台湾の最大野党である中国国民党(KMT:Kuomintang、以下「国民党」)は5月17日、2024年行われる総統選挙の候補者として最終的に新北市の侯友宜(こう・ゆうぎ)市長を指名した。もう一つの野党、台湾民衆党(TPP:Taiwan People’s Party、以下「民衆党」)は5月20日、柯文哲(か・ぶんてつ)主席も総統選に参戦する旨を発表した。与党の民主進歩党(DPP:Democratic Progressive Party、以下「民進党」)は先頭を切って賴清德(らい・せいとく)副総統の立候補を表明。蔡英文(さい・えいぶん)総統の「小英之友會(Friends of Xiao-Ing)」に倣って各地区に「信賴之友會(Friends of Trust)」を設立し、支援者を動員して地域の市民団体に参加させている。
2024年の台湾総統選は三つ巴の激しい戦いになると予想される。国民党は独自の候補者を指名せず、台湾一の資産家である実業家の郭台銘(かく・たいめい)を党の代表に立てる形で選挙運動をさせていた。ただ、国民党の朱立倫(しゅ・りつりん)主席にとって郭が好ましい候補者でないことは明らかだ。結局、あれやこれやの不透明な選考メカニズムによって、郭は候補者リストから外されている。
野党国民党の支持者にとっては、2年前の地方選挙での圧倒的勝利が大きな自信となっている。4年前の前回の地方選挙における状況と同様、国民党支持者は総統の座を奪還するチャンスがあると信じている。ただし2020年の選挙は、国民党の韓國瑜(かん・こくゆ)が蔡英文総統に大差で敗れる結果となった。
国民党にとって最大の危機:新興の民衆党に敗北してしまうのか?
国民党にとって最大の危機とは、侯友宜・新北市長が賴清德副総統に敗れることではなく、新興の民衆党に敗れる可能性がある、ということだ。「美麗島電子報(My Formosa E-Newsletter)」が29日に発表した最新の世論調査によると、賴清德の支持率は35.8%に達し、依然としてトップの座を維持している。注目すべきは、侯友宜の支持率が20%を割り込んで18.3%にとどまり、柯文哲の支持率25.9%に抜かれたことである。美麗島電子報が5月24日から25日にかけて実施した政治調査では侯友宜市長の総統への支持率がわずか18.3%と30%近くも低下し、賴清德の35.8%や柯文哲の25.9%から大きく引き離されている。侯友宜市長の選挙戦にとっては、大きな政治的警告を突き付ける結果となった。
2024年の台湾総統選は、大荒れの先行き不透明な選挙となるだろう。国民党推薦候補者である侯友宜市長は、推薦後に広く国民の支持を得ることができず、支持率はむしろ徐々に低下している。これは、侯友宜市長が国民党主席の座を確保できなかったことと関係していると思われる。国民党の候補者指名の仕組みは依然としてブラックボックスの様相を呈しており、彼らが過去の失敗から何も学んでいなかったことが分かる。党内闘争の末に選ばれた候補者であれば本来の政治的地位を保つこともできようが、国民から見ればこうした点もまた、選挙の結果に対する自信と総統に挑戦するだけの勇気がないものと映る。
今回の選挙では、3人の候補者それぞれ個性的な特徴があり、政治的な問題も抱えている。賴清德は、政治において一貫して台湾の国民意識を唱道してきたが、2020年の党代表選で蔡英文総統に挑んだことが、蔡英文の支持者の一部からは裏切り行為とみなされた。侯友宜は新北市長として慎重で安定したイメージがあるが、カリスマ性に乏しく党からの支援も手薄い点が選挙戦の足を引っ張る形となっている。民衆党主席である柯文哲は、このレースにおけるダークホースと見られている。無所属であり台北市長時代に獲得した人気と知名度によって、幅広い有権者にアピールすることができる候補者だ。
青・白連携の行き詰まり
こうしたなか、台湾社会にはいわゆる「侯・柯同盟」、「青・白連携」を推進しようとする勢力があるようだ。この同盟の意図するところは、国民党の侯友宜候補と民衆党の柯文哲候補による連携を実現して、与党・民進党に対する競争力を高めることにある。しかし、このような同盟を推進することは容易ではなく、難題や抵抗が立ちはだかる。世論調査で侯友宜市長の支持率が下がり続けた場合、かつて国民党が洪秀柱(こう・しゅうちゅう)から朱立倫へと「候補者交代」させたときのような危機の再来となりかねない。
選挙オブザーバーの立場としては、2024年台湾総統選における青・白連携の行き詰まりは重要な問題だと考えている。国民党の現在の推薦候補である侯友宜は、国民からの支持という面で苦境に立たされており、民衆党の柯文哲候補に敗北する可能性がある。そうした状況において、与党・民進党に対する野党の競争力を高めるため、青・白連携同盟の構築を提案する声もあがっている。
しかし、青・白連携の実現は容易なものではない。第一に、国民党内部における派閥や利害の対立により、協力が困難になるおそれがある。国民党は過去に党内の派閥争いを経験しており、効果的な協力関係を構築するには不利な状況だ。
第二に、民衆党と国民党の間には政治的立場や政策の違いがあり、これも青・白連携にあたっては難題となる。両党は政策の優先順位や方向性が異なる場合があり、これらの違いをすり合わせ、合意を形成することが必要不可欠となる。
さらに、候補者自身の役割や各々の意欲もまた、青・白連携においては重要な要素となる。両候補者が個人的な利害を捨て、全体の利益の最大化に向けて互いの票の一部を放出するのも厭わないとするか否かなどは、考慮すべき問題の1つである。
最後に、有権者の受け止め方や支持が得られるか否かもまた青・白連携に影響を及ぼすだろう。このような協力関係を有権者が抵抗なく受け入れられるかどうか、そして候補者に対する評価・支持の如何によって、青・白連携が実現可能であるか、有効であるかが決まる。
これまで挙げた要因を考慮すると、2024年の台湾総統選において青・白連携の行き詰まりは重要な問題となる。行き詰まりを克服するためには、あらゆる関係者の努力と適切な調整が求められる。派閥間対立の解消に向けて党内でコンセンサスを得る必要があり、党内のコミュニケーションおよび折衝のための仕組みを構築することも必要になる。
ここで問題となるのが、国民党と民衆党という野党が団結して、与党である民進党に立ち向かう強力な同盟を結べるかどうかである。残念ながら、国民党とそこからできた分離政党が効果的な形で協力できずに票を分散させてしまい、結果的に民進党を利するケースが多いことは歴史が証明している。青・白連携のジレンマは、台湾の野党にとって今をもってしてもなお大きな課題である。
2024年台湾総統選の行方を左右する複数の要因
2024年の台湾総統選は、先の見通しがきかない難しい選挙となるだろう。有権者が向き合うべき検討事項は複数存在する。第一が、候補者の政策的立場ならびに能力である。国家経済、社会問題、国際関係などに関する候補者の視点と解決策に、有権者の注目が集まることになる。有権者は、効果的なリーダーシップと実行力を備えた候補者が、自ら宣言した政策目標を実現するのを見たいと望んでいるのだ。
第二が、候補者の評判および人柄である。有権者は候補者の個人的な経歴、政治家としての経験、過去の実績などを考慮する。誠実で高潔、優れた道徳的資質を持つ人物をこそ、自分たちの利益や価値観を体現するリーダーとして選びたいと、有権者は考えている。
もう一つ考慮すべき重要な点が、候補者の選挙戦略ならびに選挙活動チームである。有権者は、候補者が展開する選挙活動、メディアでのパフォーマンス、公の場でのスピーチなどを観察し、候補者が優れたコミュニケーション能力と影響力を持っているか、選挙活動チームを効果的な形で組織・運営する能力を持っているかどうかを評価する。
候補者の所属する政党の政治的立場や政策傾向もまた、考慮されることになる。候補者が提示した重要な問題に対する政党のスタンスに注目し、それが有権者自身の価値観や政治的立場と合致しているかどうかを評価する。
青・白連携のような政党間同盟や政治勢力 ― 政党間の連携形成や政治勢力の分布もまた、選挙結果に影響を及ぼす。政党間の連携形成ならびにこれに対する有権者の支持の度合い、政党内における派閥間調整や協力といった要因はいずれも、選挙結果を大きく左右しうるものである。
若い有権者が選挙結果に与える影響力も大きくなっており、若い有権者の投票率、政治観、ソーシャルメディアの利用状況などに注目することが重要である。ソーシャルメディアは、有権者の視点を形成し、有権者の行動に影響を与える上で重要な役割を担っている。
最後に、有権者は周囲の環境や時事問題からも影響を受ける。国内外の主要な出来事、特に中国が台湾に対して展開する情報戦や中国の軍事的脅威、社会問題、経済状況など、いずれも有権者の投票行動を左右する最後の一押しになる可能性がある。
2024年の台湾総統選は全体として、各候補者がそれぞれの課題と障害を抱えていることから、相当に競争の激しい選挙になりそうだ。選挙結果は台湾の政治状況や将来の方向性に大きな影響を与えるだろう。
2024年の台湾総統選はいくつもの要因による影響を反映するものとなり、有権者は候補者の政策的立場、能力、評判、性格、さらには所属政党の政治的立場や協力政党の選挙戦略などをも考慮することになるだろう。結局のところ有権者は、台湾総統として最もふさわしいと考える候補者に票を投じるのだ。
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