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上海協力機構の未来の姿とは
上海協力機構首脳会議 中国・天津で開催(写真:新華社/アフロ)

※この論考は9月15日の<What Is the Future of the Shanghai Cooperation Organization>の翻訳です。

 

世界的に大きな注目を集める上海協力機構(SCO)だが、この組織の評価については観測筋の間で意見が分かれる。「漠然とした寄り合い」から「NATOのような軍事同盟」、ひいては「新たな国際連合」までと幅広い。前身の上海ファイブが1996年に結成(2001年にSCOが発足)されてから来年で30周年の節目を迎えるが、その目標と目的はいまだ定かではない。

天津(中国)で先日開催されたSCO首脳会議でも、掲げられた目的と実像の乖離というSCOの根本的問題が解決を見ることはなかった。

表向きの目的

SCO憲章によると、その主な目標は相互の信頼関係と友好関係の強化、政治・経済・文化面での協力推進、地域の平和と安全保障の共同維持などである。この公式文書にSCOの目的が明確に示されているとは言いがたい。

SCOはまた、加盟国に対する指針として「上海精神」を掲げている。しかし、これが実際に何を意味するのかは曖昧だ。中国の公式メディアでさえ、「『上海精神』については、それぞれ独自の解釈がある」ことを認めている。

SCOが具体的な成果として唯一挙げることができるのは、加盟国の総面積が世界の陸地の3分の1を占め、人口が世界全体のほぼ半分、GDPが世界全体の4分の1を占めているという印象的な統計データだけだ。ただし、こうした数字は例えば国の規模がその経済発展のスピードを証明しないのと同様に、SCOの有効性を示すものではない。

このように実際の機能が欠如しているにもかかわらず、SCOは拡大を続けている。この10年間にインド、パキスタン、イラン、ベラルーシが新たに加盟し、14カ国が「対話パートナー国」となった。そこで次のような疑問が生じる。「得るものが乏しい組織に加盟するのはなぜだろうか?」

実際の目的

SCOがまったく機能していないというわけではない。1996年に上海ファイブとして発足したときには、中国と旧ソビエト諸国間の国境紛争を解決して大きな成果をあげた。

その後は解散せず、ソ連崩壊後の中露間の地域協力プラットフォームへと移行した。ところが両国が共有ビジョンで合意できず、以来SCOは目的を模索し続けている。

SCO首脳会議では数多くの声明や提案がなされるが、それが実際の変化や取り組みにつながることは稀である。また同組織はSCOビジネス評議会や銀行間コンソーシアムなどさまざまな機関を設置してきたが、その公式ウェブサイトにおいてさえ、具体的なプロジェクトの存在や加盟国の法制度改正についてほとんど確認できない。実際のところ、SCOとその機関の主な活動はイベントの主催である。実際に活動をしている組織は、合同軍事演習を実施しているSCO地域反テロ機構(RATS)しかない。

SCOの価値は、各国がお互いの国内政治問題を指摘し合うことなく定期的に会議を開催できる「安全な場」という役割にある。この「イベント管理」が、そうでなければ交流の機会がないかもしれない政府機関間の架け橋を築くのに役立っている。

隠れた目的

SCOには独自のアジェンダがない。これは大規模な国際機関の多くに共通することだが、SCOの場合、加盟国それぞれの立場を反映している面が大きい。多様な国が加盟し、重要な問題で意見が一致しないことが多いため、公式な声明を出す際には細心の注意を払わなければならない。こうした慎重な姿勢が実質的に、外交の仲介者としてのSCOの機能を麻痺させている。

とはいえ、これが各国が自国の利益のためにこの組織を利用しようとする妨げにはならない。

例えばロシアは、外交政策上の目論見のためにSCOの後押しを得ることを幾度となく望んできた。2008年には当時のドミトリー・メドヴェージェフ大統領が南オセチアの独立問題を提起し、2014年のロシアのアジェンダにはクリミアの承認が盛り込まれ、2022年にはロシア政府がウクライナ戦争に関する国連決議の投票におけるSCOとしての統一的な立場を求めた。またロシア政府はSCOの新たなミッションに自らのイデオロギー的ビジョンを反映させようと定期的に試みているが、そのイデオロギーは今のところ他の加盟国が優先する外交政策と合致していない。2022年のSCO首脳会議はサマルカンドで開催されたが、ウズベキスタン政府はその開催前に、「SCOがNATOに対するロシアの対抗手段だ」とロシアのジャーナリストが主張したことに異議を唱えた

中国は自国のディスコースパワー(話語権)の強化にSCOを利用しており、それはこの組織が採択した共同文書に見てとれる。これらの文書には、「運命共同体」など中国共産党の文書に由来する言葉が並ぶ。中国政府はかつてSCOを、中央アジアで自らの野望を推し進めるための実務機関にしようとしたものの、開発銀行や自由貿易圏の創設など主要なイニシアチブをロシアにことごとく妨害された。その結果、中国はSCO発展への関心を失い、中央アジア各国との二国間関係を個別に構築する独自路線へ移行した。「C5プラス中国」体制を構築して地域での存在感を示し、「一帯一路」構想をはじめとするグローバルな取り組み(開発、安全保障、文明分野)に中央アジアを取り込んだ。

イランとベラルーシ、そしてオブザーバー国のアフガニスタンは、自国が国際政治に関与しており、国際的に孤立していないことを知らしめる手段としてSCOへの参加を利用し、インドは西側諸国と交渉する上で自国の立場を強化する代替プラットフォームとしてSCOを位置付けている。

中央アジア諸国がSCOを重視する理由はいくつかある。まず、これらの国々は創設国に名を連ねているが、彼らが創設に関わった主要な国際組織は他にはあまりない。次に、中央アジアを中心としたユーラシア地域をカバーするSCOは、貴重な地政学的プラットフォームである。3番目に様々な国の異なる政府レベルのリーダーと関係を構築できるというSCOならではの特徴がある。

今後の目的

SCOの未来は、強固な軍事・経済圏としてではなく、多国間交渉のプラットフォームとしての役割を拡大・強化し続けていくものになるだろう。加盟しても重大な責任を課されず、その国独自の目標を追求できるため、参加する国は増え続けている。

SCOが持つ曖昧さは弱点ではなく、むしろ、現代国際関係における幅広い傾向を反映した重要な特徴である。他国の行動に対する責任を―たとえその国との関係が緊密であったとしても―負うことを避けるため、強固な同盟関係を忌避する国が増えている。豪印米日間のQUAD(クアッド)や豪英米間のAUKUS(オーカス)など米国の新たなイニシアチブにはもはや、一つの締約国への攻撃を全締約国への攻撃とみなすとするNATO条約第5条のような厳格なコミットメントは定められていない。

この柔軟性こそが、SCOを戦略的資産たらしめている。立役者である中国は、SCOの活動を必要以上に規定することを望んでいない。地政学的環境が常に変化する状況において、それが制約となりかねないからだ。SCOは、ニーズの変化に応じてその目的を定める、未来の同盟関係のひな形とみなすことができる。その柔軟性により、関係性を保ちつつ、新たな加盟国を呼び込んでいるのであり、SCOを現代の国際関係においていささか異色の組織としている。

テムール・ウマロフ。ウズベキスタン出身。中国と中央アジア問題研究の専門家。カーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのフェローでもあります。 カーネギー清華青年大使プログラムおよびカーネギー中央アジア未来プログラムの卒業生。国家経済行政ロシア大統領府アカデミー(RANEPA)で中国研究の学士号を、モスクワ国際関係大学(MGIMO、ロシア外務省付属の公立大学)で国際関係の修士号を、北京対外経済貿易大学(UIBE)で世界経済学の修士号を取得。 Temur Umarov. A native of Uzbekistan, he is an expert on China and Central Asia, and a fellow at Carnegie Russia Eurasia Center. He is an alumnus of the Carnegie-Tsinghua Young Ambassadors and the Carnegie Central Asian Futures programs. Temur holds a BA in China Studies from the Russian Presidential Academy of National Economy and Public Administration (RANEPA), an MA in International Relations from Moscow State Institute of International Relations (MGIMO), and an MA in World Economics from Beijing University of International Business and Economics (UIBE).