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茂木外相は王毅外相に、本当は何と言ったのか?
2020年11月に来日した王毅外相と茂木外相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

日本の報道によれば5日、茂木外相は相当に厳しいことを言ったことになっているが、中国の正式報道によればその逆で相当に中国寄りだ。来週の日米首脳会談の対中強硬本気度が問われる。

◆日本の外務省の報道

4月5日午後18時、茂木外相は、王毅外相(兼国務委員)と1時間半にわたって電話会談を行った。日本の外務省の報道によれば、概ね以下のようになっている。

  1. 両外相は、来年の日中国交正常化50周年に向けて幅広い分野で交流・対話が進むことを期待した。
  2. 茂木外相は中国海警による尖閣領海への侵入、中国海警法、南シナ海情勢、香港情勢及び新疆ウイグル自治区の人権状況について深刻な懸念を伝達し、具体的な行動を強く求めた。
  3. 両外相は、日中経済に関し、真に公平・公正かつ安定的なビジネス環境の構築を含め、引き続き議論していくことを確認した。
  4. 両外相は、北朝鮮情勢について非核化に向けた連携を確認するとともに、安保理決議の完全な履行の重要性について一致した。また、茂木外相から、拉致問題の早期解決に向けた理解と支持を求め、王毅外相から支持を得た。(引用は以上。)

少なくとも以上のことを言ったのは確かだろう。しかし他にも言ったことがあるはずで、それは日本にとって都合が良くないので書いてない。どの国も同様のことをするが、しかし相手国の報道を見ることによって本音が見えてくる。

◆中国の外交部の報道

では、中国外交部の正式報道を見てみよう。何を報道するかしないかは別として、正式報道には「言わなかったこと」は書けない。その意味で先ずは茂木外相が本当は何を言っているかを確認するのは重要なことだ。

一、日中は隣り合わせの国で、日中関係を安定的に発展させていくことは両国と地域および全世界にとって非常に重要だ。

二、日米同盟は決して特定の第三国に向けたものではなく、日本は中国との関係を非常に高度に重視しており、日中関係を安定的に発展させるという姿勢にいかなる変化もない。

三、日本は中国と常に意思疎通を保ち、対話を強化し、相互信頼を増進させ、意見の不一致点を穏当にコントロールし、来年の日中国交正常化50周年記念を共に慶賀するために力を合わせて良い雰囲気を作るように努力しなければならない。

四、日本は中国とのさまざまな領域における交流協力を強化したいと望んでおり、互いに東京五輪と北京冬季五輪がうまく行くことを支え合うために意思疎通を保って行きたい。(茂木外相の発言の概要は以上。)

 

もちろん日本は日本の都合の良いように発表し、中国は中国にとって都合がいいように発表するであろうことは基本であるとしても、外交部の正式報道には「相手が言ってないことを掲載する」ということは許されない。言ってないことが書いてあったら、すぐに反論するのが普通だろう。

したがって、茂木外相は、ここに書いてないことで日本の外務省ホームページに書いてあることも言ったのは確かだろうが、重要なのは中国外交部ホームページに書いてあるようなことを、本当は言っているということである。

実は筆者は明後日、ニューヨークのネットTVに生出演して「日本の対中強硬外交の本気度」に関して話さなければならない。

先方は「日中関係はどこまで悪化するのか」と聞いてきたが、「いやいや、悪化など・・・。そもそも日本は習近平を国賓として招くことをコロナを理由に延期はしても、中止するとは言ってないのですから」と、取り敢えず答えたが、ここに書いた一から四までの発言を見ても、どこにも「日中関係の悪化」などは窺(うかが)えない。

しかし日米「2+2」では中国を名指し批判しているので、「日本はどこまで対中強硬策を取れるのか」ということに、ニューヨークでは関心が集まっているらしい。

というのも、菅首相が16日にはバイデン大統領と対面で会談するので、「日本の対中強硬の本気度」を知りたいようだ。

そんな「本気度」など、日本にはまるでないことを知ると、先方はがっかりするだろうが、残念ながら、それが現実なので仕方がない。

◆菅首相は習近平国家主席に昨年の電話会談で何と言ったのか?

今般の日中外相会談で、王毅外相が茂木外相に「習近平主席が昨年、菅義偉首相と電話会談した際に達成した重要なコンセンサスを貫徹しなければならない」と強調していることが気になる。

菅首相は一体、習近平に何と言ったのか、おさらいしてみよう。

昨年9月25日、菅義偉氏が総理大臣に当選したのに対し、習近平は祝意の意味を込めて菅首相に電話をして会談を行った。

中国の新華社電の報道によれば、その会談で菅首相は概ね以下のように述べている。

  • 日本は非常に高く中国を重視し、日中関係を最も重要な両国関係の一つだとみなしている。
  • 日中関係を安定化させることは両国人民の利益に寄与するだけでなく全世界の平和と安定には不可欠のものだ。
  • 私は習主席との緊密な意思疎通を保ち続け、両国の経済貿易協力を強化することに貢献し、人文交流を深化させ、日中関係を新しい段階に引き上げていくことを推進したいと強く望んでいる。
  • 日本は中国と密接に意思疎通を行い、年内に区域の全面的な経済パートナーシップに関する締結を行い、日中韓の自由貿易区(FTA)を加速的に推進し、共同で地域の産業サプライチェーンの安定を維持したいと強く望んでいる。

(中国側が発表した菅首相の発言は以上。)

ずいぶんと友好的で日中友好ムード満載ではないか。

◆アメリカが関心を寄せる日本の「対中強硬」の本気度

先般、アメリカの国営放送である VOA(Voice of America)から取材を受け、日本の「対中強硬の本気度」に関して聞かれた。本気度も何も、日本の政権与党には極端な親中派の二階幹事長という強烈な力を持つ「ボス」がいて、基本的に日中友好路線からはみ出すことは許されないと回答した。安倍前内閣も菅内閣も同じように、この「強烈なボス」のコントロール下にあるので、どんなに表面上、アメリカの言うことを仕方なく聞いたとしても、本気で中国に強硬な態度で立ち向かっていく気など微塵もない。

アメリカ側に以下のグラフを見せたら「もう、言葉が出ない」と驚いていた。

対中投資新規企業数と外資実行額の変遷(1982-2020)

中国商務部データを筆者が編集したもの

これは天安門事件後の経済封鎖を日本が解除して天皇訪中(1992年10月)まで実現させたときの中国が受けた外資の支援と対中投資企業数の変動を表したものである。2020年までの中国商務部のデータ(2019年までの統計)と2021年に新たに単独に出た2020年のデータを合わせて筆者が新たに作成したものだ(出典は拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』)。

明らかに1992年末から1993年にかけて、まるで特異点のようなピークがあるのが見て取れる。

二階幹事長が圧倒的力を持つ現在の政権与党においては、対中姿勢は1992年の時と何ら変わりはない。それを見て取ったからこそ、中国は今年2月から海警法を実施し始めたのだ。それは1992年の領海法制定の時と日本の対中姿勢が同じであることを見透かされているからである。

菅総理の訪米では、ウイグルの人権侵害に対して日本が欧米と同じような対中制裁の枠内に入ってくるか否か、香港問題に関して日本が「遺憾」という言葉だけでなく実際行動に出るか否かなどが問われる。

海警法に関しても日本が最も差し迫った脅威にさらされているにもかかわらず他人ごとのように「遺憾である」という言葉だけで済ますのか、それとも習近平国賓来日拒否は言うに及ばず、北京五輪ボイコットのような「実際の行動に出られるか否か」が問われるのである。

日本国内で適当にウヤムヤにしながら逃げていくという文化はアメリカにはない。

今般王毅外相が日中外相電話会談を申し出てきたのは、16日に行われることになっている日米首脳会談で日本がどこまで「アメリカ寄りになるのか」に関して牽制するためであることは明らかだ。

菅首相の対応に注目したい。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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