第20回全国人民代表大会(全人代)を2022年10月16日に控え、全世界から関心が集まるなか、中国共産党中央委員会政治局常務委員入りを果たすのは誰かに関する議論が盛り上がっている。多くの研究が、中国の新世代リーダーの趨勢を決める要因が「年齢制限という不文律」、「習近平の思想」、「力関係」に大別できると指摘し、様々なシナリオを推論し、予測している。
「七上八下」の年齢制限
第一の仮説は、これまでの「七上八下」の慣行にならい、68歳に達した者は中央委員会政治局を去ることを迫られ、67歳以下は不文律に則って政治局に入るか、常務委員になるか、任務を継続できる、というものである。栗戦書(りつ・せんしょ 72歳)と韓正(かん・せい 68歳)が退くことは既定路線だろう。同時に、政治局委員25人のうち半数も退任することになる。常務委員に最も近い人物は誰なのか。国務院副総理の胡春華(こ・しゅんか59歳)、中国共産党中央委員会総局長の丁薛祥(てい・せつしょう60歳)、重慶市党委員会書記の陳敏爾(ちん・びんじ62歳)、上海市党委員会書記の李強(り・きょう63歳)らが、常務委員会入りの最有力候補であろう。
習近平が胡春華、丁薛祥、陳敏爾を筆頭とするより若手の指導者を選ぶのであれば、外部からは彼らが次期後継者と目される可能性が高い。一方で、こうした選択が習近平の権威失墜、あるいは党運営上の不都合につながる可能性を指摘する学者もいる。さらに重要なのは、これら若手常務委員が今後は他派閥のターゲットにもなるという点だろう。しかし、権力安定化を旨とする習近平指導部の特性上、こうした要因は習近平の決断を揺るがすほどのものではない。
大変動をもたらすか ―「上六下七」の年齢制限
第二の仮説は、習近平が年齢制限の不文律を「上七下八」から「上六下七」に変更する、というものである。その場合、李克強、汪洋(おう・よう)、王滬寧(おう・こねい)など67歳の常務委員全員が退くことになる。胡春華、李強、丁薛祥、陳敏爾だけでなく、広東省党委員会書記の李希(り・き)も中国共産党中央委員会政治局常務委員会入りが見込まれる。ただし、これら若いリーダーたちと権力を分担して中国を統治しようという筋書きは、習近平が最も望まぬところである。
カリフォルニア大学サンディエゴ校のビクター・シー(史宗瀚)准教授の指摘によれば、上六下七となった場合には集団指導が復活する。そして、様々な世代のリーダーで構成されるグループにあっては、政治指導者上層部の中で習近平がいつまでも主導的役割を独占しているというのも、不自然な話だ。中国共産主義青年団(団派)の派閥指導者である胡春華副総理、独立派閥を率いる李希、そして習近平の側近中の側近も政治局に席を得ている。しかし、新世代のリーダーのほとんどは新参者であるため、習近平への依存度がかえって高まる、という逆説的な結果となる可能性も否定できない。
習近平の思想、力関係
第三の仮説は、習近平の思想と習近平を中心とした力関係の分析をベースにしたものである。習近平が最も望む筋書きとは、なるべく第20回全国人民代表大会後に68歳を超えるような、年齢が高めの候補者を選んでおくことだ。そうなれば、来期も年齢制限の問題は発生せずに済み、外部からの憶測を招く心配もなくなるだろう。最重要課題は、習近平4期目につなげる筋書きを完成させることだ。最有力候補に挙げられるのが、蔡奇(さい・き67歳)、黄坤明(こう・こんめい66歳)、李希(66歳)、李鴻忠(り・こうちゅう66歳)、陳全国(ちん・せんこく67歳)らである。こうした手段を取れば、たしかに若い指導者の政治局常務委員会入りを完全に阻止できるだろうが、中国国内で反発を招く恐れもある。
習近平が、権力や資源の共有を選ばない指導者であることは明らかだ。中央委員会政治局常務委員名簿入りの条件として、習近平の直系、いわゆる「之江新軍」(しこうしんぐん)であるかどうかが大前提となる。習近平との力関係が決め手となるのであれば、予選通過の可能性が高いのは蔡奇、黄坤明、李強の3人だろう。しかし、上海で実施したロックダウンや防疫対策が不発に終わったこともあり、李強の身辺には芳しくない評判も上がっている。上海で現在行われている防疫対策は、李強から習近平に向けたアピールなのだろうか。あるいは、これを機に李強の株を上げておき、後で攻撃をしかけようと目論む別の派閥が存在するのだろうか。現状、栗戦書と韓正の後釜として有力なのは、蔡奇と黄坤明である。
習近平を核とした安定維持という結論
当研究チームのメンバーは、中国共産党第20回全国人民代表大会では引き続き、習近平を核心とした安定維持という結論が支持されるだろうと指摘している。1つの席は不動で、2つの席は交替、3人が退き3人が昇進するのが原則である。かねてより汚職の噂はあったものの、趙楽際(ちょう・らくさい)には中央規律検査委員会と中央組織部の安定を維持する力があるだろう。汪洋は国務院総理が有力だ。広東省での経験に加え、地方の役人を呼び寄せて経済復旧に当たらせるだけの年功もある。李克強は中国人民政治協商会議主席の留任が濃厚で、共青団派の重石となってくれるだろう。胡春華は国務院副総理に就任し、汪洋のもとで研鑽を積んだ。栗戦書と韓正は老齢のため引退した。王滬寧は、3期にわたって指導部入りを果たしてきた。68歳には達していないが、新参者に取って代わられる可能性が非常に高い。
政治局常務委員会入りするのは誰か?
黄坤明(66歳)、李強(63歳)、陳敏爾(62歳)、丁薛祥(60歳)はいずれも習近平の腹心であり、中央委員会政治局常務委員会入りの可能性がある。李強は習近平の教え子だが、上海の防疫措置については賛否両論ある。陳敏爾は重慶市党委員会書記を務めているが、中央書記処書記の経験はない。最年少の丁薛祥は習近平弁公室主任、中央書記処書記を歴任したが、上海での経歴しか持たず、説得を呑んでレースから退く可能性が高い。残る3人が表に出て、中央委員会政治局常務委員会入りを果たすことになるだろう。
まとめ:新たに加わる政治局の若手リーダーに注目
中央委員会政治局名簿からどの常務委員が退き、誰が常務委員入りできるのかといったことは、ここでの観測の主眼ではない。最も重要なのは、新世代のリーダーたちがなおも習近平頼みとなるのか、という点である。関係性は強まるのか、あるいは弱まるのか。新世代のリーダーは自律的な力を持っているのか、あるいは一定のバランスを保つことができるのか。これまでの状況証拠を見れば、習近平が政治局常務委員に名を連ねているうちは、中国の政治上層部に大きな変化はないはずだ。
最後に注目したいのが、中央委員会政治局のリスト入りを果たした新参指導者たちの経歴と専門的な職務能力である。特に60歳以下の指導者たちは、中国共産党の次世代のリーダーになる可能性が非常に高い。
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