一、中国のEV産業発展の歩みは、世界の国々と比べても決して遅れをとっていない。誇るべき成果もある。しかし“今後の成否の鍵を握るのは補助金”
2009年1月、中国科学技術部、財政部、国家発展改革委員会及び工信部が合同で“十城千輛(=10都市1000台の意)”計画を始動。財政補助を通じて、およそ3年間のうちに、毎年10都市を対象とし、1都市につき1000台の新燃料車のモデル走行を展開するこの計画は、大中都市の公共交通、タクシー、公務、行政、郵政等の分野に及んだ。2010年、財政部は専用の財政資金の手配を開始、新燃料車の生産に対し財政補助を行い、中国新燃料車の急速な発展の波を起こした。2016年までに、1000億人民元近い資金が中央財政から関連メーカーに注入された。2017年、2018年の中央財政補助も含め、さらに地方政府の補助まで加えれば、中国が電気自動車(EV)産業の発展促進のために支出した資金規模は、およそ2000億人民元前後である。一方、フォルクスワーゲン、トヨタ、BBA(ベンツ、BMW、アウディ)、ジェネラルモーターズ等の多国籍自動車メーカーは、2018年になってようやく本格的にEVへの転向を相次いで打ち出した。2018年の全世界EVメーカー販売台数ランキングTOP10には、中国企業の比亜迪(BYD)、北汽(BAW)、栄威(Roewe)、奇瑞(Chery)の4社がランクイン。比亜迪(BYD)と北汽(BAW)は2位、3位で、それぞれ市場シェアの11%、8%を占めた。
しかしながら、好調は長続きするものではなく、急功近利が招いた必然的結果を中国EV産業の表面的な繁栄で取り繕うことはできなかった。2019年7月、政府補助の大幅な縮小に伴い、EV販売台数が急落した。まさにその年に、既に16年間の研究開発経験を積んでいたテスラが中国に進出し、その後1年も経たないうちに、販売台数を36.78万台にまで伸ばし、同期比で50%増、そのうちModel 3一車種のみの販売台数だけでも30万台に達した。EV Salesデータによれば、2019年3月、欧州のEV登録台数は59,741台の過去最高を記録し、前年同期比で38%増となった。2019年の全世界新燃料車販売台数は約221万台、同期比10%増、販売台数第1位はテスラ、幸い2位以下に中国の比亜迪、北汽新能源、上汽集団が続いた。乗聯会(乗用車市場信息聯席会、CPCA)の統計データによると、2020年12月のテスラModel 3車種の中国販売は23,804台で、テスラの単一車種月間販売台数の過去最高を記録した。同時に、2020年通年のModel 3車種累計販売台数は137,459台、中国新燃料車販売台数ランキングのトップとなった。テスラはイワシの群れを活性化させるナマズとなるのか、それともイワシの群れを死に追い込むサメとなるのか。ステラに比べればまだまだ未熟な多くの中国EVメーカーにとって、難しい選択と生き残りをかけたチャレンジがつきつけられた。
二、中国EVの起死回生戦略
第一に、中国は政府の補助金戦略を見直し、生産者側への補助から消費者側への補助に変更し、中国EVメーカーが国の庇護から離れ、自力で成長していけるように検討すべきである。
第二に、巨額資金を開発者側に投じ、EVの車両システムプラットフォーム、燃料電池、モーター及び電気制御系統、とりわけ燃料電池のチップに注力することだ。テスラの首尾一貫した技術・特許に対する重視と共有を学び、常に世界最先端水準にある日本のハイブリッド技術、水素燃料技術を支えている日本の韜光養晦(≒能ある鷹は爪を隠す)の精神、次世代の新燃料技術への専心、これらを見習う。
第三に、高級車メーカーによる多国籍合弁協力の途を模索する。中国は既に世界最大の新燃料車市場となり、成長力を欠いた2019年でさえ、通年の生産販売は依然120万台を超え(2019年の中国新燃料車の生産、販売台数はそれぞれ124.2万台と120.6万台、同期比それぞれ2.3%減と4.0%減。そのうち純EV生産台数は102万台、同期比3.4%増、販売は97.2万台、同期比1.2%減。プラグインハイブリッドカーの生産、販売台数はそれぞれ22.0万台と23.2万台、同期比それぞれ22.5%減と14.5%減。燃料電池車の生産、販売台数はそれぞれ2833台と2737台、同期比それぞれ85.5%増と79.2%増)、全世界でトップクラスにある。
海外の自動車メーカーも中国との合弁協力の重要性を認識している。巨大な市場需要こそがメーカー急成長の最大の原動力であり、市場がなければ、いかに優れた技術であれ宝の持ち腐れとなってしまう。テスラというナマズに攪乱されたおかげで、世界の老舗メーカーは揺さぶられ目を覚まし、続々とEVに転向している。一方、中国の自主ブランドもこれまでにないモチベーションと自信を持ち、海外の自動車メーカーと合弁協力するに相応しい力をつけた。2018年、長城(GWM)とBMWは、それぞれが50%の株を保有する光束合弁会社を正式に設立した。2020年、トヨタと比亜迪(BYD)が提携した。吉利(Geely)とベンツが合弁会社を設立、世界でスマートEVを生産する。自主ブランドが徐々に成長していく技術的自信が、従来の合弁モデルを打破し、新たな変革の只中において、中国EV産業の起死回生に無限の可能性をもたらす。
三、国の情勢に合わせ、中国EVは全方位的配置、高中低各所得者層の並行、立体的発展の途を進むことが必須
中国は人口が多く、社会階層の分化が顕著である。高所得者層の人口は少なく、限界消費性向は下がりつつある。低所得者総の人口が多いのだが、その限界消費性向は上がりつつある。中産階級の割合は政府の進める中産階級倍増計画に伴って徐々に高まっている。需要は全方位的なので、大衆消費財としての自動車産業は必ず全方位的、高中低、かつ立体的な配置であることが求められる。
第一に、中国で最も広大な3、4線都市と農村を押さえ、農民と都市の相対的に低所得な層をターゲットとし、彼らの生活に必需で、しかも彼らが負担可能な自動車を生産することである。中国広西柳州に位置し、上汽通用(SAIC-GM)傘下の五菱宏光MINI EVの2021年1月期EV販売台数3.7万台は、全て中国市場における販売台数であるが、テスラModel 3の2.2万台は全世界の市場における販売台数である。五菱宏光MINI EVが超人気車テスラModel 3を打ち負かし、新たな勝者となったこの事実は、低速電動モビリティ市場が想像を遥かに超える巨大市場であることを物語っている。乗聯会2021年の統計データによれば、宏光MINI EVの中国国内における販売台数は36,762台、国産Model 3は13,843台、つまり宏光MINI EVがModel 3の3倍を記録した。さらに顕著なのは、宏光MINI EVモデルの販売台数が、テスラ(15,484台)、蔚来(NIO)(7,225台)、理想(Li Auto)(5,379台)、小鵬(XPeng)(6,015台)の4メーカーの中国国内販売台数の合計よりも多いことで、このことから宏光MINI EVの中国における需要がいかに高いかを伺い知ることができる。
宏光MINI EVモデルのスペックは極めて低く、例えばエアバッグがなく、最低スペックモデルに至ってはエアコンもなく、航続距離はわずか120—170kmだ。それなのに大人気となった理由はただ一つ、すなわち価格が非常に安いことである。価格が人民元2.88—3.88万/台にまで下がるのであれば、他の問題は許容される。これが低所得者層の消費観念である。インドのタタ・モーターズ(TataMotors)の売れ行きが好調なのも同様の理由によるものである。これは経済学でいう“ロングテール理論”に合致する。価格が低くても数量が多く、市場シェアが高ければ、同じように利益を挙げられる。中国の情勢から策定された毛沢東の“農村から都市を包囲する”戦略にも合致する。関連データによると、中小都市では80年代生まれの層が小型純EVを購入する全体ユーザーの51%を占め、絶対的な主力層である。この層のユーザーは、家には既にガソリン車を1台所有しており、外出時の必要性から、価格と維持費がいずれも安い小型電動モビリティをもう1台増やしたいと考えている。宏光MINI EVはまさにこの層のユーザーのニーズに応えるものでで、客観的にみて少なからぬ電動自転車の潜在的顧客までも奪い取ると考えられる。これは、この層における消費のアップグレードの表れといえる。『新燃料車産業発展計画(2021—2035年)』によると、2025年までに、中国の新燃料車の新車販売台数は自動車全体の新車販売総台数の20%前後に達し、550万台となる。この目標を実現するためには、EVが高嶺の花ではなくなること、従来のガソリン車同様、高中低の異なる消費者層に細分化された市場を全て網羅することが必須である。同時に、都市と農村における充電スタンド、部品、修理、アフターサービス等の面で立体的・全方位的配置を進め、EV産業の急速な発展を支えることである。
第二に、ミドルクラスEV市場の開発を急ぐことである。宏光MINI EVが突如現れて一挙にトップに躍り出た後、EVは明確な二極化発展の傾向を呈してきた。テスラ、蔚来(NIO)、理想(Li Auto)、比亜迪(BYD)に代表されるミドル・ハイエンドのブランドと車種がある一方で、五菱宏光に代表されるEV入門者向けのモビリティがあるが、その中間のクラスのEVラインナップは寂しいもので、消費者が選択できる車種はとても少なく、国民の認知度が高いEVはほぼ無い。業界の専門家によれば、新車を製造するメーカーは、年販売台数が10万台を超えて初めて生き延びることができるという。中国のEV新勢力は、規模拡大において“任重くして道遠し”といえる。また、中国の中産階級層は数が少なすぎるため、準中産階級層、即ち相対的低所得者層のうち中産階級層への憧れが最も強く、中産階級層に最も近い層に焦点を合わせるべきである。中国でハイエンド路線を行くテスラと蔚来(NIO)も、より大衆市場に合ったミドルクラスEVを発売することにより、ターゲット市場のローエンド化を実現し、市場シェアと企業生産規模を拡大する計画を表明している。テスラと蔚来(NIO)のこれらの取り組みが企業自体にどのような影響をもたらすかに拘らず、業界という高い視座から観れば、ただでさえ定評のあるテスラと蔚来(NIO)が価格の更に安いEVを発売すれば、より多くの潜在ユーザーを惹きつけ、個人消費者のEVに対する認知度と受容度を高め、それにより大衆市場におけるEVの普及が進むことは必至だ。
第三に、テスラに攪乱されたおかげで、中国EVもハイエンド市場に向かって強力に進みつつある。目下、中国で最も高価な国産EV——紅旗E-HS9は、既に2020年12月4日に正式に発売され、販売価格は人民元55—75万元。この新しい車種は中大型準電動SUVに位置付けられ、紅旗が販売している車種中の旗艦車種である。その価格帯と豪華さは、補助金適用後の販売価格が人民元45—60.15万元である蔚来(NIO)ES8を上回り、中国国産EV販売価格の頂点にある。この車種は高級車として極度に差別化されており、長幅高がそれぞれ5209/2010/1731mm、ホイールベースは3110mmに達する。内装は3連ディスプレイのセンターコンソール設計を採用、ハイテク感に満ち溢れている。動力の面では、最大出力160kW(218馬力)と245kW(333馬力)の2つのグレードのモーターを搭載し、航続距離460kmと510kmの2種から選択できる。0-100km/h加速時間は僅か4.9s。迫力ある外観、豪華な内装、驚きのフォルム、パワフルな動力、ハイエンド市場とハイエンドユーザー層が注目する動力性能、内装、長さ、幅、高さ及びモダンなスペックは、いずれも非の打ちどころがない。特に強調すべきは、ハイエンド市場に進出する鍵となる中核主要技術で、EVにとってそれは即ち燃料電池、電気制御系統のチップと車両プラットフォームのアーキテクチャーである。紅旗E-HS9の航続距離は決して満足できるものではない。これも中国が今後注力して取り組み、優位な資源を集中させて、力強く突破しなければならない課題である。
(注:文中のデータ部分の出典は搜狐(Sohu)自動車チャンネル)
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