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戦略的提携とグローバル・パートナーシップが拓く、 台湾CPTPP加盟への道 PartⅡ
a meeting of the Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership, CP TPP, in Santiago, Chile, Thursday, May 16, 2019. (AP Photo/Esteban Felix)

 

4.CPTPP加盟に立ちはだかる課題:英国および中国の影響

 

台湾のCPTPP加盟には様々な難題が複雑に絡み合っているが、その顕著な例として挙げられるのが、英国の加盟ならびに中国が担っている複雑な役割をめぐる最近の動向である。こうした展開においては、外部との提携関係を活用した戦略的アプローチによって台湾がこれらの課題を克服し、さらには念願である協定内における地位を確実にすることが必要となる。

 

A.英国の加盟ならびにその影響

英国のCPTPP加盟は、協定の動態に新たな局面をもたらした。台湾にとって、英国が加盟に成功したことは貴重な示唆を与えてくれる。台湾の願望をそのまま具現化したような英国の加盟は、先進的な貿易原則、持続可能性、公平な貿易慣行を旨とする国々にとってのCPTPPの魅力を示す好例である。価値観を共有している点を強調し、自国の加盟によって協定の影響がどれだけ拡大するかを示すことで、台湾は英国との類似性を有利に利用できる。英国の加盟が世界経済における同協定の地位を向上させたように、台湾の加盟もまた、地域経済に極めて重要な貢献を果たすことだろう。

B.中国が担う複雑な役割とその影響

対照的に、CPTPP加盟を目指している中国ではあるが、協定の厳格な基準を満たす準備ができているかという点が懸念されており、主としてこれに起因する障壁に直面している。こちらのシナリオは、自国の加盟に向けて舵取りを行う台湾に貴重な教訓を与えてくれる。すでに築かれている協力関係、特にシンガポールやニュージーランドとの協力関係は、CPTPPの厳しい基準を守らんとする台湾の心構えを示す強力なツールとなる。中国加盟の可能性が生じさせた複雑な状況に照らせば、国際的な規範に合わせて自国の経済慣行を慎重に調整し、協定の統合性を強化しつつ加盟国候補としての有望度を高めることの必要性を軽視することはできない。

 

上記の難題に取り組むにあたって、台湾の戦略的提携関係は極めて重要な資産となる。シンガポール、ニュージーランド、その他のパートナーとの協力関係は、障壁を乗り越えチャンスを掴むために必要な知恵と洞察力を台湾に与えてくれる。これらの同盟関係を頼りにすれば、CPTPP内における台湾の立場を強化し、ダイナミックな地域経済エコシステムの育成に対する自国の責任を再確認し、グローバルな舞台での影響力を増大さることも可能だろう。

C.順番待ちを余儀なくされる台湾 ― 加盟への熱望

地域貿易の潮流が変化するなか、台湾はCPTPPへの参加を強く望んでいる。貿易自由化、高い基準、世界経済の相乗効果を目指して地道な努力を続けている台湾は、アジア太平洋地域における主要貿易相手国としての地位を活かし、CPTPPへの扉の鍵を開けようとしている。台湾が加盟となれば、経済関係の強化、市場アクセスの強化、そして重要分野におけるイノベーションの活性化は約束されている。ただし、中国の反対と影響力が落とした影によって台湾は順番待ちリストに追いやられており、こうした複雑な状況を解きほぐして協定内での正当な地位を獲得するには、巧妙かつ戦略的な立ち回りが必要だ。

 

台湾に約束されているもの:CPTPPというカンバスには、台湾の経済情勢を一変させるようなひと塗りをいくつも重ねられる可能性が広がっている。広々とした画面に描かれた、11の加盟国が登場する色鮮やかな図柄の上で、輸出や事業拡大の新たな道を切り開けるという状況を想像してみてほしい。CPTPPによって貿易障壁が解消され、複雑化した関税の問題が整理されれば、特に電子機器、機械、繊維などの基幹産業において、国際貿易における台湾の競争力はより輝きを増すだろう。

 

さらに、2016年から2022年にかけて12もの規則を策定するなど政府も積極的に取り組んでおり、ビジネスに優しい政策の糸によるタペストリーが織り上げられている。台湾の決意を物語るこうした規則であるが、規制の合理化によるビジネス環境の向上を通じて、国外からの投資に適した環境を醸成し、経済繁栄の勢いを強めることにつながっている。

 

今後の課題:CPTPP加盟への道のりには、CPTPPの既存加盟国ごとに微妙に異なる色合いを帯びた課題がつきまとう。台湾がこれらの国々と「二国間貿易協定」(BTA)交渉に臨む際には、各国特有の事情を考慮する必要がある。カンバスの絵柄は刻々と変化する。カナダは農業政策、食の安全、環境保護における安心を求め、オーストラリアは知的財産権とその保護に焦点を当て、メキシコは労働者の権利と労働基準を重視する。

 

積極的な対話と各国の優先事項との調和に注力することで、台湾は信頼という大作を生み出し、CPTPPの厳格な基準を満たさんとする揺るぎない決意を示せるだろう。現加盟国とのBTA交渉が成功すれば、カンバスに見た目の上での華やかさが加わるだけでなく、台湾加盟の先触れとなり、CPTPPにおいて信頼に足る、説明責任を果たせる、価値あるパートナーとしての地位を固めるための大切なひと塗りとなる。

 

5.二国間貿易協定の強化:主要パートナーが担う役割

 

地域経済の統合強化を目指し、CPTPPにさらに食い込もうとしている台湾は、国際的協力関係が果たす重要な役割についても十分認識している。こうした協力関係は、より広範な経済協力のための土台を築き、シンガポールやニュージーランドなど主要パートナーとの強い絆を育むのに役立ってきた。さらに、台湾の半導体大手TSMC社も、台湾の経済状況を向上させ世界的評価を高める上で極めて重要な役割を果たしている。台湾が地域および世界貿易における重要な参加国としての地位をさらに強固なものにする一方で、カナダとの「外国投資促進保護協定(FIPA)」のような新たな提携関係が、投資、技術革新、責任あるビジネス慣行の促進を目的とした戦略的パートナーシップに加わっている。

A.技術革新・技術分野におけるシンガポールとの協力関係

強固なイノベーションエコシステムで知られるシンガポールは、戦略的な国際的提携関係の機会を台湾に提供している。研究開発イニシアチブ、共同イノベーションプロジェクト、技術移転プログラムでの協力を通じて、台湾はシンガポールの高度なインフラとイノベーションに関する専門知識を活用している。ここでの協力関係は、両国のハイテク産業の成長を促進するだけでなく、新たな市場への扉を開き、グローバルな競争力の強化につながっている。台湾の製造能力とシンガポールの技術革新能力との相乗効果により、世界中の見込み投資家や貿易相手国に提案できるだけの強力な価値が生まれる。この提携関係を通じて、台湾は最先端技術へのアクセスならびに市場拡大の機会を得ており、経済成長の促進と、地域における台湾の地位強化につながっている。

 

B.ニュージーランドとの持続可能な開発パートナーシップ

持続可能な開発に真摯に取り組む台湾と、環境保護ならびにグリーンイニシアチブに重点を置くニュージーランドとは、ぴったり歩調が合っている。持続可能な慣行とクリーンテクノロジーを軸としたグローバルな提携関係を通じて、台湾はニュージーランドと協力し、環境に優しい製品やソリューションの開発、普及を進めている。気候変動への対応、再生可能エネルギーの促進、環境に配慮した政策の実施といった共同の取り組みによって、責任感があり環境に配慮した貿易相手国としての台湾の評判は高まっている。ここでのパートナーシップは経済成長を促進するだけでなく、持続可能性と責任ある世界市民としての台湾の地道な努力をも証明している。

 

C.カナダとのFIPAならびに教育文化交流が担う役割

台湾が包括的な経済統合への道を歩み始めた今、国際的協力関係の重要性がクローズアップされており、なかでもカナダとの間で最近締結された「外国投資促進保護協定」(FIPA)に注目が集まっている。この二国間貿易協定は台湾の外交・経済戦略の要であり、投資、技術革新、責任あるビジネス慣行の促進に対する台湾の真摯な姿勢を示す一例となっている。カナダとのFIPAは、経済パートナーシップの深化を意味するだけでなく、戦略的協力関係から生まれる相互利益を浮き彫りにするものでもある。

 

カナダとのFIPAの特徴の1つが、台湾とカナダの教育・文化交流を促進する役目を担っている点である。この協定は、異文化理解、学術協力、人材育成の促進を通じて、双方の未来に投資するという意味合いを帯びている。台湾の学生は教育交流プログラムを通じてカナダで学ぶ機会を得て、多様で豊かな学習環境を体験できる。同様に、カナダの学生も台湾の教育機関と関わることで、グローバルな視点が養われ文化的な共感が育まれて、グローバルな意識を持つ市民の層が広がることになる。こうして知識やアイデアを交換することは、二国間関係の強化につながるだけでなく、技術革新や起業家精神を向上させ、両国の社会を豊かにし、より広範な経済協力の実現に役立つ土台を築くことにもつながる。

 

カナダとのFIPAが促進する教育的・文化的交流は、教室からその外へ、ビジネスの領域にまで広がっている。異文化への対応能力と国際的な人脈を獲得して帰国した学生たちは、経済成長ならびに協力関係を促す触媒となる。多様な視野を備えたこれらの人材が、各国の技術、貿易、技術革新の発展に貢献することになる。さらに、教育交流を通じて築かれた文化的な結びつきは、人と人とのつながりを強くし、互いの価値観や伝統、経済面における野心をより深く理解するための肥沃な土壌となる。この文化的な結びつきによって経済的提携関係はさらに強固なものとなり、戦略的協力がいかに貿易の領域を超え、包括的かつ人間中心のメリットをもたらし得るかのモデルとなるような、結束力の高いパートナーシップが生まれている。

 

経済統合をめぐる複雑な流れのなかで、カナダとのFIPAとその結果として生まれた台湾とカナダの教育・文化交流は、単なる取引協定の域を超えた色合いを持ったアプローチの一例となっている。この多角的なパートナーシップは、経済成長は人的資本の発展、異文化理解、知識の追求の共有と無関係のものではない、という信念を明確に示している。経済協力と教育・文化交流とを関連付けることで、台湾とカナダはダイナミックで強靭な提携関係の基礎を築き上げ、両国の経済を向上させるだけでなく、グローバルな協力関係をより豊かなものとしている。

 

Part に続く

陳建甫博士、淡江大学中国大陸研究所所長(2020年~)(副教授)、新南向及び一帯一路研究センター所長(2018年~)。 研究テーマは、中国の一帯一路インフラ建設、中国のシャープパワー、中国社会問題、ASEAN諸国・南アジア研究、新南向政策、アジア選挙・議会研究など。オハイオ州立大学で博士号を取得し、2006年から2008年まで淡江大学未来学研究所所長を務めた。 台湾アジア自由選挙観測協会(TANFREL)の創設者及び名誉会長であり、2010年フィリピン(ANFREL)、2011年タイ(ANFREL)、2012年モンゴル(Women for Social Progress WSP)、2013年マレーシア(Bersih)、2013年カンボジア(COMFREL)、2013年ネパール(ANFREL)、2015年スリランカ、2016年香港、2017年東ティモール、2018年マレーシア(TANFREL)、2019年インドネシア(TANFREL)、2019年フィリピン(TANFREL)など数多くのアジア諸国の選挙観測任務に参加した。 台湾の市民社会問題に積極的に関与し、公民監督国会連盟の常務理事(2007年~2012年)、議会のインターネットビデオ中継チャネルを提唱するグループ(VOD)の招集者(2012年~)、台湾平和草の根連合の理事長(2008年~2013年)、台湾世代教育基金会の理事(2014年~2019年)などを歴任した。現在は、台湾民主化基金会理事(2018年~)、台湾2050教育基金会理事(2020年~)、台湾中国一帯一路研究会理事長(2020年~)、『淡江国際・地域研究季刊』共同発行人などを務めている。 // Chien-Fu Chen(陳建甫) is an associate professor, currently serves as the Chair, Graduate Institute of China Studies, Tamkang University, TAIWAN (2020-). Dr. Chen has worked the Director, the Center of New Southbound Policy and Belt Road Initiative (NSPBRI) since 2018. Dr. Chen focuses on China’s RRI infrastructure construction, sharp power, and social problems, Indo-Pacific strategies, and Asian election and parliamentary studies. Prior to that, Dr. Chen served as the Chair, Graduate Institute of Future Studies, Tamkang University (2006-2008) and earned the Ph.D. from the Ohio State University, USA. Parallel to his academic works, Dr. Chen has been actively involved in many civil society organizations and activities. He has been as the co-founder, president, Honorary president, Taiwan Asian Network for Free Elections(TANFREL) and attended many elections observation mission in Asia countries, including Philippine (2010), Thailand (2011), Mongolian (2012), Malaysia (2013 and 2018), Cambodian (2013), Nepal (2013), Sri Lanka (2015), Hong Kong (2016), Timor-Leste (2017), Indonesia (2019) and Philippine (2019). Prior to election mission, Dr. Chen served as the Standing Director of the Citizen Congress Watch (2007-2012) and the President of Taiwan Grassroots Alliance for Peace (2008-2013) and Taiwan Next Generation Educational Foundation (2014-2019). Dr. Chen works for the co-founders, president of China Belt Road Studies Association(CBRSA) and co-publisher Tamkang Journal of International and Regional Studies Quarterly (Chinese Journal). He also serves as the trustee board of Taiwan Foundation for Democracy(TFD) and Taiwan 2050 Educational Foundation.