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中国軍は台湾包囲実弾軍事演習と同時に「上陸演習」も実施していた
グーグルマップを用いて筆者作成
グーグルマップを用いて筆者作成

台湾包囲実弾軍事演習と同時に、中国軍は大連と山東省で上陸演習と思われる実弾訓練を実施していた。台湾に上陸すれば戦争になるので、それを避けるために他の場所で上陸演習を同時進行させたと解釈できる。

◆北方2ヵ所における同時軍事演習に関する警告

8月6日、中国共産党機関紙「人民日報」は中国式ツイートであるウェイボー(微博)で<航行警告!黄海南部で10日間連続の実弾射撃>という警告を発した。

それによれば、山東省連雲港海事局が「8月6日から8月15日の間、毎日8時から18時まで黄海南部の一部海域で実弾射撃を行うので、立ち入りを禁止する」という航行警告を発布したとのこと。

一方、同じ8月6日、中国共産党が管轄する中央テレビ局「軍事」チャンネルが、<航行警告!渤海海域では8日から1ヵ月間、軍事任務を執行する>という通告を出したと報道した。

その報道は中国海事局ウェブサイトの情報に基づくもので、そこには「大連海事局は、8月8日の0:00から9月8日の24:00まで、渤海の一部の海域で軍事任務を執行するため、当該区域への立ち入りを禁止するという航行警告を発した」と書いてある。

◆北方2ヵ所での軍事演習は「(台湾)上陸軍事演習」に相当

山東省連雲港あるいは大連港と言っても、具体的にどこに位置しているのか、ピンとこない可能性があるので、それを図示すべくグーグルマップを用いて工夫してみた。以下に示す赤い「×」印がその2カ所だ。

筆者作成

一見、何の関係もないように見えるかもしれないが、北方2カ所での軍事訓練は、まさに台湾を包囲する実弾軍事演習を実行していたときの8月6日に発表され、山東省連雲港ではその日から実施され、遼寧省の大連では8日から実施されている。

つまり、何の関係もないような軍事演習が、台湾包囲実弾軍事演習では絶対に実施できない「上陸演習」に絞られていたことを見逃してはならない。

それを明らかにするために、もう一つの詳細情報地図を以下に示す。

筆者作成

大連と連雲港における軍事演習の場所を、グーグルマップを用いて詳細に描いてみると、両方とも海岸近くであることが見て取れる。

これは何を意味するかというと、「上陸演習」を実施しているということが考えられるのである。

台湾包囲実弾軍事演習では、決して上陸は許されない。

しかし、上陸以外の実弾軍事演習を、台湾を包囲しながら断行し、同時に「上陸演習」を「上陸が許される大陸本土」で行えば、「演習」ではなく、「実戦」になった時には、こうして「上陸を断行する」のだということを、中国全土の実戦体制演習として示すことが可能になるのである。

このことに注目する人はあまりいないようだが、実はこれこそは絶対に「見逃してはならない重要なポイントである」と筆者は判断する。

◆複数個所同時演習は、米軍に中国軍の臨機応変性を見せる目的も

このように同時期に複数カ所で軍事演習をして見せる目的は、実はほかにもある。

それは、戦う相手は必ずしも台湾軍だけではなく、米軍や、場合によっては「日本の自衛隊」とも戦う可能性が出てくるので、多国籍軍に対して中国全土で対応できることを日米に示しているものと解釈できるのである。

中国の南海戦略態勢感知計画というシンクタンクではアメリカの空母レーガン号の航行を追跡している。その一例をこちらの情報に基づいて図示すると以下のようになる。

中国のネットにあるレーガン号の行動路線図を筆者が日本語訳

このことからも、同時複数カ所での演習は、多国籍軍への対応に関する準備態勢も整っていることを国内外に示すためのものであるという解釈も成り立つ。

本来、8月7日に終了するはずだった台湾包囲実弾軍事演習は今もなお継続されており、約束が違うと誰でもが疑問に思うが、北方2ヵ所での上陸軍事演習と併せて考えると、中国なりの理屈と計算があることに気づく。

継続に関しては、別途、考察を試みることとする。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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