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上海協力機構首脳会議から中露関係と地域安全保障の現状を読み解く
上海協力機構首脳会議 カザフスタンで開催
上海協力機構首脳会議 カザフスタンで開催

はじめに:上海協力機構

上海協力機構(SCO)は、1996年結成の「上海ファイブ」を母体とし、中国とロシア、旧ソビエト連邦の中央アジア諸国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン)を加盟国として2001年に発足した。当初は国境紛争などの解決を主たる目的としていたが、地域の友好促進や加盟国間の貿易の活発化と安全保障協力の強化を目的としたプラットフォームへと進化した。その発足は、中国が地域での存在感を高め、ユーラシアの安定と発展の要として多国間協力を重視するようになったことを物語っている。

SCOの主な動向と首脳会議

2023年にタジキスタンの首都ドゥシャンベで開催されたSCOの首脳会議は地域協力の大きな転機となった。中国の習近平主席とロシアのウラジーミル・プーチン大統領をはじめとする加盟国の首脳が出席し、一帯一路構想(BRI)やユーラシア経済連合(EEU)などのイニシアチブを通じて経済的なつながりの強化を図るとともに、テロ行為や過激主義、分離主義との闘いに対する共同軍事演習や情報(インテリジェンス)共有を通じたSCOのコミットメントを再確認している。

拡大と影響力の広がり

SCOは首脳会議の門戸を広げ、加盟国だけでなく、オブザーバー国(アフガニスタン、ベラルーシ、イラン、モンゴル、パキスタン)と対話パートナー国(アルメニア、アゼルバイジャン、カンボジア、ネパール、スリランカ、トルコ)も参加できるようにした。こうした拡大は、地域安全保障体制の構築とユーラシア全域での経済協力の推進においてSCOの影響力が強まっていることを明確に示している。

経済統合とインフラプロジェクト

中国の一帯一路構想(BRI)は、アジア、欧州、アフリカにまたがるインフラプロジェクトを通じた往来の強化を目的とするSCOの経済面での取り組みにおいて極めて重要な役割を果たしている。特に中央アジア諸国は、中国による輸送網やエネルギープロジェクト、工業地帯への投資の恩恵を受け、地域の経済統合と貿易ルートの多様化を進めてきた。

SCOとロシア主導のユーラシア経済連合(EEU)の連携で、加盟国間の貿易政策の調和と経済協力が進んだ。その共同イニシアチブで重点を置いているのは、貿易障壁の軽減、投資の流れの活発化、輸送ルートの最適化による地域の持続可能な発展と繁栄の推進である。

安全保障協力とテロ対策

SCO加盟国は安全保障上の新たな脅威の発生に備え、相互運用性と対応能力の強化を目的とする共同軍事演習を定期的に実施している。「平和の使命」などの演習は、テロ行為や国境をまたいだ犯罪、違法薬物の密売の撲滅に一致協力して取り組み、地域の安定と安全保障を確保するという姿勢の表れである。

SCO地域反テロ機構(RATS)は、加盟国間の情報共有と調整を容易にし、国境を越えた安全保障上の課題への効果的な対処を可能にする。RATS内での作戦協力が、早期警戒メカニズムやサイバーセキュリティレジリエンス、能力開発イニシアチブを向上させ、過激主義と急進化に対する防壁としてのSCOの役割を強化している。

地政学的ダイナミクスと対外関係

SCOは、ユーラシア地域のダイナミクスに影響を及ぼそうとする西側主要国や国際機関など外部アクターからの地政学的圧力に対応している。加盟国は主権と内政不干渉の原則を最優先させながら、双方に有益であることを条件にグローバルパートナーと交流し、経済的利益と戦略的自律のバランスを図っている。

SCO加盟国は、グローバルに二国・多国間対話を行い、ユーラシアでの包摂的発展と紛争解決、持続可能な成長を推し進めている。また、外交イニシアチブとハイレベルの首脳会議を通じて、気候変動による影響の緩和策やパンデミックへの対応、デジタルトランスフォーメーションなど、共通の課題に関して対話を進めているが、これはグローバルガバナンスとグローバルな協力へのSCOのコミットメントを反映したものだ。

中露首脳の交流とそのグローバルな影響

SCOの首脳会議は、習近平氏とウラジーミル・プーチン氏が強固な中露関係を強調する重要な場となった。両首脳は首脳会議前に会談したが、これは5月の北京以来、2回目の重要な交流となった。両首脳が顔を合わせる機会が続いたことで中露関係が揺るぎないものであることが印象付けられ、国際的に大きな注目を集めた。

会談の中で、習氏とプーチン氏はエネルギーやインフラ、二国間貿易を中心とした経済協力の拡大を発表したほか、安全保障上の共通の脅威に対処するため共同軍事演習を強化することで合意した。今回の会談で、両首脳は国際協力を提唱し、グローバルガバナンスと多国間主義の重要性を強調した。

プーチン氏は、中露関係がかつてないほど強固であると強調し、SCOを国際社会での米国の「覇権」に対抗するために極めて重要な政治・経済同盟として位置付けた。中国外交部もこれに同調し、両国は戦略的調整と国際協力を強化し、西側の一方的な制裁措置と覇権主義に全力で抵抗すると習氏が改めて述べたと発表した。習氏は、ロシア・ウクライナ情勢関連をはじめとする国際・地域問題について、中国は常に歴史の正しい側にあるとし、説得と交渉による紛争の解決を主張した。

この会談は複数の面で重要な意義を持つ。まず、中国とロシアは経済・軍事協力を深化させた。習氏とプーチン氏はエネルギー協力の拡大やインフラ建設の強化、二国間貿易の推進など、新たな一連の経済協力協定を共同で発表した。これらの協定は、両国の経済的結びつきを強固にするだけでなく、地域経済発展の新たな機会も生む。次に、軍事分野での緊密な協力は防衛力のさらなる強化につながり、地域の安定と安全保障を維持するという両国の決意を物語っている。

さらに、習氏とプーチン氏はグローバルガバナンスと多国間主義の重要性についても話し合い、国際社会が現在数多くの課題に直面しており、すべての国が力を合わせてその解決に取り組むため国際協力が不可欠であるとの見解で一致した。習氏は、中国とロシアが今後も国際連合などの国際機関で緊密に協力し、公正性と合理性の向上を目指して国際秩序の構築を推し進めるだろうと語った。一方プーチン氏は、中国と一緒にいかなる形の一国主義や保護主義にも反対し、世界経済の開放性と包摂性を支持していくとのロシアの意向を示した。

一帯一路構想を進めるという習近平氏の発言

7月4日にカザフスタンで開かれたSCOの首脳会談で、習近平氏は中央アジアにおける中国の政策とコミットメントに改めて言及し、一帯一路構想(BRI)を進め、双方の発展と繁栄のためにインフラ整備やエネルギー開発、貿易、投資での協力を強化すると誓った。同時に、中央アジア諸国の主権と独立を尊重する中国の姿勢を改めて示し、地域の安全保障と経済発展に積極的に貢献すると誓った。

一方、習氏は過激主義や国境をまたいだ犯罪と闘うため、反テロ協力の強化を呼びかけるとともに、技術援助と物的・人的支援を通じて中央アジアの安全保障の取り組みを継続的にサポートすると約束した。また、文化・人材交流の重要性を強調し、教育・技術・文化面の協力を強化して国民間の相互理解と友好を醸成することを提案した。

中央アジア諸国の戦略的選択と課題

中央アジア諸国は、対中関係と対ロ関係のバランスを取りながら経済発展と安全保障協力を追求しており、SCOの地域ダイナミクスで極めて重要な役割を果たしている。主要エネルギー生産国で輸送ハブでもあるカザフスタンは、一帯一路構想の下で中国が行うインフラ・産業プロジェクトへの投資の恩恵を受けてきた。また同時に、集団安全保障条約機構(CSTO)を通じた防衛・安全保障協力を中心に、ロシアと緊密なつながりを維持している。

キルギスとタジキスタンは、新疆(中国)のトルコ語・ペルシャ語系住民との民族・文化的つながりが強く、インフラプロジェクトや貿易協定を通じて中国の経済圏にますます取り込まれつつある。この2カ国は、中国西部の省が一帯一路構想の陸路を通じて欧州市場とつながることでチャンスが生まれるとみている。一方、ウズベキスタンはバランスの取れた外交政策を展開しており、SCOの枠組みの中で地域の安全保障協力を強化しながら、自国の戦略的立場を生かして中国とロシア双方から投資を誘致してきた。

これら諸国は、主要国との関係のかじ取りで戦略的課題に直面しており、経済的利益と国家主権のバランスを取りながら、債務の持続可能性や大規模プロジェクトによる環境問題に対処し、国民の公平な利益を確保しなければならない。加えて、国境紛争や、国家以外のアクターによる安全保障上の脅威、戦略的選択に影響を及ぼす外部からの干渉など、地政学的圧力に対応する必要もある。

上海協力機構の拡大と課題

SCOの拡大は、そのグローバルな影響力を高めると同時に、内部の調整と結束の面で課題ももたらした。加盟国数の増加に伴い、加盟国の経済・政治・安全保障面の利益が多様化し、地域協力の推進に困難が生じている。加えて、組織の運営が外部からの干渉や圧力を受け、不透明感を生んでいる。

中央アジアでは中国の経済発展を受けて、これまでのようにロシアではなく、中国への依存を高める国が多い。さらにインドやイラン、トルコなど中央アジア以外の国がSCOに参加し、中国の経済成長の恩恵を受けるようになってきた。地理的には遠いベラルーシですら、ウクライナ問題でロシアと立場を同じくしていることなどから、SCOに加わった。こうした加盟国の拡大に伴い、SCOは地域安全保障協力枠組みから、幅広い国際協力のプラットフォームへと姿を変え、グローバルな影響力を強める反面、内部の調整と統一性の面で課題を深刻化させている。

SCOが拡大するにつれ、課題は複雑さを増している。まず、加盟国間の国益の相違が大きなハードルとなる。反テロと経済協力推進では利害が一致するものの、特定の政策や戦略的選択では隔たりが大きい。

例えば、インドとパキスタンの加盟は南アジアにおけるSCOの地政学的な存在感を強化しただけでなく、SCOに新たな経済的活力を注入し、その戦略的重要性も強めた。その一方で、新規加盟国を迎えたことで、加盟国間の多様性と統一性のバランス、地政学的な相違点や安全保障上の課題への対処などの課題が浮上した。

次に、組織の拡大は内部の意思決定プロセスを複雑にする。加盟国が増えるに従い合意に達することがより難しくなり、国際社会でのSCOの実効性が低下しかねない。加えて、外部勢力の干渉がSCOをさらに圧迫している。SCO拡大に対する米国や欧州連合(EU)など西側諸国からの懸念が運営を混乱させ、不透明感を高め、課題をさらに生むかもしれない。

こうした要因が相まって、地域安全保障と経済協力、政治的調整におけるSCOの能力と実効性に影響を与えている。SCOの拡大は、国際社会におけるその重要性を知らしめているが、実効性の確保と加盟国全体の利益の実現には内外の課題の克服が不可欠となる。

まとめ:SCOの枠組みの中での中露協力の見通し

SCOの首脳会議では、戦略的協力、経済統合、多国間外交への中国とロシアのコミットメントを再確認した。習近平氏とウラジーミル・プーチン氏の対話は、相互尊重と主権、内政不干渉を原則とする多極的な世界秩序の形成というビジョンの共有を示した。SCOが加盟国を増やし、影響力を拡大させるにつれ、ユーラシア地域のダイナミクスを構築し持続可能な発展を促進する上でその重要性は今後も増すだろう。

SCOの枠組みに不可欠な存在である中央アジア諸国は、中国やロシアなど地域のアクターとの関係のかじ取りで難しい課題に直面している。その戦略的決定はSCOの将来の道筋を大きく左右し、ユーラシア地域の安全保障や経済協力、文化交流に影響を及ぼすだろう。地政学的環境が変化する中で、安定をもたらす力をSCOが発揮するには、SCO内部のダイナミクスと外部圧力に効果的に対処することが不可欠となる。

これら諸国は、中国とロシア両国が影響力を及ぼす中で、巧みな外交・経済戦略によって主権と地域の安定のバランスを取るべく努めなければならない。戦略的課題としては、主要国の影響への対応や、多国間外交で自らの立場を主張し地域内外で戦略的独立を維持することなどが挙げられる。

SCOは、加盟国・オブザーバー国・対話パートナー国間での経済統合の深化や安全保障協力の強化、文化交流の推進を目指している。デジタル接続性や持続可能な発展、包摂的成長に焦点を当てたイニシアチブは、新たな地政学的不確実性の発生に備えて、地域のレジリエンスを高めるためのものである。

中央アジア諸国は主要国との関係のかじ取りをしながら、債務の持続可能性を確保し、社会経済格差に対処するという大きな戦略的ハードルに直面している。SCOが地域の安全保障上の脅威に対処できるか否か。その鍵は、足並みを揃えた行動と合意に基づく意思決定、地政学的情勢の変化に対応できる頑健な制度的枠組みの実現が握っている。

陳建甫博士、淡江大学中国大陸研究所所長(2020年~)(副教授)、新南向及び一帯一路研究センター所長(2018年~)。 研究テーマは、中国の一帯一路インフラ建設、中国のシャープパワー、中国社会問題、ASEAN諸国・南アジア研究、新南向政策、アジア選挙・議会研究など。オハイオ州立大学で博士号を取得し、2006年から2008年まで淡江大学未来学研究所所長を務めた。 台湾アジア自由選挙観測協会(TANFREL)の創設者及び名誉会長であり、2010年フィリピン(ANFREL)、2011年タイ(ANFREL)、2012年モンゴル(Women for Social Progress WSP)、2013年マレーシア(Bersih)、2013年カンボジア(COMFREL)、2013年ネパール(ANFREL)、2015年スリランカ、2016年香港、2017年東ティモール、2018年マレーシア(TANFREL)、2019年インドネシア(TANFREL)、2019年フィリピン(TANFREL)など数多くのアジア諸国の選挙観測任務に参加した。 台湾の市民社会問題に積極的に関与し、公民監督国会連盟の常務理事(2007年~2012年)、議会のインターネットビデオ中継チャネルを提唱するグループ(VOD)の招集者(2012年~)、台湾平和草の根連合の理事長(2008年~2013年)、台湾世代教育基金会の理事(2014年~2019年)などを歴任した。現在は、台湾民主化基金会理事(2018年~)、台湾2050教育基金会理事(2020年~)、台湾中国一帯一路研究会理事長(2020年~)、『淡江国際・地域研究季刊』共同発行人などを務めている。 // Chien-Fu Chen(陳建甫) is an associate professor, currently serves as the Chair, Graduate Institute of China Studies, Tamkang University, TAIWAN (2020-). Dr. Chen has worked the Director, the Center of New Southbound Policy and Belt Road Initiative (NSPBRI) since 2018. Dr. Chen focuses on China’s RRI infrastructure construction, sharp power, and social problems, Indo-Pacific strategies, and Asian election and parliamentary studies. Prior to that, Dr. Chen served as the Chair, Graduate Institute of Future Studies, Tamkang University (2006-2008) and earned the Ph.D. from the Ohio State University, USA. Parallel to his academic works, Dr. Chen has been actively involved in many civil society organizations and activities. He has been as the co-founder, president, Honorary president, Taiwan Asian Network for Free Elections(TANFREL) and attended many elections observation mission in Asia countries, including Philippine (2010), Thailand (2011), Mongolian (2012), Malaysia (2013 and 2018), Cambodian (2013), Nepal (2013), Sri Lanka (2015), Hong Kong (2016), Timor-Leste (2017), Indonesia (2019) and Philippine (2019). Prior to election mission, Dr. Chen served as the Standing Director of the Citizen Congress Watch (2007-2012) and the President of Taiwan Grassroots Alliance for Peace (2008-2013) and Taiwan Next Generation Educational Foundation (2014-2019). Dr. Chen works for the co-founders, president of China Belt Road Studies Association(CBRSA) and co-publisher Tamkang Journal of International and Regional Studies Quarterly (Chinese Journal). He also serves as the trustee board of Taiwan Foundation for Democracy(TFD) and Taiwan 2050 Educational Foundation.