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『国家九条』― 厳しい規制とリスク防止をめざす、中国資本市場のための新たなガイドライン
中国 証券取引所と中国金融先物取引所(写真:CFoto/アフロ)
中国 証券取引所と中国金融先物取引所(写真:CFoto/アフロ)

中国国務院は先頃、「資本市場の監督強化、リスク防止、質の高い発展を促進する意見」、いわゆる新『国家九条』を発表した。前回の2014年通達から10年を経たタイミングで発表された今回の通達は、2004年の通達から続く一連の流れにおいて重要な節目にあたる。中国を取り巻く現在の経済状況にあって、これら新たなガイドラインは資本市場の指導という点に特化した国務院指令として、極めて重要な意味合いを持っている。

中国金融市場はさまざまな課題に直面しており、新たなガイドラインを手掛かりとした断固たる措置が求められている。経済成長のスピードが鈍化してマクロ経済のファンダメンタルズに下方圧力がかかり、経済運営における不確実性も高まっている。昨今の不動産市場の不安定ぶりによって市場心理のさらなる悪化への懸念が高まるとともに、国際資本市場に悪影響が及ぶことへの不安が国内における混乱の引き金となるおそれがある。さらに、土地譲渡益の大幅減少が地方政府の債務急増に拍車をかけ、債務不履行リスクも高まっている。

こうした状況での新『国家九条』発表は、低迷する金融市場の刺激と体系的リスクへの対処に中国政府が本気で取り組もうとしていることを知らしめるものだ。ガイドラインは監督強化、リスク防止、質の高い発展を促進する形で、中国資本市場に自信を植え付け、安定性を高め、持続可能な成長を促すことを目指している。

今回改訂された序文は、新『国家九条』発表にまつわる詳細な背景情報を伝えるとともに、中国金融市場が直面する課題への取り組みが重要な急務であることを強調している。

 

新『国家九条』政策の注目点

同政策は、中国資本市場の強化を目的としたいくつかの重要な戦略的取り組みを柱としている。第1に、「両会」を受けて、中央レベルでの政策調整を一致団結して実行する、としている。中央での協調努力に重点を置いていることからも、さまざまな規制努力を整合させ、団結したアプローチによる市場監督を促そうという政府の本気度が見て取れる。

第2に、新『国家九条』では、違法行為コストを顕著に引き上げ、株式ファンドを大幅増加させるとしている。こちらの措置は、違法行為を抑止しつつ法令順守と責任ある投資慣行を奨励することにより、市場の健全性を高め投資家からの信頼を強化しようというものだ。

第3に、新規株式公開(IPO)、上場廃止、配当といった重要分野に的を絞っている。これら市場運営の要に注目し、資本市場のエコシステムにおける透明性、効率性、公平性を確保するのが目的である。

第4に、継続的改善や進化する市場力学への適応をめざす姿勢を反映させる形で、関連する評価基準の強化に向けた協調努力が盛り込まれている。『国家九条』というこの反復的なアプローチは、過去繰り返し打ち出された『国家九条』政策で得られた歴史的遺産を土台として、資本市場の現状ならではの課題や機会に対応している。

「安定した発展」や「健全な発展」を優先していた過去の『国家九条』とは対照的に、新『国家九条』では「厳格な監督・管理」に重点が置かれている。こうした戦略的転換は、リスク軽減と規制監督に対する積極的な姿勢を印象付けるものであり、市場の安定と健全性の保護が不可欠である点を反映している。

新『国家九条』の実施については、株式上場から上場廃止までの一連のプロセスをクローズドループとする形での発行者管理、機関投資家に対する監督強化、アルゴリズム取引活動への規制強化による市場の公正性維持などの措置を盛り込んだ包括的なアプローチとなっている。

指令の遂行にあたり、中国証券監督管理委員会(証監会、CSRC)では規制案を発表、また証券取引所では業務規則の見直しを行い、強固な規制を確立するための土台を用意した。こうした協調努力からも、集約的・効果的な政策エコシステム確立を目指そうとする強い意志が見て取れる。

『国家九条』は短期目標と長期目標を織り込んだ体系的なものであり、包括的な戦略を実施するものだとする証監会主席の呉清氏の表明も、これら政策イニシアチブを支える戦略的ビジョンを強調している。現在、「1+N」という政策体制の整備が広く進められているが、ここでの「1」とは「指導意見」を指し、「N」とは資本市場の基盤およびガバナンスの強化に向けた取り組みを後押しする、さまざまな管理規則を指す。

新『国家九条』の実施にあたって、証監会はいくつかの規則草案を発表した。証券取引所側でも業務規則の見直しを行い、「1+N+X」政策体制の確立を着々と進めている。

「N」が表す範囲は、今後も継続的に拡大すると見られている。現時点では主に、上場後の監視、株式発行の監視、上場企業の監視、証券会社の監視、取引の監視、上場審査、大型の資本再構築の審査、株主や取締役の持株率引き下げといった領域に重点が置かれている。つまり、「基盤・ガバナンスの強化」を旨としている。証監会では6つの政策について、また上海、深圳、北京の証券取引所では同時に19の管理規則について意見を求めており、合計すると政策数にして25に及んでいる。

 

資本市場の厳格管理

『国家九条』には、資本市場の質の高い発展を促進するためには不可欠となる5つの必須原則を具体化した、厳格なガバナンスを遵守する旨も盛り込まれている。5つの原則として、党の指導への揺るぎない忠誠、人民の福祉を優先する金融慣行の実施、監督ならびにリスク防止メカニズムの包括的強化、改革のさらなる深化、弾力性のある実体経済と現代産業システム構築への献身的な奉仕が挙げられている。

『国家九条』における重点項目の1つが、資本市場での株式発行ならびに上場のための厳格な参入要件の確立である。この戦略的方向性は、いくつかの重要な側面に的を絞りながら、上場をめざす企業に課されるハードルを上げることを意図している。その第1が、科学技術革新委員会の評価基準の改善と並んで行われる、メインボードとChiNext(チャイネクスト)ボード両方の上場基準強化に向けた協調的な努力である。特に、国家発展改革委員会は3月15日、上場基準の引き上げならびに評価基準の強化を目的とした具体的な措置を発表している。これらの措置は、上海証券取引所と深圳証券取引所に対して、上場規則を改正し、特定の財務指標を緩やかに引き上げ、総合的な評価基準を充実させ、成長段階や業種、規模の異なる企業が適切な市場区分に上場するための後押しをするよう指示している。

第2に、『国家九条』では株式発行から企業上場まで終始責任を持って行うことの重要性を強調している。これは、審査プロセスにおける取引所の責任追跡性に改めて重点を置くとともに、発行者の主な責任や仲介機関が門番として果たすべき義務が強化されることを意味している。仲介機関は、キャッシュフローの検証、顧客とサプライヤーの関係の包括的なチェック、財務データの正確性と業務実態の忠実な提示を保証するための立ち入り検査など、厳格な方法を採用することが義務付けられている。こうした要件は審査プロセスにおける重要な精査項目とみなされており、上場プロセスにおいて開示される情報の完全性と信頼性を保証するものだ。

第3に、『国家九条』では監視機構の有効性向上を優先させている。その一端として、新規株式公開(IPO)時の各段階における株価設定ならびに配分に対する監督の強化、情報開示慣行の強化、市場におけるさまざまな不正行為への対応、部門横断的な監督ならびに規制調整の強化、あらゆる形態の違反行為を取り締まるための厳格な措置の実施などが挙げられている。こうした努力は、市場参入者からの信頼を高め、投資家の利益を守り、市場の健全性と安定性の維持をめざすものである。

『国家九条』は、中国金融界の持続可能かつ質の高い発展を促進するためにも不可欠となる、透明性、責任追跡性、完全性を特徴とする資本市場環境を本気で育成するという姿勢を強調するものである。

 

配当金をめぐって 

投資家の投資リターンを強化するため、『国家九条』では優良な配当企業にインセンティブを与え、配当利回り向上を促すための明確な規定を定めている。長期にわたる無配が続く企業や配当率の低い企業に対しては、大株主による持ち株比率の引き下げを制限し、リスク警告を実施することが明記されている。これらの措置は、企業による配当支払い優先を奨励し、投資家のため配当の安定性、持続性、予測可能性を高めることをめざすものである。

さらに『国家九条』では、上場企業が1年間で複数回の配当を積極的に推進するよう提唱している。これに向けて、上場会社に対しては配当頻度を決定する際に、未配当利益や現在の業績などの要素を総合的に評価するよう求めている。状況が許すならば、投資家の配当期待を安定させるため、企業が配当頻度を増やすことも奨励される。さらに、財務諸表の監査要件に関する誤解を払拭するため、中期的な配当利益基準の明確化にも焦点が当てられている。配当政策にまつわる事柄に明確性と透明性を持たせることで、投資家の信頼を醸成し、持続可能な配当を実現するための環境促進に向けた措置となっている。

『国家九条』は、企業による配当支払い優先を奨励するための環境を創生し、投資家へのリターンを高め、資本市場全体の安定性と持続可能性に貢献することをめざしている。

 

上場廃止の監視

『国家九条』では上場廃止の監視について明確な方向性を提示しており、市場の健全性を維持し、投資家の利益を守るため4つの重要な側面に焦点を当てている。

上場廃止基準の厳格な実施: 金融詐欺の取り締まりを優先し、詐欺行為を行った企業はただちに上場廃止となる。「不正金額+不正の度合い」に基づく上場廃止基準をさらに引き下げ、不正行為を効果的に取り締まる。

上場廃止チャネルの多様化: 内部統制の不備、支配株主による非営業資金の占有、支配権の無秩序な変更という、3つの新しいタイプの上場廃止シナリオが追加されている。こうした追加措置は、投資家や市場の健全性にとってリスクとなる、ガバナンスや業務上のさまざまな欠陥への対処を目的としたものである。

上場廃止指標の厳格化: 赤字企業の上場廃止となる収益指標引き上げ措置を実施し、メインボードでも収益指標を3億元に引き上げる。さらに、財務報告に対する内部統制監査意見を提示するための仕組みを導入し、透明性と説明責任性を強化する。

市場価値基準の改善: メインボードA株の上場廃止となる市場価値指標を5億元まで引き上げる。こうした調整は資本市場の健全性を強化し、業績不振または財務的に不安定な企業に関連するリスクを軽減することを目的としたものである。

『国家九条』は資本市場の信頼性向上、投資家からの信頼強化、中国金融状況の長期的な安定性と持続可能性の確保を目標としている。

 

資本市場の監督と安定性

『国家九条』は、資本市場の本質的な安定性を高めるという政府活動報告の指示に沿って実施される。ここで挙げられている重要な戦略を紹介しよう。

円滑な市場運営の促進: 包括的リスク評価の強化、戦略的準備金ならびに安定メカニズムの構築強化、リスクおよび脆弱性の特定への注力がこれに該当する。潜在的弱点に対処してレジリエンスを強化するためのこうした措置により、資本市場を円滑に機能させることを目指す。

取引に対する監督強化: 不正取引や相場操作に対する規制基準を改善するほか、高頻度のクオンツ取引に対する監督も強化する。非公開株式ファンドの運用ルール策定も優先項目となる。中国証券監督管理委員会(証監会、CSRC)が「株式市場におけるプログラム取引に関する管理規制(試行版)」に対する意見を募集したことからも、プログラム取引における厳格な監督とリスク管理に対する本気度が見えてくる。

期待管理メカニズムの確立: 『国家九条』では、主要な経済政策ないしは非経済政策が資本市場に及ぼす影響の評価が、マクロ政策の整合性評価の枠組みに明確に組み込まれている。政策情報公表のための調整メカニズムの確立もこれに含まれ、政策協調の強化と協調努力の維持をめざす。マクロ政策の整合性評価に非経済政策を組み込むことにより、政策協調の強化と、潜在的な市場の混乱を緩和するという効果をねらっている。

以上のような取り組みを通じて『国家九条』は、資本市場の安定性、レジリエンス、完全性を高め、持続可能な成長や投資家の信頼につながる環境を醸成することを目指している。

 

考察および示唆

過去2度の『国家九条』発表後(2004年、2014年)、A株市場は大幅に上昇し、政策指示が市場の動きに潜在的な影響を与えたことを示唆している。2004年には、『国家九条』の発表後に上海総合指数が初取引日で2.08%、深圳成分指数が初取引日で1.56%上昇した。このように迅速に好反応が出たことが、その後の改革イニシアチブによる持続的な成長の舞台を用意した。

2004年の発表後、上場企業の株式分割改革を目的とした一連の改革文書が発表された。これらの改革は相次いで実施され、A株市場の大幅な株価上昇につながった。2007年10月までに上海総合指数は6092.06ポイントの高値をつけ、深圳成分指数は19358.44ポイントまで上昇した。注目すべきは、非鉄金属、銀行、不動産といったセクターの優良株がこの時期の市場上昇を牽引した点である。

同様に、『国家九条』の発表から1年後の2014年にも、A株市場は再び強気相場に入っている。上海総合指数は3,000ポイント近く急上昇して最高値の5166.35ポイント、深圳成分指数は18098.27ポイントに達した。この時期はコンピュータ、メディア、通信などの業種が特に好調で、市場全体の成長に貢献している。

一方、2024年の新『国家九条』発表は、中国経済が課題に直面する中で行われた。それぞれの政策ならではの背景や目的に鑑みれば、過去の成功パターンをそのまま踏襲することは本質的に問題をはらんでいる。市場環境や状況も時間とともに変化している可能性もあるゆえ、現在の経済状況に合わせた具体的な政策措置が必要だ。

こうした課題を抱えているとはいえ、新『国家九条』はやはり重要な政策発表であり、資本市場の安定と発展にとって極めて重要な方向性を示している。市場監督の強化、コーポレートガバナンスの改善、投資家保護の強化といった措置を強調することで、新たな指令は資本市場への新たな活力注入と、より成熟した強固な軌道への方向転換を目指したものとなっている。

陳建甫博士、淡江大学中国大陸研究所所長(2020年~)(副教授)、新南向及び一帯一路研究センター所長(2018年~)。 研究テーマは、中国の一帯一路インフラ建設、中国のシャープパワー、中国社会問題、ASEAN諸国・南アジア研究、新南向政策、アジア選挙・議会研究など。オハイオ州立大学で博士号を取得し、2006年から2008年まで淡江大学未来学研究所所長を務めた。 台湾アジア自由選挙観測協会(TANFREL)の創設者及び名誉会長であり、2010年フィリピン(ANFREL)、2011年タイ(ANFREL)、2012年モンゴル(Women for Social Progress WSP)、2013年マレーシア(Bersih)、2013年カンボジア(COMFREL)、2013年ネパール(ANFREL)、2015年スリランカ、2016年香港、2017年東ティモール、2018年マレーシア(TANFREL)、2019年インドネシア(TANFREL)、2019年フィリピン(TANFREL)など数多くのアジア諸国の選挙観測任務に参加した。 台湾の市民社会問題に積極的に関与し、公民監督国会連盟の常務理事(2007年~2012年)、議会のインターネットビデオ中継チャネルを提唱するグループ(VOD)の招集者(2012年~)、台湾平和草の根連合の理事長(2008年~2013年)、台湾世代教育基金会の理事(2014年~2019年)などを歴任した。現在は、台湾民主化基金会理事(2018年~)、台湾2050教育基金会理事(2020年~)、台湾中国一帯一路研究会理事長(2020年~)、『淡江国際・地域研究季刊』共同発行人などを務めている。 // Chien-Fu Chen(陳建甫) is an associate professor, currently serves as the Chair, Graduate Institute of China Studies, Tamkang University, TAIWAN (2020-). Dr. Chen has worked the Director, the Center of New Southbound Policy and Belt Road Initiative (NSPBRI) since 2018. Dr. Chen focuses on China’s RRI infrastructure construction, sharp power, and social problems, Indo-Pacific strategies, and Asian election and parliamentary studies. Prior to that, Dr. Chen served as the Chair, Graduate Institute of Future Studies, Tamkang University (2006-2008) and earned the Ph.D. from the Ohio State University, USA. Parallel to his academic works, Dr. Chen has been actively involved in many civil society organizations and activities. He has been as the co-founder, president, Honorary president, Taiwan Asian Network for Free Elections(TANFREL) and attended many elections observation mission in Asia countries, including Philippine (2010), Thailand (2011), Mongolian (2012), Malaysia (2013 and 2018), Cambodian (2013), Nepal (2013), Sri Lanka (2015), Hong Kong (2016), Timor-Leste (2017), Indonesia (2019) and Philippine (2019). Prior to election mission, Dr. Chen served as the Standing Director of the Citizen Congress Watch (2007-2012) and the President of Taiwan Grassroots Alliance for Peace (2008-2013) and Taiwan Next Generation Educational Foundation (2014-2019). Dr. Chen works for the co-founders, president of China Belt Road Studies Association(CBRSA) and co-publisher Tamkang Journal of International and Regional Studies Quarterly (Chinese Journal). He also serves as the trustee board of Taiwan Foundation for Democracy(TFD) and Taiwan 2050 Educational Foundation.