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高市総理に「日米首脳会談」までに認識してほしい、トランプ大統領の対中姿勢(対習近平愛?)
News Mobileが報道したダボス会議のスクリーンショットに筆者が和訳を加筆
 

まもなくトランプ大統領が訪日して高市総理と会談する。高市総理は<高市内閣総理大臣記者会見>で、米国の対中姿勢を、主として「自由で開かれたインド太平洋戦略」と位置付けているようだが、トランプ大統領の「対・習近平姿勢」は、バイデン政権の対中包囲網姿勢とは全く異なる。そもそもトランプ大統領は習近平国家主席が「個人的に」好きだ。台湾問題に関しても極めて習近平寄りで、「習近平が好まないことはしたくない」というのがトランプ大統領のスタンスである。

それに反して高市総裁が誕生した直後に任命された自民党新執行部の一人である古屋圭司氏は、超党派の国会議員で作る「日華議員懇談会」の会長として10月9日に台湾を訪問している。トランプ大統領とはベクトルが異なる。

どちらが良いのか悪いのかの問題ではなく、こういった現実をしっかり認識しておかないと、日米首脳会談で感覚がずれる可能性があるので、注意を喚起したいと思う。

◆高市総理の発言からうかがえる対中強硬戦略

そもそも高市政権は麻生氏を中心とした超保守層を背景に誕生しているので、自民党の中でも「右寄り」の政治心情に傾いている。その是非は本稿での関心事でなく、バイデン政権時代に代表される米民主党の対中包囲網的な対中強硬策を、米国の対中戦略と勘違いしないようにしなければならないと思う。高市政権では国家安全保障戦略など「安保3文書」に関しても前倒しで改定する方針のようだし、防衛費の引き上げを目標にしている点においても、明らかに「右寄り」で「いざ、進め!」という印象を与える。

対象として頭に描いているのは「中国」であり「北朝鮮」でもあろうが、少なくとも「中国」は「国家安全保障戦略」の防衛対象となっていることは確かだろう。

前掲の記者会見においても高市総理は「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)を外交の柱として引き続き力強く推進」すると言っているし、またトランプ大統領との会見に関して「我が国は米国にとってみても、米国側から見ても、米国の対中戦略であったり、米国のインド太平洋戦略であったり、そういったことの不可欠なパートナーだと私は考えております」とした上で、「もしお会いできましたら、(中略)先ほど申し上げましたように、やはりFOIP、非常にこれが重要なことであるということ、こういったことも訴えてまいりたいと思っております」と結んでいる。

しかし、トランプ大統領はつい最近、オーストラリア首相との会談で、AUKUS(オーカス)の必要性さえ否定していることに目を向けなければならない。

◆AUKUSの必要性を否定したトランプ大統領

今年10月21日、トランプ大統領はオーストラリアのアルバニージー首相と会談し、AUKUSの必要性を否定した

AUKUSは、「Australia、United Kingdom、United States」の頭文字を取ったもので「オーストラリア、イギリス、アメリカ」3ヵ国間の軍事同盟である。バイデン政権時代の2021年9月に「対中包囲網」を意識して結ばれたものだ。

しかし今年10月21日にアルバジーニー首相との会談で、「AUKUSを中国に対する抑止力と見なしているか」との質問に対し、トランプ大統領は「そうだとは思うが、必要になるとは思わない。中国とはうまくやっていけると思う。中国はそんなこと(台湾を武力攻撃すること)は望んでいないから」と答えている。

台湾に対する中国による武力攻撃に関して、トランプ大統領はさらに言葉を重ねて「習近平国家主席にはそのような考えは全くない。台湾やその他の問題に関しては、非常にうまくやっていけると思う。だからといって、台湾が彼(習近平)にとって大切ではないということではない。(しかし)何かが起きるとは思わない。(中国は)われわれとは非常に良好な貿易関係にある。(中略)最終的に非常に強力な貿易協定が締結されるだろう」と言っている。

トランプ大統領のことだから、話があちこちに飛んでいくが、要は

  • 習近平の中国とは非常にうまく行っている。
  • 習近平は台湾武力攻撃を望んでいないので、AUKUSは必要ない。
  • 習近平との仲が良いので、貿易協定もうまく行く。

ということになろうか。

つい先日(10月10日)、中国がレアアースの輸出を制限したからという理由で、11月1日から対中関税を100%に引き上げるとTruth(トランプ自身が設立したソーシャルメディアプラットフォームであるTruth Social)で書いたトランプ大統領だが、その見解はすぐさま(10月12日に)同じくTruthで引っ込めてしまった。10月17日にはベッセント財務長官が「100%関税に関しては、継続可能なものではない」と発言したという報道があり、加えて習近平と会談するだろうとも言っている。これに関しては10月24日から米中双方の担当者がマレーシアで会談するようなので詳細は避ける。トランプ大統領の話があちこちに行くので、AUKUSの話から米中貿易協定まで及んだため、説明を試みた。

言いたいのは、このような状況の中、「対中包囲網」を前提とした「自由で開かれたインド太平洋」戦略にトランプ大統領が積極的に乗ってくるとは思いにくいということである。

そもそもトランプ大統領は、「戦争を止めたリーダー」としてノーベル平和賞受賞を望んでいたほどなので、バイデン元大統領のようにNED(全米民主主義基金)を用いて親米的でない国を転覆させるために扇動するという要素はない。戦争ビジネスで儲けようという意図がないので、「戦争をけしかける戦略」は取らないということである。儲けるなら関税で儲けようというのがトランプ大統領なので、注意が必要だろう。

◆「習近平が望まないことはしたくない」として台湾総統のニューヨーク立ち寄りを拒否したトランプ大統領

今年7月31日の論考<台湾総統のニューヨーク立ち寄りを拒否したトランプ政権の顛末 「米中台」三角関係を読み解く>にも書いたように、台湾の頼清徳総統が南米訪問に際しニューヨークに立ち寄る予定だということに対して、トランプ大統領は「習近平との関係を重んじて立ち寄りを拒否した」と報道されたことがある。報道したのはフィナンシャルタイムズで、台湾メディアは「何もマスコミを通して頼清徳総統に恥をかかせる必要はないのではないか」と燃え上がった。頼清徳総統はその後、「そのような予定は最初からなかった」として南米行きを中止してしまったほどだ。

それくらい、トランプ大統領は習近平国家主席のことを重視していて、「対中包囲網」形成といったバイデン流の対中強硬傾向はないと言っていいだろう。

◆トランプ大統領の「対習近平愛」

そもそも大統領に就任した2日後の今年1月23日に、スイスのダボスで開催されたダボス会議にオンライン参加したトランプ大統領は、「私は習近平が大好きだ。ずっと好きだった」と言っている。その証拠に、図表にそのときの画像も示そう。

図表:「私は習近平国家主席が大好きだ。ずっと好きだった」と言っているトランプ大統領

News Mobileが報道したダボス会議のスクリーンショットに筆者が和訳を加筆

ことほど左様に、トランプ大統領の「習近平愛」は強い。

彼は専制主義的な絶対的権力を持った強いリーダーが好きなのだ。だからプーチン大統領のことも好きだ。そのためにウクライナ問題の解決が、プーチン寄りになるほどの「思い」を持っている。ただ今年8月15日のアラスカでの会談がうまくいかなかったので、次の会談に関しては慎重になっているが、それでもプーチン大統領からの電話一本で、本来ならウクライナに提供するはずだったトマホークも提供をやめてしまった。 

もっとも、高市総理は「専制主義的な絶対的権力を持った強いリーダー」ではないにしても、「鉄の女」サッチャーを目指しているということだから、その「揺るぎのない信念」がトランプ大統領には「強いリーダー」として映り、気が合うのかもしれない。

期待したい。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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