に導入された国家安全法(写真:新華社/アフロ)

香港国安法第38条に基づき香港以外で中国批判をした外国人も逮捕されるのではないかという不安と怒りが世界を覆っている。そこで、何をすれば処罰しようと考えているのかを、本法本条項の判定基準を考察したい。

◆第38条とは

香港国家安全維持法(以下、香港国安法)第38条には、以下のようなことが書いてある。

――香港特別行政区の永住権を有しない者が、香港特別行政区外で、 香港特別行政区に対して、本法が規定した犯罪を実施した場合、本法を適用する。

たったこれだけの条文だが、曖昧模糊とした不確定性が人々に強い警戒感を与えている。そこで一つ一つ噛み砕いて解釈してみよう。

まず「永住権を有しない者」とは、基本的には香港(=中華人民共和国香港特別行政区)から見た「外国人」ということになるので、私たち一般日本人もその範疇に入る。分かりやすいように、日本人を例にとって話をすることにしよう。

私たちが、たとえば日本で「本法が規定した犯罪を実施した場合」には、香港国安法を適用し処罰の対象となると、第38条は言っているのである。

但し、インターポールなどを通して国際指名手配されている場合を除けば、どの国にも外国の捜査権は及ばないから、香港や中国大陸の警察が日本に来て逮捕したりすることはできないのは論を俟(ま)たない。

しかし、中国大陸あるいは香港の「領土領海」内に入った時には香港・中国側が権力を行使するので、日本人など外国人は、香港の空港をトランジットなどで使う時も、「場合によっては」用心した方がいいことになる。ファーウェイの孟晩舟がカナダで拘束されたことを考えると、これは多くの国がやっていることではある。

たとえば日本の刑法第二条には「日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する」として「内乱、予備及び陰謀、内乱等幇助の罪」とか「外患誘致」あるいは「外患援助」・・・などが列挙してあり、この「すべての者」に香港国安法と類似の処罰対象者が掲げてある。つまり、日本国に何かしら悪いことをしようとした「すべての者」の中には「日本から見たすべての外国人」も入っているのである。

◆判定基準

ただ中国の場合は、中国大陸(北京政府)の法規の不透明性があるので、世界は激しく反発するわけだ。

その意味で、「本法が規定した犯罪を実施した場合」とはどういう場合なのかを考察するのは非常に重要であろうと考える。

これは7月7日のコラム「習近平はなぜ香港国家安全維持法を急いだのか?」に書いたように、「国家分裂罪、国家転覆罪、テロ活動罪、外国勢力と結託し国家安全を害する罪」の「4つの罪」のいずれかに抵触した場合を指すとみなすといいだろう。

「国家分裂罪」は、たとえば「台湾独立、香港独立、チベット独立、ウイグル独立…」など、中国が「一つの中国」として「中華人民共和国」の行政範囲内だとみなしている地域の独立を掲げて運動を起こした時の罪を指す。

「国家転覆罪」は「中国共産党による一党支配体制」を転覆させようとしたときの罪を指す。

「テロ活動罪」は説明するまでもないだろう。

「外国勢力と結託し国家安全を害する罪」とは、ストレートに言えば「香港市民がアメリカの民主団体や基金の支援を得て国家分裂や国家転覆などを目論むこと」を指している。そもそも香港国安法は、7月7日のコラム「習近平はなぜ香港国家安全維持法を急いだのか?」に書いた通り、コモンローを導入したことによる弊害から逃れようとするもので、中でもかつてのコモンウェルスの国々の中で今では最も強大となったアメリカの影響から逃れようとするものだ。

したがって、日本人など外国人が何をしたら、この「4つの罪」を犯したことになるのかは、このことから自ずと明らかになるのである。

以下に「北京」がほぼ確固として抱いている判定基準を示す。

 1.香港独立や台湾独立などを叫んで大衆に呼びかけ、団体を作って扇動活動を行うこと。

 2.香港市民あるいは団体などに抗議運動を行うよう、その支援金を供与すること。「抗議運動」の中に「国家分裂、国家転覆、テロ活動」などが含まれていれば、完全に香港国安法の対象となる。

こういった内容に関わってない限り、どんなに個人で、海外で(例えば日本で)中国批判を行なおうと、それは処罰の対象とはならない。たとえば筆者が「習近平を国賓として日本に招聘してはならない!」といくら書こうと、それは処罰の対象にはなり得ないのである。

しかし仮に日本人の某氏が日本で「香港を独立させよう!」というスローガンを掲げて民衆に呼びかけ、団体を立ち上げて大きな運動のうねりを形成するようなことをすれば完全にアウトだ。街角に立たずにネット空間で賛同者を集めて社会的影響を与えた場合でも、もちろんアウトである。そのような場合は、万一にも香港や中国大陸に行ったり、あるいはその関連空港をトランジットに使ったりなどしたら、即刻逮捕されるだろう。中国と犯罪者引き渡し条約を結んでいる国に行っても危険だ。

その類の運動をしていなければ、すべてセーフである。

◆香港の日系企業関係者の心配

在香港日本国総領事館やJETROなどが在香港の日系企業(598社)を対象に7月に行った調査によれば、香港国安法に関し8割超が懸念を示していることがわかった。すなわち、香港国安法に関して、「大いに懸念している」または「懸念している」を合わせると81.4%に上り、情報に制限がかかるおそれや、「法の支配」「司法の独立」が失われるおそれ、さらに、アメリカの制裁措置や米中関係の悪化を招きかねないことなどが理由としてあがっている。

また今後、「香港からの撤退や規模縮小、拠点機能の見直しを検討している」もしくは「今後検討する可能性がある」と回答した企業は、あわせて36.7%に上っていて、香港でのビジネス活動に対する不安が大きくなっていることが窺われる。

しかし、前項で記した「判定基準」さえ頭に入れておけば、そこまで神経質にならなくても大丈夫ではないだろうか。

◆ポンペオの「全ての国への侮辱」発言に中国は「痴人のたわごと」と酷評

7月1日、アメリカのポンペオ国務長官は1日、香港国安法は「全ての国への侮辱」と発言した。さらに、「第38条は海外での違法行為にも適用され、アメリカ人も含まれる公算が大きく、言語道断だ」とした上で、「自由な香港は最も安定し裕福で活力に満ちた都市の一つだったが、もはや共産党支配の都市でしかない」と断言。今後は香港に対する優遇措置撤廃に向けたトランプ大統領の指示を実施していく」と述べた。つまり「香港を中国本土と同様に扱う」ということだ。

これに対して中国共産党の管轄下にある中央テレビ局CCTVは「ポンペオ発言は『痴人説夢』に等しい」と激しく反論している。

この「痴人説夢」は「痴人が夢で何か言っている」=「痴人のたわごと」という意味で、アメリカを攻撃する時に選択する言葉が、だんだん北朝鮮並みになっているという印象を与える。それを叫ぶときの女性キャスターの表情も「憎き敵をやっつけるぞ!」という臨戦モードだ。

こんな時に日本では自民党の二階幹事長が習近平国賓招聘中止を求める自民党議員らの決議に激怒したり、二階幹事長の覚えがめでたくないと「次期総裁になれない」と恐れる石破議員が習近平国賓招聘に賛同する意思を表明したりなどしているのだから、日本の政界も、ポンペオ批判の際にCCTVが選択した言葉に近い状況になりつつあるのではないだろうか。

そのことを憂う。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.