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感染者急増するロシアはコロナ対中包囲網にどう対応するか_モスクワ便り
2020年5月14日
新型ウイルス肺炎が世界で流行 米大統領らが会見
新型ウイルス肺炎が世界で流行 米大統領らが会見(提供:AP/アフロ)

未曽有の被害を人類にもたらしているコロナ災禍に対して西側諸国は、中国に賠償を求めるべく対中包囲網を強化している。蜜月の中露はどう対応するかを、プーチン側近とも接触のある「モスクワの友人」に聞いた。

◆対中包囲網を強化する西側諸国

今年4月29日、フランスのFRI(Radio France Internationale、ラジオ・フランス・アンテルナショナル、フランス国際ラジオ)は、<コロナに関して世界8か国が中国に100兆ドルの損害賠償を求めている 中国激怒>と報道した。それによれば、4月29日までの時点で訴えているのは「アメリカ、イギリス、イタリア、ドイツ、エジプト、インド、ナイジェリア、オーストラリア」の8ヵ国で、賠償金額の合計は100兆ドル(約1京1000兆円)を上回り、中国の7年間分のGDPに相当する額に達するという。

RFIの報道は香港の「香港経済日報」に基づくと書いてあるが、香港経済日報では4月28日の<【グローバル損害賠償】トランプが再び中国の損害賠償を求めると発言>や、4月29日の<【グローバル損害賠償】「百ヵ国聯軍」いざ、戦闘か? 中国は頭上に突き付けられた三枚刃を某業しなければならない>などがあるが、金額などは書いていない。したがって賠償額に関してはFRIが計算したものと思う。

もっとも興味深いのは4月30日の香港経済日報の<「8ヵ国聯合」対中賠償請求全開 習近平「西巡講話」に隠された対応策は?>という記事で、これは清王朝末期の「8国聯合」をもじって、現在対中包囲網が形成されていることを表している。

この訴訟に関しては中国問題グローバル研究所にも「原告に名前を連ねないか」と誘いが来たので、殊の外強い興味を抱く。

今回の原告はアメリカの州の検察当局もあるが、弁護士会や民間シンクタンクが多く、トランプが言っているような、国家として訴えるところまでは行っていない。

国家が国家を訴える場合は、(海洋問題を別とすれば)以下のようなケースがあり得る。

一つはオランダのハーグにある常設仲裁裁判所で、これは相手国が「訴訟を受けて立つ」と承認しなくとも、一方的に訴えることができる。但し執行の強制力を持っていない。したがって南シナ海の領有権を巡ってフィリピンが訴訟を起こし勝訴したのに、中国は判決文を「一枚の紙っ切れでしかない」と強烈に走り回って無視してしまったことがある。

二つの目の選択肢は国連にある国際司法裁判所に訴える方法で、これは国連憲章第94条などに規定されている。94条の1によれば、「各国際連合加盟国は、自国が当事者であるいかなる事件においても、国際司法裁判所の裁判に従うことを約束する」となっているので、もちろん「国家が国家を訴えることは可能」である。

もっとも、ハーグの仲裁裁判所と違って被告側に相当する国(今の場合は中国)が「受けて立つ」と表明しなければ、そもそも裁判が成り立たない。

万一にも中国が「受けて立つ」と意思表明し、裁判が進む場合、94条の2には「事件の一方の当事者が裁判所の与える判決に基いて自国が負う義務を履行しないときは、他方の当事者は、安全保障理事会に訴えることができる。理事会は、必要と認めるときは、判決を執行するために勧告をし、又はとるべき措置を決定することができる」とある。すなわち「従わない場合は国連の安全保障理事会に訴えることができる」のである。

したがって現在のコロナの状況で言うならばアメリカなど8ヵ国が国家として「中国」を訴えて裁判が進行し(判決が出ても)中国が従わない場合は、安保理に訴えることができるので、オランダ・ハーグと違い「強制力」を持っているわけだ。

ところが、国連憲章第27条の3には「その他のすべての事項に関する安全保障理事会の決定は、常任理事国の同意投票を含む9理事国の賛成投票によって行われる。但し、第6章及び第52条3に基く決定については、紛争当事国は、投票を棄権しなければならない」とある。

となると、気になるのは安保理常任理事国のロシアの態度である。

◆「モスクワの友人」を取材:感染者が急増しているロシアはどう対応するか?

そこで早速、プーチン大統領の側近らとも接触のある「モスクワの友人」にインタビューを試みた。

遠藤:コロナは全人類に未曽有の災禍をもたらし、ロシアも最近では感染者が急増していますが、さすがに蜜月関係にあるプーチンも習近平を恨み、西側諸国が起こしている訴訟の輪に加わるという動きはありませんか?それとも原油安が進む中、石油を買ってくれる国として蜜月関係は崩れませんか?ここが崩れるとアフターコロナのパワーバランスに影響を与えると思うのですが…。

「モスクワの友人」:そもそもロシアという国や国民性が、慰謝料、補償料を求める文化に乏しいことに加えて、両国トップの関係が非常に良いという背景もあり、欧米のような動きにはなっておりません。

もちろん、中国から多額の補償を他国が獲得という事態にでもなれば、悪乗りしてくる可能性はあると思いますが、中国が欧米と対立することはロシアにとっては仲間が増える良い話なので経済的メリットよりも政治外交的なメリットを狙う国でもあるので、こちらで利用するのだろうと思います。

中露離間の計を図るならば、強い中国を叩くのではなく、経済力も弱く、本音では中国よりも

米国および欧州との関係改善を図りたいロシアを取り込む方が外交的には正しいと思うのですが、チャーチルのような冷徹な外交戦略を行う人間はいないようです。

石油価格の暴落は、エネルギーを大量消費してくれる中国の存在が、否が応でも更に重要となっており国民感情のずれはあっても中国との対立を見せることは当面ないと思います。トランプはロシアとの関係強化には動く可能性はあるのですが、大統領選までは無理でしょうし、バイデンが勝ってしまうとロシアとの対立は更に強くなり、中露結束は更に強まりそうな気がしております。

◆なぜバイデンが勝ってしまう米露対立はさらに悪化するのか?

「モスクワの友人」の回答で、「バイデンが勝ってしまうとロシアとの対立は更に強くなり、中露結束は更に強まりそうな気がしております」というのが気になった。そこでさらに質問をした。

遠藤:なぜバイデンが勝ってしまうと米露対立はさらに悪化するとお考えですか?

「モスクワの友人」:小生の意見を以下述べます。バイデン氏は、米露関係を悪化させたオバマ政権の下で対露、ウクライナ政策を担当しており、アンチ・ロシア、アンチ・プーチンであることは明らかです。加えて彼をバックアップする民主党は、口先、綺麗ごとだけを述べる政治家達で、この手の手合いはリアル政治、取引を好むプーチン政権やロシアの考え方と調和しません。

ヒラリー敗戦の原因をほとんどありもしないロシア疑惑に求めたり、ウクライナ疑惑でトランプを弾劾したりと、民主党関係者は、ロシアは兎に角敵で、これを大転回することはまずないだろうと思うのです。

歴史的にも、米露デタントが出来たのはニクソン、レーガン、ブッシュと強い共和党大統領の時代であり、酷かったのはカーター、オバマの時代で、きれい事だけを述べる政治家を軽蔑する文化がロシア人にはあるように思います。

プーチン大統領の性格抜きには、外交も語れない部分はあり、彼が好きなのは「強いマッチョかワル」、「国家指導者として清濁併せ飲むことができる人物」だと思うので、スリーピージョー(筆者注:ジョー・バイデン)では話もあまりしたくなくなるのではないかと思うのです。習近平氏は、どんな方なのか分かりませんが、強い指導者であり、単なる善人などいうことは絶対ないと思うので、二人の間でどんな会話が交わされているのか興味のあるところではあります。

インタビューは概ね以上だが、その後メールがあり「5月8日、習近平主席がプーチン大統領に対独戦勝記念日のお祝いとコロナ共同対応で電話されたようです。お互い強力な友人がいない者同士、関係は極めて良好と思います」と書いてあった。

また「ロシアの中国関係者は、かつてはやや日陰な存在でしたが、中国の台頭と、彼らを取り込む中国の巧みな工作があって今は状況が変わりました」という感想も漏らしておられた。

まるで「モスクワの友人」のコメントを証拠づけるかのように、5月13日、上海協力機構の外相会議でロシアのラブロフ外相はアメリカのコロナに関する対中攻撃を非難した。環球時報が伝えている。14日の中央テレビ局CCTVもかなりの時間を割いてラブロフの発言を大きく報道した。報道によれば米議会上院の共和党議員らが「COVID-19に関する問責法」を提出し、トランプ大統領による対中制裁を可能ならしめるように要求したようで、場合によっては国家による賠償責任を国家が求めるという流れに行く可能性も否定はできない。ラブロフはそれに対しても非難している。

こういった流れを見ると、アフターコロナの新世界秩序では、中露蜜月は崩れないという大前提で未来予測をした方が良いだろう。

安倍内閣は八方美人。「卒なく」と言えば聞こえはいいが、これでは誰からも本当には信じられないだろう。まして、習近平の国賓招聘を「延期はしたが中止はしてない」安倍首相にとって、トランプ大統領が音頭を取っている強烈な対中包囲網の中に入ることも難しいに違いない。アフターコロナの日本の動向を注視したい。

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.