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[特別寄稿] 新型コロナで解き放たれる「灰色のサイ」ーー米中企業の過剰債務がもたらす未曾有の危機と、その先にある世界の大転換
2020年3月24日
コロナウイルスの影響でNY株暴落、2997ドル安 下落幅の過去最大を更新
コロナウイルスの影響でNY株暴落、2997ドル安 下落幅の過去最大を更新(提供:ロイター/アフロ)

【本稿は中国問題グローバル研究所の白井一成理事による特別寄稿である。】


今回の全世界の株式市場の下げ幅は、大恐慌レベルの急落に匹敵する。トランプ大統領就任からのアメリカの株価上昇分は全て霧散した形になった。FRBによる緊急利下げやトランプ大統領による100~200兆円(1兆~2兆ドル)の経済対策の方針など、アメリカは大胆かつ素早く対応しているが、経済危機の入り口において、ここまで株価の下げ幅が大きく、スピードが速いという事態は、今までのケースと比べても異例である。また、GDPや失業率の予想、新興国からの資金流出など驚くべき数字が次々と発表されている。例えばモルガンスタンレーは、4~6月の米国GDP成長率を前期比年率30%減少、同時期の失業率を12.8%と予想した。国際金融協会は1月21日以降に新興国から流出した資金が500億ドル(5兆円)超と、リーマンショック時の2倍と指摘している。このことは、この先の想像もつかない巨大な世界経済のクラッシュを暗示しているかもしれない。

今回の危機において複数存在する「灰色のサイ」(将来、高い確率で大きな問題を引き起こすと考えられているにもかかわらず、現時点で軽視されてしまいがちな潜在的リスクのことを指す。鈍重で大きくふだんは大人しいが、いったん暴れると暴走するサイに由来する)の1頭は、米国企業と中国を始めとする新興国債務(特に中国企業の債務の伸びが顕著)であろう。大胆な金融緩和と高株価という他の灰色のサイ2頭と共に膨張してきたが、これからは3頭が強く影響し合いながら急激に縮小することになるだろう。

国際決済銀行(BIS)によると、2019年9月末時点での債務総額は186.6兆ドル(1京8,660兆円)に上り、そのうち米国が53.9兆ドル(5,390兆円)、中国が35.0兆ドル(3,500兆円)、新興国(除く中国)が22.1兆ドル(2,210兆円)であった。2018年末時点では債務総額が117.0兆ドル(1京1,700兆円)、そのうち米国が35.3兆ドル(3,530兆円)、中国が6.7兆ドル(670兆円)、新興国(除く中国)が11.1兆ドル(1,110兆円)だったので、伸び率で見ると、わずか1年間で債務総額は60%の増加、米国は53%増加、中国は5.3倍、新興国(除く中国)は2.0倍である。

非金融企業の債務に限定すると、総額は72.4兆ドル(7,240兆円)、そのうち米国が16.0兆ドル(1,600兆円)、中国が20.5兆ドル(2,050兆円)、新興国(除く中国)が8.8兆ドル(880兆円)となる。2008年末時点では総額が45.3兆ドル(4,530兆円)、そのうち米国が10.7兆ドル(1,070兆円)、中国が4.6兆ドル(460兆円)、新興国(除く中国)が4.7兆ドル(470兆円)だった。こちらも伸び率で見ると、企業債務は60%増加、米国が50%増加、中国は実に4.5倍で、新興国(除く中国)が87%増加となる。

米国、中国の金額の大きさが注目されることに加え、中国の伸び率が突出している。中国以外の新興国は、いずれも一か国で金額が突出しているところは見られない。新興国で中国に続いて債務残高が大きいのは韓国であるが、債務総額は3.8兆ドル(380兆円)、企業債務が1.6兆ドル(160兆円)にとどまる。それでも伸び率は決して低いわけではない。

まず、米国企業の債務を見てみよう。日銀によると、2018年時点で投機的格付けの社債とローンは2.3兆ドルあり、投資適格の最下層のBBBは(影響が長期化すれば格下げになる)社債だけでも3.2兆ドル存在する。ちなみに、リーマンショックの元凶となったサブプライムローンは1.3兆ドルであるので、いかに今回の問題が大きいかが分かるだろう。高いレバレッジは良い方向にも悪い方向にも加速度をつける効果があるが、債務が膨張した状態から反転し負の連鎖が回り始めれば、急激な下落を伴って想定以上の価格まで売られることがあり、常に金融危機のエンジンとなっていた。

このループはどこが起点であっても、キッカケさえあれば回り始めることになり、回り始めると止めることが容易でない。一般的には、企業業績が悪化したり、その懸念で債券価格が下落すると借入の返済を迫られ、その資金を捻出するために企業活動が慎重化するため、余計に企業業績が悪化するという格好だ。格付け会社による格下げも、それを加速させる。後述するが、新型コロナウイルス対策が企業業績を激しく傷つけるため、この負の連鎖の巨大なエネルギーが金融市場に解き放たれようとしている。

現在の世の中は、貿易が世界のGDP比で6割の額にまで達しており、サプライチェーンはグローバルに分散して構築されている。そのため、長期間にわたるサプライチェーンの分断が世界的な供給を、そして需要を大きく制限することになり、経済に与える影響は甚大であろう。全ての国の生産活動が正常に戻って始めて、分断されたサプライチェーンが修復されるわけである。しかし、米中貿易戦争に端を発する製造拠点の脱中国の動きは、このようなサプライチェーンの断絶を加速させる。折しもコロナウイルスの根源を巡り、米中が激しく言い争う事態となっている。

分断された貿易構造や自国主義の追求と、今後の各国中央銀行の積極的な金融緩和と各国政府の巨額の財政出動は、理屈の上では、インフレの土壌を育むことになるはずである。将来的に需要が正常に戻る段階では、インフレが昂進する可能性があろう。また、足元でもサプライチェーンの分断によって、食料品や生活必需品などが不足する事態を想定しておかなければならない。SNSの普及で誤った情報が拡散しやすくなっていることも、消費者による買い占め行動に拍車をかける可能性があろう。

サプライチェーンに関わる企業のみならず、新型コロナウイルス対策によって、観光、小売、外食、旅客運送業界などが深刻な影響を受けていると報道されている。航空業界コンサルティング会社のCAPA航空センターは、運航停止や搭乗客の大幅な減少で多くの航空会社の手元資金が急速に枯渇しつつあり、5月末までに経営破綻に追い込まれる可能性に警鐘を鳴らしている。航空各社では、減便、無給休暇などリストラの動きが急ピッチで進められている。国際航空運送協会(IATA)は、新型コロナウイルスの影響により、世界で1,130億ドル(11.3兆円)の需要が失われると試算している。ANAホールディングス、日本航空の売上高合計が約3.5兆円であり、その影響の大きさがうかがえる。イタリアでは生活に必須でない工場や事務所が原則として全て閉鎖され、北米では自動車の生産休止が一斉に発表された。3月末にかけてアメリカでの自動車生産は約8割減るという見方もある。中国の生産が復調してきたとしても、欧米休止の影響をカバーできないだろう。中国においても再感染を警戒しなければならない状況にあり、すぐさまフル生産という訳に行かない。グローバルな販売が通年で3割程度の水準ということになれば、トヨタ、ホンダとも数兆円規模の営業赤字に転落する可能性もある。

あらゆる企業が大幅な業績の悪化を余儀なくされ、近いうちに経営危機や倒産も表面化してくるだろう。これらが導火線になり、上で見てきた灰色のサイが解き放たれ、負のサイクルに向かって大きく暴れ出すことになる。また、現状の売上減少による資金繰りを借入で繋いだ企業は、根本的に問題が解決するわけでなく、単に借入比率が高まっただけであるため、将来に起こりうる危機の火に油を注ぐ存在となる。このように、金融参加者の多くが与信提供先を信用できなくなる信用収縮が今回も引き起こされるはずであり、あらゆる人が資金を求めて殺到するあまり、市場の閉鎖や資金の蒸発などといった流動性危機に発展する可能性が高い。この段階では、いくつかのグローバルバンクの破綻懸念や、南欧や新興国の債務返済の問題が噴き出し、金融、経済の巨大なメルトダウンが起こっているはずである。

次に、中国の企業債務(非金融企業)は、冒頭でも述べたように、国際決済銀行(BIS)が公表している統計によれば、2019年9月末時点で20.5兆ドル(2,050兆円)に上る。この額はGDP比150%と、日本のバブル時のピークである147.6%を上回っている。新興国全体の企業債務はGDP比97%の29.3兆ドルだから、金額ベースでは中国が圧倒的である。ちなみに新興国全体の債務残高はGDP比188%と過去ピーク圏に位置しており、中国ほどでないが先進国を大きく上回る負債の増加ペースを示しており、債務比率が悪化している国が多い(2008年末は108%)。

中国の企業債務のうち多くは国内で調達されているとみられるが、格付け会社のフィッチによると、オンショアで債券を発行した中国の民間企業のうち、2019年1~11月のデフォルト率は過去最高の4.9%と、2014年の0.6%から上昇した。SAFE(中国国家外貨管理局)によれば、2019年9月末の中国の対外債務は2.0兆ドル(200兆円)で、短期対外債務は1.1兆ドル(110兆円)。企業部門(を表すと見られるその他セクター)の対外債務は0.6兆ドル(60兆円)、短期対外債務は0.4兆ドル(40兆円)である。中国は膨大な外貨準備(約310兆円)を使い、危機封じ込めのために最大限の努力をするだろうが、成功するかどうかは分からない。ただ、その結果、2014年をピークに水準が低下した外貨準備は、もう一段減少する可能性もある。

中国の1~2月の貿易収支は71億ドルの赤字となった。経常収支の赤字が恒常化すると、元安が加速する可能性が高まる。元安が加速すると、外貨建て債務の負荷が高まることになる。足もとでは緩やかではあるが、為替も対ドルで元安方向に動き始めた。

そうした状況のもと、中国では3月13日、中国共産党中央委員会政治局常任委員会が開催され、新しいインフラストラクチャーへの投資が論議された。21世紀経済報道によると、新しいインフラストラクチャーとは具体的に5Gインフラストラクチャー、Industrial IoT、超高圧(UHV)送電、都市間高速鉄道と都市間鉄道輸送、新エネルギー車と充電パイル、ビッグデータセンター、人工知能などを指す。今後の重大項目投資として、13の省と都市のインフラに関して総額34兆人民元(530兆円)を投ずることが公表されており、2020年には3兆元(47兆円)の投資が行われる。迫りくる未曾有の危機に先んじて、将来の投資を大胆に実行し、世界をリードする目算だ。

しかし、今回の危機はネガティブな側面だけではない。デジタル社会への大転換を、新型コロナウイルスが大きく加速させるという別の側面だ。デジタル化によって効率化や代替されるべき企業や社会構造が、既得権益や惰性で十分に効率化されずに今まで放置されていた。特に日本においては、旧来の重厚なインフラがあり、また国民や企業に危機意識も乏しいため、その傾向は顕著であった。今回、台湾のITによる高度なマスク管理が明らかになると、遅れをとっていた日本のそれが白日の下に晒され、アジアの先進国を自認していた日本国民は敗北感に打ちひしがれた。クルーズ船の対応が内外で批判的に報じられたことも、その感情に拍車をかけたであろう。

同時に、多くの人々がデジタル空間での滞在時間を増やし、またテレワークや電子決済の積極利用が効率的であることに気づいた。出張がWeb会議に切り替わるケースも増えているようだ。巣ごもり消費を余儀なくされる中、実店舗に強いとされるセブン&アイHDでもネット販売が増加している。教育・出版企業による学習教材、電子書籍の販売も増えている。エンターテインメント企業も動画配信を無料化したり、イベントを動画配信に切り替える動きも増えた。一連の動きは、休校やイベント・外出自粛への対応という面も大きいだろうが、デジタル産業によるユーザーの囲い込みという意味合いも含まれていよう。コロナウイルスの自粛が解禁されても、デジタル化の利点を改めて認識した人々や企業はデジタル依存を高め、実物経済への依存を下げるであろう。デジタル企業の存在感は一層増すことになるが、対称的に経済、金融危機の影響を受ける多くの産業は、強制的な再編や効率化を受け入れざるを得ないだろう。

このように能動的であるか受動的であるかに関わらず、今回の一連の危機があらゆる企業のデジタル化を強力に推進し、世の中に大規模かつダイナミックな転換を促す。このことは、デジタル企業と、改革に乗り遅れた企業との企業価値を大きく乖離させる。これは、この数十年で日本とアメリカの資本市場で起きたことの延長線上と考えるとわかりやすい。1980年代には、日本企業が世界の時価総額ランキングの上位を占めたが、今は見る影もない。3月19日現在、トヨタの時価総額が20兆円であり、NTTドコモの11兆円、日本電信電話の9兆円と続く一方、アメリカは、マイクロソフトが120兆円、アップルが110兆円、アマゾンが100兆円であり、日本と桁が違うことがわかる。ちなみに、足もとも2月19日以降の株価はアマゾンが15%安、ネットフリックスが14%であり、S&P500の32%安よりはもちろん、TOPIXの23%安よりも調整が軽微だ。

時価総額は将来キャッシュフローの現在価値であるため、時価総額が高いアメリカ企業は、それだけ投資家に未来を期待されているということである。また、トヨタの2018年の販売台数1,084万台に対して、テスラの販売台数は24万台、時価総額で8兆円である。テスラの時価総額は、532万台のホンダの3.9兆円を大きく上回っている。規模の経済性から考えると販売台数と時価総額は比例するはずであるが、このような差が出るということはテスラの販売台数が大きく増加することや、経営力への評価、さらなる事業拡大が漠然と期待されていることによる。テスラのビジネスモデルがいかに優れているかという証左であろう。

このような傾向は、今回の危機を機に益々高まっていくだろう。産業革命に乗り遅れたことによって西欧列強に蹂躙された過去を二度と繰り替えさないという決意のもと、中国は国家をあげてデジタル社会への転換に邁進している。

日本や日本企業には、果たしてそのような覚悟があるだろうか。今回のコロナウイルス危機が最後のチャンスであろう。これを奇貨としてデジタルへの転身を真剣に取り組まなければ、国家没落への道しか残っていない。

(本論はフィスコ世界金融経済シナリオ分析会議での議論をもとに執筆したものである)