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岸田総裁誕生に対する中国の反応ー3Aを分析
2021自民党新総裁に選出された岸田文雄氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
2021自民党新総裁に選出された岸田文雄氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

岸田総裁誕生に中国のメディアは大賑わい。中国共産党系の「環球網」は1日で10本近くも発信し、中央テレビ局CCTVも特集を組んだ。中には「岸田の背後には3Aがいる」という報道さえある。

◆環球網1日10本ほど発信、CCTVは特集番組

 中国共産党機関紙「人民日報」傘下の環球時報電子版の「環境網」は、日本で岸田文雄氏の当選が決まるとすぐ、第一報を出した。それをじっくり読む間もなく、すぐさま第二報、第三報・・・と続いたので、先ずはその時間と見出しだけでもご紹介したい。

第一報:09-29 14:19 <「反中こそが最優先」と言った岸田文雄が日本の新首相に就任、専門家:政権発足後、必ずしも極右路線を取るとは限らない>

第二報:09-29 15:23 <岸田文雄が自民党新総裁に選出され、第100代内閣総理大臣に就任する、中国の反応>

第三報:09-29 15:39 <岸田文雄の当選挨拶にライバルの高市早苗が“サプライズ”登場、米メディア:安倍は岸田政権に影響を与えるだろう>

第四報:09-29 15:40 <岸田文雄って誰? 日本の首相となった後、「安倍の呪い」から逃れることができるのか否かがメディアの焦点>

第五報:09-29 17:13 <岸田文雄が自民党総裁に当選、韓国の青瓦台:日本新内閣と継続的に協力し、韓日関係を発展させたい>

第六報:09-29 17:34 <速報!岸田文雄、自民党総裁に当選後発言:3名の候補者が能力を発揮できるよう考慮する>

第七報:09-29 19:28 <岸田文雄、首相就任後に日本をさらなる対中強硬強化に変えていくことができるか?>

第八報:09-30 03:43 <低姿勢の”ハト派”岸田文雄が逆襲し日本の新首相に、日本メディア:対中政策とバランス外交が最大の課題>

第九報:09-30 03:44 <低姿勢の”ハト派”岸田文雄が逆襲し日本の新首相に、学者:“菅義偉過渡期政権の復刻版”である可能性が極めて大きい>

このコラムを書いている間にも、時々刻々増えているだろうが、今般、環球網に関して取り上げるのは一応ここまでとしておきたい。

中国の党および政府側メディアはほかにも新華社通信の電子版「新華網」が9月29日18:44:17に<岸田が新総裁に当選 執政は前途多難(課題多し)>という見出しで報道し、9月29日22:56:49には<日本自民党新総裁、団結して多くの課題に対応したいと述べた>と報道した。

また中央テレビ局CCTV新聞(文字版)は速報として9月29日 17:47に新総裁当選後の記者会見を報道し、9月30日のお昼のニュースでは、12:27~12:37の間、10分間にわたる特番を組んだ。

中国は、なぜ日本の一政党の総裁選にここまで注目するのか。

それは取りも直さず、米中覇権競争の中にあって、日本がどのような対中政策に出るかは、中国の今後の国際社会におけるパワーバランスに大きな影響を与えるからだ。特にアメリカにより対中制裁がなされている今、日本との技術提携や日本との交易は中国に多大なメリットをもたらす。

さらに日米豪印4ヵ国枠組みQUAD(クワッド)や米英豪軍事同盟AUKUS(オーカス)などにより、アメリカは対中包囲網を形成しようと躍起になっている。

まして来年は日中国交正常化50周年記念に当たる。安倍元首相が国賓として中国に招かれた返礼として習近平国家主席を同じく国賓として日本に招く約束をしている。コロナの流行でペンディングになったままだが、それを来年には必ず果たしてもらわないと困ると習近平は思っているだろう。

これら複雑な要因が絡み、日本の政権のゆくえが気になってならないものと判断される。

◆中国の党および政府側メディアの「見出し」以外の補足説明

これら多くの情報は「見出し」を見ただけで、おおよそ何が書いてあるか想像がつくとは思うが、内容的に何を語っているのかに関して「見出し」以外の補足説明を若干行いたい(全てを翻訳したら軽く2万字は超えるので概要を抽出する)。

  1. 新内閣の外交政策は基本的には何も変わらない。日中関係がさらに悪化することはないだろう。
  2. 岸田は選挙期間中、中国関連の問題に強硬な態度で臨んだ。 公式Twitterアカウントで中国を攻撃し、「中国が権威主義的になっていること、日本は民主主義や人権などの基本的な価値を大切にする国であること」を宣言し、「台湾海峡の安定、香港の民主化、ウイグル人の人権などの問題に断固として取り組んでいく」と述べた。 また、「尖閣諸島は日本固有の領土であり、それに関する政策を出す」と主張した。
  3. しかし、これらは全て総裁選に勝つための方便であって、菅内閣でウイグル人権問題などに関するマグニツキー法は国会の議題にさえならなかった。菅内閣と基本的に変わらない岸田政権は、さらなる対中強硬策を取ることはないだろう。
  4. 総裁選の議論では、安保やエネルギー問題、年金などの社会保障問題が大きく取り上げられたが、実は誰でも知っているのは、国民の最大の関心事は「コロナにより崩壊しかけている日本経済を、どのようにして立て直し、かつコロナのリバウンドが起きないような対策ができるか」ということに尽きる。
  5. 日本の最大の貿易国は中国だ。だから岸田は如何にして国民から批判されないようにしながら中国との安定的な関係を築けるかを模索するだろう。日中関係では「首脳同士の会話が必要だ」と、河野以外にも、岸田も言っている。
  6. いま日本の新規コロナ感染者の数が減少傾向にあるので、コロナ対策が大きな争点になっていないが、もしコロナ防疫に成功せず、日本経済復興にも貢献できなかったとすれば自民党は来年夏の参議院選挙で国民の審判を受けるだろうから、対中強硬策などより、コロナ感染を抑えることと経済復興に成功することこそが、本当は最大の関心事のはずだ。そのためには中国は欠かせないパートナーとなる。
  7. 対中強硬策など、実際には強化しないので、心配には及ばない。

◆共産党系地方メディアが「岸田の後ろには3Aがいる」と指摘

9月29日付の中国共産党上海市委員会直属の上海報行集団傘下にある新聞「新民晩報」は<岸田文雄が日本の政権を掌握する:安倍の“門下生”はどのようにして“天衣無縫”になれるのか?>という見出しで、岸田氏の背後には「3A(安倍、麻生、甘利)」がいると報道している。

「天衣無縫」は9月18日の自民党総裁選公開討論会で、4候補が選挙戦に臨む自身の心情や信念を揮毫したときに岸田氏が「天衣無縫」と書いたことを指している。果たして「天衣無縫」のように、自然のまま飾ることなく、美しく戦ったのかということを言いたいために、見出しにこの言葉を使ったようだ。

というのは、この報道では、岸田氏当選の「からくり」を以下のように説明している。

――日本の安倍前首相、麻生太郎副首相兼財務大臣および甘利元自民党政調会長(現税制調査会会長)の3人の「A(ア)」という音から始まる体制、すなわち「3A」体制が、長年にわたって日本の政局を操ってきた。温和で人当たりは良いが決断力に欠ける岸田が日本の首相に就任すれば、「3A」政権の傀儡首相となり果てる可能性は非常に大きい。“安規岸随”という状況が出現する可能性は極めて大きいのである。

ここにある“安規岸随”というのは「安倍が既定路線を敷いて、岸田がそれに従う」という意味で、中国語では「安」も「岸」も「アン」と発音するため語呂合わせのように「安規岸随(アン・グイ・アン・スイ)」という言葉を創ったようだ。

9月30日夜、それは現実となって現れた。

岸田新総裁は自民党内の役員人事に関して、9月30日、「麻生氏(81歳)を副総裁に」、「甘利氏(72歳)を幹事長に」起用する方針を固めた。

岸田氏を決選投票で勝たせたのは安倍前首相で、第一回投票で高市氏に投票された票を全て岸田氏に回す約束が成されたからだ。

したがって「3A」体制で動いたのはまちがいのないことだろう。

“安規岸随”とは言い得て妙なりと言わざるを得ない。

それにしても、あれだけ岸田総裁誕生に貢献した高市氏に、党の政調会長の職位しか与えないというのは納得がいかない。たとえば官房長官に採用して毎日内外記者の前面に出る存在であれば、「刷新された」という印象を国民に与えるかもしれないが、麻生氏などの何年間も見続けてきた「お馴染みの顔」「自民党の顔」になり続けていくのだとすれば、中国の分析(菅内閣の復刻版)が当たっていることになり、なんとも不愉快でならない。

「高市氏がダメなら、せめて岸田氏に」と期待した国民は、裏切られた気持ちになるのではないかと懸念する。派閥の力学は隠然と生きている。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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