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中国、台湾総統「新二国論」に激しい抗議 日台関係に危機をもたらす石破発言
「双十節」式典で演説する台湾の頼清徳総統(写真:ロイター/アフロ)
「双十節」式典で演説する台湾の頼清徳総統(写真:ロイター/アフロ)

台湾の頼清徳総統は10月10日の「双十節」(建国記念日)式典演説で「中国には台湾を代表する権利はない」などと表明した。中国(大陸)はこれを「新二国論」として激しい抗議を展開している。台湾内でも国民党の馬英九元総統は事前に公表されていた頼清徳総統の主張に反対し、建国記念日祭典の出席を拒絶した。

そのような中、石破首相が李強首相との会談で「台湾問題は日中共同声明を堅持」(=独立反対)と明言したことが台湾で「日台関係に危機をもたらす」と危険視されている。

中文圏のネット民の間には「石破茂に対する不信感」広がっている。

◆双十節における頼清徳総統の演説

1911年10月10日に辛亥革命が勃発し1912年1月1日に「中華民国」が誕生するが、台湾はこの辛亥革命勃発の日を今も「中華民国」の建国記念日として祝賀する。「10」が二つあることから「双十節」とも呼ぶ。

今年、113回目の「双十節」式典において、頼清徳総統が総統就任後初めての「双十節」演説で、「中華人民共和国(中国)には台湾を代表する権利はない」と表明した。

それ以外にも両岸関係(中台関係)に関して概ね以下のような発言をしている。

 ●中華民国はかつて国際社会から追放されたが、台湾国民は一度も自国を放棄したことはない。

 ●現在、中華民国は台湾本島・澎湖島・金門馬祖に根を下ろしており、中華人民共和国には属しておらず、この地では民主主義と自由が栄えている。

 ●台湾は国家主権を堅持しており、中国による侵犯と併合を許さない。(以上)

頼清徳総統は10月5日に開催された「双十節」記念ベントでも「中華人民共和国は中華民国の祖国になり得ない」と述べており、その理由として中華人民共和国は10月1日に75歳の誕生日を迎えたばかりだが、数日後に中華民国は113歳の誕生日を迎える」ことを挙げた。すなわち、中華人民共和国の方が若いのだから、「祖国」と言うのなら、「中華人民共和国の祖国が中華民国」と言えると皮肉ったわけだ。

そうでなくとも頼清徳総統は今年5月の就任演説で、「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しない」と述べている。

したがって「双十節」式典で、頼清徳総統が何を言うかは事前にわかっていたので、台湾の国民党の馬英九元総統は、抗議を表明するために当日になって式典の出席を拒絶した。

◆激しく燃え上がる中国大陸における頼清徳「新二国論」への批判

10月10日、中国のありとあらゆる報道機関は「頼清徳双十講和」に対する激しい批判報道を展開した。

国務院台湾事務弁公室(国台弁)は<頼清徳の“双十”講和は両岸の緊張を高め台湾海峡の平和と安定を激しく破壊する>という見出しで、双十講和を激しく批判した。

批判概要は主として以下のようなものである。

 ●頼清徳は講和の中で「互いに隷属しない」という「新二国論」を提唱し続け、「台湾独立」の誤謬を編み出し、分離主義的な見解を広め、海峡両岸間の敵意と対立を扇動した。これは、頼清徳が頑固に「台湾独立」の立場を堅持し、対立的な思考に満ち、絶えず挑発し、両岸の緊張を故意に悪化させ、台湾海峡の平和と安定を深刻に損なっていることを十分に表している。

 ●中華民族の偉大なる復興を実現することは、現代の中華民族の最大の夢であり、それは常に(台湾海峡)両岸の同胞の未来と運命に影響を与えるものである。1840年のアヘン戦争後、外国の侵略を打ち負かし、民族解放に努め、民族統一を実現するために、中国人民は次々と前進し闘ってきた。

 ●台湾は古くから中国の神聖なる領土であり、近代には外国の侵略軍に侵略され占領されて、台湾の民衆は大きな苦しみを味わった。1945年、中国人民は抗日戦争で大勝利を収め、それに伴い台湾は失地を回復した。1949年以降、中国の内戦の継続と外部勢力の干渉により、海峡両岸は長期にわたる政治的対立の特殊な状態に陥ったが、台湾は常に中国の領土の一部分であり、台湾の同胞は常に中華民族の一員であり、中華人民共和国政府は常に台湾を含む中国全土を代表する唯一の正当な政府であり、中国は常にすべての中国人民の偉大な祖国であり、一つの中国の原則を堅持することは常に国際社会の普遍的なコンセンサスである。

 ●頼清徳は故意に国を分裂させる根拠を寄せ集め、「台湾独立」の命題を強引に植え付け、「民主主義対権威主義」という古い概念をくり返し、「民主と自由」を装って「外国に頼って独立を謀り」、「武力による独立を求める」ことを続け、台湾を「台湾独立」という戦車に結びつけようと試みているた。

 ●頼清徳が何と言おうと、台湾が中国の一部としての法的地位と、海峡両岸が一つの中国に属しているという事実と現状を変えることはできない。われわれには、祖国の完全な統一を実現する自信と能力がある。いかなる人も、いかなる勢力も、民族の復興と国家統一という歴史的な大勢を阻むことはできない。われわれは「一つの中国」原則と「92年コンセンサス」を堅持し、広範な台湾同胞大衆と団結し、「台湾独立」分裂主義行為と外国の干渉とたくらみに反対し、両岸交流と協力を積極的に推進し、両岸の統合と発展を引き続き深化させ、祖国の統一を断固として推進する。(国台弁の抗議概要は以上)

同様の抗議を中央テレビ局CCTVも報道し、さらに数えきれないほどの特集番組を展開して、中国側に立つ海外の見識者や政治家の賛同なども報道した。

見識者の多くは「1971年10月25日の国連総会において通過した【第2758号決議】を重視すべきで、中華人民共和国はその決議により『中国を代表する唯一の国家』として認められたのだから、それを覆さない限り中華民国を国家として認めるのは国連決議に違反する」と主張した。

言うまでもなく、中国の外交部も10月10日の定例記者会見で頼清徳の講和を徹底して批判し、「いかなる事態になっても中国の意思は変わらない」と断言した。

石破首相が中国の李強首相と会談したのは、まさにこの真っただ中だったので、10月11日のコラム<石破首相、李強首相との会談で台湾問題に関し「日本は日中共同声明で定められた立場を堅持」と誓う>のような事態になったのは、中国としては、どんなに歓迎すべきことだったか、想像に難くない。

◆台湾メディア:石破茂が李強に「中日共同声明を堅持する」と叫んだのは日台関係に危機をもたらす

10月11日、台湾の「中時新聞網」は<石破茂は李強に中日共同声明を堅持すると叫んだ 対日関係は危険になったか?>という見出しで、石破首相の「日中共同声明堅持」発言を問題視している。

それによれば、民進党の元立法委員の沈福雄氏が石破発言に関して以下のように述べているとのこと。

 ●石破茂が内閣を組閣した後、日中関係は悪化するのではなく、良くなる方向に動くだろう。

 ●何と言っても李強との会談で台湾問題について石破は「中日共同声明を堅持する立場は変えていない」と明言したのだから。それは「一つの中国」を遵守することであり、「台湾独立を認めない」と表明したということになる。

 ●政治家は権力を握る前と握った後では、まったく違うことを言うこともあるが、石破茂の場合は掌(てのひら)返しがひどすぎる。

沈福雄元立法委員が出演した番組は、国民党の副総統に立候補した趙少康氏(2023年11月26日のコラム<台湾総統選、国民党支持率急上昇の謎が解けた>にある写真を参照)が主宰する「少康戦情室」というテレビ番組である。その番組では出演者が、日本の自民党総裁選挙前に台湾を訪問し頼清徳総統とも会談して民進党を喜ばせたことを踏まえ、「石破茂に期待を寄せた民進党を非常に失望させている」と述べている。

◆中文圏のネット民に広がる石破首相への不信感

中国大陸および大陸以外の中文圏のネット民の間では「石破茂への不信感」が広まっている。たとえば台湾関係では、以下のようなものがある。

 ●自民党総裁選の前に台湾を訪問して頼清徳にまで会ったのは、「選挙活動」のために決まってるじゃないか。親中だと当選しないから、台湾を訪問して反中の姿勢を見せただけさ。

 ●それでいて李強に会った瞬間にコロリと態度を変えて「台湾独立反対」を表明するために田中角栄を持ち出して「中日共同声明を堅持する」って言って見せるんだから、石破の言うことなんか、何も信じない方がいいよ。

 ●「中日共同声明を堅持する」と李強に誓って見せることは、きっと早くから決まっていたんだぜ。だって、その埋め合わせをするために10月10日には山東昭子が引率する「日本の国会議員団」を祝賀のための台湾に派遣してるじゃないか。(筆者注:台湾の総統府のウェブサイトによれば、10月10日、自民党の元参議院議長を務めた山東昭子氏が「国会議員祝賀団」を引き連れて台湾を訪問し、午後頼清徳総統と会ったようだが、そのホームページには「日本の石破首相の指導の下」と書いてある。双方に良い顔をしようとして双方からの信用を失っている。)

 ●そもそも日本の総理になったらすぐには議会解散をしないと選挙期間中にあれだけ言っていながら、その舌の根も乾かぬうちに回線宣言をしてしまったんだから、石破が何を言おうと、信頼などしちゃいけないよ。

◆馬英九元総統が頼清徳の「新二国論」を批判

10月10日、馬英九は双十節祝賀式典を欠席しただけでなく、<新二国論は違憲だ>とも述べている。報道によれば馬英九は「新二国論は違憲であるだけでなく、台湾の民衆を危険な境遇へと道連れしていく」と警告し、以下のように主張しているとのことだ。

 ●中華民国の現行憲法によれば、台湾と本土は2つの国ではなく2つの地域であり、互いに平和的に共存できる。頼清徳の主張は憲法に違反しており、「新二国論」を提唱し、台湾海峡に緊張をもたらしたことで、世界は頼清徳を「トラブルメーカー」だと深刻に懸念している。

 ●頼清徳路線を疑問視する多くの国際的な声があり、その中には頼清徳を「蔡英文前総統よりも挑発的だ」と批判するアメリカの「ワシントン・ポスト」や、ベルギーの首都ブリュッセルに拠点を置く世界的に有名な国際NGOもまた、「頼清徳は憲法や両岸人民関係条例に基づいて両岸問題を解決すべきで、挑発的な言葉を避けるべきだ」と、最近出した報告書で勧告している。

 ●頼清徳は一刻も早く冷静になり、崖っぷちから引き返し、全台湾人民の幸福を第一に考え、不条理で違憲の「新二国論」を放棄し、台湾人民全員を危険にさらすのをやめるべきだ。(報道からの引用は以上)

石破首相が李強首相との対談で、台湾問題について「日中共同声明の立場を堅持する」と明言したことを公開しなかったのは、日本のメディアだけのようだ

筆者が書かなかったら、日本は「そんなことはありませんでした」のままスルーするつもりだったのだろうか。筆者がいなくなった後は、誰が真相を明かす役割を果たしてくれるのだろうかと、肌寒く思う。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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