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中国経済で今何が起きているのか ?
China Belt and Road Forum
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ヘッドライン 

政治家やビジネスパーソンが世界経済を理解する上で、中国経済の健全性を正確に把握することは不可欠である。中国の経済活動が世界市場のあらゆる側面に影響を与えているという認識だけでは、到底十分とは言えない。中国の「奇跡の」経済発展が過去30年間にわたり大きな資産であったことは事実である。現在では徐々に高価格品も扱うようになっているが、中国は製品の販売市場や低価格品のサプライヤーとして魅力的であると同時に、その製造および物流のエコシステムは、モノを安く、早く作るという点ではどこにも負けない。そして政府の政策と補助金によって世界の工場として高い競争力を維持しており、警戒する国が増えている。中国は一帯一路構想(BRI)を通じた経済開発と投資の見返りに、自国の幅広い地政学的目標への暗黙または明白な支持を求め、途上国世界全体で(真の友好国ではないものの)パートナーを獲得してきた。

中国の経済統計・データの質と対象範囲は数十年にわたり向上・拡大し続けてきた。自由な議論が党により厳しく統制されている環境で、経済に関する議論が非常に率直かつ腹蔵なく繰り広げられる様は新鮮な驚きであった。政治的にセンシティブなトピックは検閲官や警察の注意を引いたが、経済に関する議論は、ありがたいことにこうした強引な干渉を受けずに済んだ。

現在でも、中国国内では多くのことが報じられている。最近の発表で小売りの売上低迷と産業投資の減少が明らかになったものの、これまでの困難な時期にも経済を支えてきた輸出セクターは好調である。一方、不動産市場は不況から抜け出せずにおり、このセクターの景気回復策も現在ほとんど検討されていない。このように多くのセクターが低調に陥っており、消費指標の低迷と失業率の上昇にそれが表れている。これらのデータを受けて、投資銀行は軒並み中国の成長予測を引き下げた。今年のGDP成長率目標の約5%も達成できないというのが大方の予想である。一方、若干ポジティブに解釈しうる動向もある。現在非常に低い水準からではあるものの、定年年齢の引き上げは高齢化社会の中国が間もなく直面する年金不足問題と社会給付コスト問題に対処しようとする第一歩とみなすこともできる。

中国のうわべだけしか見ていない人の目には、これが景気循環の通常の周期の一貫だと映るかもしれない。中国経済が成熟するにつれ、「好況に次ぐ好況」という絶頂期から、「好況と不況」という、より通常の周期に移行しつつあるというのだ。

水面下の動き

うわべにとらわれて、中国の景気減速を成熟経済の単なる「好況と不況」の波だと考えているとしたら、残念ながら大きな間違いである。水面下にはずっと厳しい状況が潜んでおり、以前の改革開放政策から中国がどれだけ逸脱しているかがたびたび垣間見える。

このコラムの読者は、習近平氏が鄧小平時代の実際的な改革開放路線の根本的な転換をいかに図ったかを十二分に知ることになる。習近平政権前にすべてが順調に進んでいたというわけではない。中国は多くの問題を抱えており、それはすべて文書で十分に裏付けられているが、少なくとも経済分野の議論はかなりオープンであった。政府が何をすべきかに関する議論でさえ、オープンかつ活発に行われた。学界であれ、実業界であれ、規制当局や政府機関であれ、国内外を問わず、さまざまなフォーラムで意見を交換し、議論し、共感し、交流して、経済改革を推進しようとしていた。今ではそうした時代は過去のものとなった。国境を越えた交流はますます難しくなり、海外の相手との接触を減らした国内機関が多く、シンクタンクが閉鎖される中、国内の自由な声をオンラインで、あるいは時に物理的な方法で発信する機会を奪われることが増えている。

一連の経済データの公表停止は長年にわたり続けられてきた。今年に入り注目を集めたのは、若者の失業データの公表停止である。今週も、香港コネクト・プログラムを通じた中国A株の海外における売買に関するリアルタイムデータの提供が停止された。これほど近視眼的でばかげた規制当局の対応があるだろうか。中国市場を世界に開いたコネクト・プログラムは大きな成功を収めているが、国内投資家がこうしたデータを注視しすぎていると中国本土の幹部が恐れをなし、開示から約10年でデータ提供が停止された。それに伴い海外ファンドが中国市場から撤退したことは別に驚く話ではない。実際のところ、多くのポートフォリオ投資家や金融投資家にとって、中国は投資に適さない国になったのである。

最高幹部が実際に何を知っており、どのようなニュースを読み、誰の助けを借りて自らの意見をまとめているのかは、推測の域を出ないことが多い。最高幹部は一般公開されているものより質の高いデータにアクセスできると信じられている。そうでなければ話にならない。また、選り抜きの専門家が招集され、国務院のメンバーに忌憚のない状況説明を行うことも慣例になっているが、中国国内から漏れ伝わるエピソードを聞くと、こうした状況説明は幹部の情報収集の一貫として続いているものの、形式的なものになり、習氏が聞きたいことをそのまま言うだけになっていることが伺える。そのため、経済支援策や不動産市場危機への対処、消費刺激策の拡充を政府がなぜ行わないのか疑問に思う人は、習氏が国内で起きていることをきちんと理解しているのか、強く疑問視することになるはずだ。

では、どうしてそうなったのか。そのシナリオは2つだが、いずれもまったく好ましいものではない。1つは、習氏と側近が国内で起きていることを単に知らされていないため、対応が必要だとは感じていない。もう1つは、状況がいかに厳しいかを知らされてはいるものの、どのように対応していいか分からない。あるいは強い経済の維持、つまり大学を卒業した何百万人もの若者を雇用したり、不動産市場で貯蓄を搾取された何千万人もの中産階級の労働者や定年退職者を支援したりするための施策を、もはや重視していないというものだ。

鳴り止まぬ警鐘

中国発の最近の2つのエピソードから、現状がいかに懸念すべきものであるのかが分かる。そのうちの1つは中国の投資銀行「華興資本チャイナ・ルネッサンス)」に関するもので、もう1つは中国の輸出経済の規模を隠すことを意図した、誤解を与えるようなデータ分類に関わるものである。

華興資本の創業者、包凡氏は2023年2月、テクノロジーセクターのさまざまな取引と資金調達に関する捜査に協力するため中国当局に身柄を拘束された。包氏は、拘束をまだ解かれておらず、同社の会長兼最高経営責任者(CEO)の職を辞任することを余儀なくされ、家族や弁護士にすら連絡を取れずにいる。一方、同社は昨年10月に7,800万元を国に支払うよう命じられたが、その理由をいまだに知らされていない。この事実は、会計監査当局が香港の証券取引所の年次報告書でこの支払いを分類できていないことから明るみに出た。

企業の創業者が「音信不通」になり、法的手段が講じられることなくこれだけ長期間身柄を拘束されること自体がすでに十分憂慮すべき事態であるが、明白な理由のない支払い命令は、こうした話に慣れ切った懐疑的な中国ウォッチャーにとってすら驚きだ。中国での賄賂や汚職の横行は耳新しいことではないとはいえ、当局はもはやなりふり構わず、自らの不正行為を隠そうという気さえないようだ。習氏が10年以上繰り広げてきた反腐敗キャンペーンの結果がこれである。仮に、金銭支払いをめぐる世界的な報道の結果、当局が釈明したとしても、中国のイメージダウンは免れない。

今も続く包凡氏の身柄拘束は、金融業界に対する締め付けと脅しの中でも特に注目を集めるものだが、ブルームバーグは今週、中堅の銀行やブローカーですらパスポートの提出を求められており、海外渡航が逐一管理されていると報じた。

中国が輸出大国であることは間違いない。中国の輸出と輸入は、沿岸部から内陸部へと波及する経済発展を促進する大きな触媒の働きをしてきた。だが、中国の補助金とダンピング(不当廉売)を警戒する国が増えるにつれ、中国の貿易黒字問題は、経済摩擦だけでなく大きな政治摩擦の原因になっている。IMFが先ごろ発表した報告書(報告書4、付属文書7)には、中国当局は2022年以降、「工場を持たない製造(factoryless manufacturing)」という概念を掲げ、実質的に貿易黒字を減らしてきたと記されている。データを改ざんして黒字幅を縮小する中国の意図的な企てのように見えるが、こうした詐欺的手法をきちんと指摘しないIMFにも問題があるように思える。

輸出入とは、国境を越えたモノの移動である。日本で製造され米国で販売された自動車は、日本の輸出品であり、米国の輸入品である。それにもかかわらず、中国は中国で製造され、中国で販売されたモノを輸出品と輸入品として記録してきた。架空のシナリオを例に説明する。米国に本拠を置くHappy Jeans社が、中国に本拠を置くWe Make Jeans 社に、1本5ドルで100万本のジーンズを発注する。この中国のメーカーはその後、Happy Jeans社の上海倉庫に100万本のジーンズを納入した。中国当局はこれを500万米ドルの輸出として記録する。Happy Jeans社はその後、このジーンズを自社ブランド名で、中国全土において1本10ドルで販売し、1,000万ドルの売上を上げる。これは、1,000万ドルの輸入として記録される。その結果、モノが一切、国境を越えて移動していないにもかかわらず、中国の貿易黒字幅は500万ドル縮小する。これは、経済的観点から言えば「ごまかし」であるが、政治的な面で、貿易大国の中国が自国産業に及ぼす影響を懸念する欧米とグローバルサウスの国々からの圧力を軽減できる。

奇跡の終焉 

中国でビジネスをすることは決して簡単ではなかった。常に汚職行為に悩まされ、中国共産党の虚言や「話半分」が蔓延し、あるビジネスをある方法で行うにあたって、当局からとがめられさえしなければ良いというグレーゾーンが多かった。公平な競争の場と明確なルールがあると思ってやって来たビジネスパーソンは、速やかに順応する必要があった。中国にビジネスチャンスが豊富にあったからだ。中国は当面の間、世界の工場としての立場を維持し、モノを作り消費する中国の力が消滅することはないが、先の例が示すように、極めて専断的で、時に人の目を意図的に欺こうとする政権への警鐘が鳴り響いている。彼らは経済の実態を部外者の目から隠しているが、おそらく自らもほんの一部しか課題を把握していないだろう。

経済の現実的問題に関する議論はもはや求められていない。政府に消費刺激策を求める人たちは、家計消費を低く抑えることこそが、国が支持するモデルだと知らないのだ。各世帯が経済活動で生まれる富をより多く得られるようにならなければ消費は上向かないが、中国では富の分配と権力の分配は切っても切り離せない。そして習氏は権力を分配するのではなく、自分の下に集結させることを望んでいる。

中国は、ビジネスに開かれた国ではない。国有企業改革に関して最近示された解説は、忘れ去られた古代宗教の呪文のように聞こえた。国有セクターで進められている改革で注目すべきものはなく、江沢民時代に大ナタが振るわれた困難を伴う改革とはまるで比べものにならない。習近平政権は内向き姿勢を強め、自給自足をスローガンに掲げており、外国人を信頼すべき相手ではなく潜在的なスパイとみなしている。

中国経済は崩壊しつつあるのか。答えはノーであり、今後も崩壊することはないだろう。将来待ち受けるのはじわじわと続く衰退であり、数が減る一方の経済データからそれが垣間見える。今後は(国がそれを認めれば、の話であるが)中国の優秀な人材の海外流出が増え、彼らの資産も一緒に流出する。今後30年間の経済見通しはさほど悲観的なものではないが、政治を変えずして経済を変えることはできないだろう。

フレイザー・ハウイー(Howie, Fraser)|アナリスト。ケンブリッジ大学で物理を専攻し、北京語言文化大学で中国語を学んだのち、20年以上にわたりアジア株を中心に取引と分析、執筆活動を行う。この間、香港、北京、シンガポールでベアリングス銀行、バンカース・トラスト、モルガン・スタンレー、中国国際金融(CICC)に勤務。2003年から2012年まではフランス系証券会社のCLSAアジア・パシフィック・マーケッツ(シンガポール)で上場派生商品と疑似ストックオプション担当の代表取締役を務めた。「エコノミスト」誌2011年ブック・オブ・ザ・イヤーを受賞し、ブルームバーグのビジネス書トップ10に選ばれた“Red Capitalism : The Fragile Financial Foundations of China's Extraordinary Rise”(赤い資本主義:中国の並外れた成長と脆弱な金融基盤)をはじめ、3冊の共著書がある。「ウォール・ストリート・ジャーナル」、「フォーリン・ポリシー」、「チャイナ・エコノミック・クォータリー」、「日経アジアレビュー」に定期的に寄稿するほか、CNBC、ブルームバーグ、BBCにコメンテーターとして頻繫に登場している。 // Fraser Howie is co-author of three books on the Chinese financial system, Red Capitalism: The Fragile Financial Foundations of China’s Extraordinary Rise (named a Book of the Year 2011 by The Economist magazine and one of the top ten business books of the year by Bloomberg), Privatizing China: Inside China’s Stock Markets and “To Get Rich is Glorious” China’s Stock Market in the ‘80s and ‘90s. He studied Natural Sciences (Physics) at Cambridge University and Chinese at Beijing Language and Culture University and for over twenty years has been trading, analyzing and writing about Asian stock markets. During that time he has worked in Hong Kong Beijing and Singapore. He has worked for Baring Securities, Bankers Trust, Morgan Stanley, CICC and from 2003 to 2012 he worked at CLSA as a Managing Director in the Listed Derivatives and Synthetic Equity department. His work has been published in the Wall Street Journal, Foreign Policy, China Economic Quarterly and the Nikkei Asian Review, and is a regular commentator on CNBC, Bloomberg and the BBC.