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GDPでは測れない中国の新産業(ハイテク製造業)生産力
「GDP」と書かれたニュースの見出し(写真:イメージマート)

7月15日、中国の4月から6月のGDP成長率が発表された。4.3%成長という低い値だ。日本ではこれを「中国経済の衰退」として扱っているが、中国の新産業(ハイテク製造業)はGDPでは測れない。

習近平は2015年にハイテク国家戦略「中国製造2025」を発表した時に、同時に「新常態(GDPの量から質への転換)」を宣言したが、その「転換」は何を意味し、いかなるパラメータによって測定すれば良いのかを考察する。

 

◆GDPの「量から質への転換」とは何か?

2012年の第18回党大会で習近平が中共中央総書記になり習近平時代が始まるまでは、中国は「世界の工場」と呼ばれたように農民工を中心とした「組み立て工場国家」の性格から脱していなかった。しかしGDPの成長だけは著しかった。

ローテク産業(組み立て工場)と江沢民政権が残した負の遺産である不動産業への投資に頼っていたからだ(不動産業が江沢民時代の負の遺産であることは、たとえば2021年9月22日のコラム<中国恒大・債務危機の着地点――背景には優良小学入学にさえ不動産証明要求などの社会問題>などをご参照願いたい)。

このままでは永久に「発展途上国」から脱却できないと考えた習近平は、冒頭に書いたように2015年にハイテク国家戦略「中国製造2025」を発布すると同時に、「GDPの量から質への転換」を主張し「新常態論」を唱えた。

中国にとっての「GDPの量的成長」とは「農民工を中心としたローテク製造業によるGDP増大への貢献」や「不動産投資によって膨れ上がるGDP」などを指す。

「GDPの質への転換」はローテク製造業や不動産投資から抜け出して、新産業と呼ばれる「EVや太陽光発電、ドローン、ロボット・・・」などのハイテク製造業への転換を意味するが、それがもたらす「国力の変化」はGDPというパラメータでは測定できない。

 

◆世界のトップを走る中国の新産業(ハイテク製造業)

GDP成長率には反映されなくても、中国の新産業(ハイテク製造業)が世界のトップを走っていることは誰の目にも明らかだ。拙著『G2構想 勝つのは米国か中国か』の【第五章 製造業とレアアースでアメリカを圧倒する中国】のP.182~p.189において文章で書いた内容を一覧表にしたものを図表1として以下に示す。

図表1:中国新産業(ハイテク製造業)の分野と現状

『G2構想 勝つのは米国か中国か』のP.182~p.189にある考察を図表化した

これ等はまさに、習近平が2015年にハイテク国家戦略「中国製造2025」を完遂するに当たって「GDPの量から質への転換」を提唱した結果がもたらしたものである。

特にAIに関しては昨日(7月17日)、新しく発表された中国AI企業「ムーンショットAI(月之暗面)」が開発した最新モデル「Kimi K3」の登場により、それが「中国発のAIショック」となって、米ナスダック総合が1.4%安になったというニュースが世界を駆け巡っている。

それでもこれはGDP成長率としては現れない。

 

◆実体経済や生産力と乖離する側面を持つGDP

一応、これまでのその国の経済発展の度合いを測るパラメータとして使われているGDPの推移の米中日比較を図表2に示した。

図表2:米中日のGDP推移(~2025年)

IMFのデータに基づいて、グラフは筆者作成

図表2に示したのはドル換算の名目GDPの推移で、圧倒的にアメリカが強く、「コロナ後のアメリカの大幅な物価上昇、中国の物価下落、人民元安によるドル換算の減少…」など、さまざまなファクターの影響を受けている。その意味でもGDPの比較は必ずしも正確には当該国の比較的な経済状況を表しているわけではない。

特に考えなければならないのは、GDPには製造業以外の幅広い経済活動が含まれており、「金融、保険、不動産、医療、法律、コンサルティング、情報サービス・・・」などの価格が高い国では、それらのサービスがGDPを大きく押し上げる側面があることだ。

たとえばアメリカではエンジニアが激減しているので製造業はほぼ成立しないのに、GDPだけはひたすら増加しているのは、金融や保険あるいは法外に高価な医療サービスなどの貢献が大きいからである。

図表3に示したのは、製造業と金融業などのGDPへの貢献度と、それぞれに従事する雇用者数の推移だ。図表3は拙著『G2構想 勝つのはトランプか習近平か』の【第五章 製造業とレアアースでアメリカを圧倒する中国】の図表5-1と図表5-2で用いたグラフを並列したものである。

図表3:米製造業と金融業などのGDPへの貢献度と雇用者数の推移

『G2構想 勝つのは米国か中国か』から転載

図表3をご覧いただければ明らかなように、製造業のGDP貢献度が下がる一方、金融等部門の貢献度は増加の一途をたどっている。つまり図表2におけるアメリカのGDPの増加は、金融やサービス業などに依るところが大きいということになる。その証拠に図表3の「5-2」にあるように製造業の雇用者数は激減し、トランプ2.0に入ってからさえ減少を見せている。つまりエンジニアがいなくなってしまっているのだ。だから米軍の武器を製造する者さえ足りなくなっている。

一方、ハイテク新産業分野において中国が抜きん出て世界を席巻している。

この現実を反映できるパラメータはあるのだろうか?

 

◆MVA(製造業付加価値):GDPを「量」ではなく「質」で測るパラメータ

習近平も「GDPの量から質への転換」を提唱したのち、何度にもわたり「ハイテク新産業生産力を測るパラメータの定義」に関して研究するよう、中国の工業界や経済界などに促している。その結果、数多くの提案がなされているが、中国が独自に算出したものによって国際社会における比較をするのは説得力に欠けるので、ここでは国連専門機関の一つであるUNIDOUnited Nations Industrial Development Organization、国連工業開発機関)が提唱しているパラメータに基づいて考察してみたい。

UNIDOには「CIPCompetitive Industrial Performance、競争力産業パフォーマンス)指数」というデータベースがある。

そこではMVAManufacturing Value Added、製造業付加価値)というパラメータで当該国の製造業生産力を測っている。MVAはGDPのように金融やサービス業などを含む経済全体ではなく、各国の製造業そのものの規模と付加価値を測るするものだ。

製造業の中には、衣類や靴など生活に必要な単純加工をしたローテク製品とともに、EVやドローンなどのハイテク新産業製品などが含まれている。パソコンなどは今では「高技術(ハイテク)」製品ではなく、「中高(ミドル・ハイ)技術」レベルの製品になっている。

ありがたいことにUNIDOには、まさにこの「中高技術」と「高技術」製品の「製造業付加価値(MVA)が抽出されて計算された結果がある。

そこで本稿では、そのデータベースから、「中国・米国・日本」のみを拾い出して、「世界の中高・高技術製造業付加価値に占める米中日のシェアの推移」を図表4に示した。

図表4:世界の中高・高技術製造業付加価値に占める米中日のシェアの推移

UNIDOにあるデータベースに基づき、筆者が米中日のシェア推移を計算してグラフ化

図表4から明らかなように、これは図表1に示した中国のハイテク新産業分野の世界における動向とほぼ一致している。

現時点では、いかなるパラメータが現在における当該国の経済力や国力をより正確に表すことができるかを断定することはできないが、少なくともこの「中高・高技術製造業付加価値」は、一つの目安とみなしていいのかもしれない。

図表4 から見えるのは、中国が第一線を行きひたすら成長しているのに対して、アメリカが下降して行き、日本は低空飛行を続けている現実だ。

それなのに日本の大手メディアや少なからぬ研究者は図表2 のGDPしか見ず、図表1の現実も、また図表4の国際社会における相対的な実態も完全に無視して、中国経済崩壊論をクラシックな不動産業などに焦点を当てて論じている。

それによって日本経済が強くなるのなら嬉しい限りだ。しかし、中国崩壊論あるいは中国経済の弱体化を喜ぶ日本の傾向は、日本が国際社会で置かれている相対的な位置を見えなくさせるだけでなく、トランプがいま突き進もうとしているG2構想によって形成される世界新秩序を認識できなくさせる。そのことに警鐘を鳴らしたい。

なお、トランプが一日ごとに変化するように発する新しいメッセージや行動が、G2構想に影響を与えるのか否かに関しては、つぎつぎと湧き出てくる新情報に基づき、別途、少しずつ考察を試みていきたいと思う。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国長春市で中共軍による食糧封鎖に遭い家族を餓死で失う。1953年日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『G2構想 勝つのは米国か中国か』(7月2日発売予定)、『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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