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まるで敗戦直後の日本軍を奪い合う中共軍――米大使館存続望むタリバン
アフガニスタンからの避難民を運ぶ飛行機(提供:U.S. Air Force/ロイター/アフロ)
アフガニスタンからの避難民を運ぶ飛行機(提供:U.S. Air Force/ロイター/アフロ)

敵として戦った米軍に対し、今タリバンはその大使館存続を望み、トルコには空港管理を依頼している。それは日本投降後の中国で、中共軍が日本軍人の技術を奪い合ったことを想起させる。空軍力が欠如していたことも共通している。

◆タリバンがアフガニスタンのアメリカ大使館存続を望むと表明

アメリカ国務省のプライス報道官は8月27日、タリバンがアメリカ政府に対して、8月末の駐留米軍の撤退期限後もアフガニスタンにあるアメリカ大使館の存続を望むと明確に示したと明らかにした。ロイター電共同通信などが伝えている。

ロイター電はさらに、プライス報道官が「アメリカはアフガニスタンの人々に対する人道支援を継続する」と表明し、「ただタリバンの財源にならないようにする」とも述べたと報道している。

アメリカはそもそも、このタリバン勢力を打倒するためにアフガニスタンに軍事侵攻をしたのだ。2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロの犯人であるアルカイーダのオサマ・ビン・ラディンを匿(かくま)っているとして、当時タリバン政権だったアフガニスタンを武力攻撃した。タリバン政権を崩壊させてから20年間、アメリカがアフガニスタンに留まり続けて戦ってきた相手はタリバンだ。

そのタリバンが、最大の敵であるはずのアメリカに「どうか大使館をアフガニスタンに残してくれ」というのだから、信じがたいような展開である。

しかし8月27日のコラム<タリバンと米軍が「反テロ」で協力か――カブール空港テロと習近平のジレンマ>に書いたように、カブール空港でテロ事件が発生して以降は、タリバンとアメリカは「共通の敵」=「テロ組織」を撲滅させるために、すでに力を合わせて戦っている。したがって西側諸国の象徴であるようなアメリカには、何としても大使館を置いてほしいと思うのも不自然なわけではない。

大使館を置くということは、タリバン政権を国家として認めたことにつながる。

アメリカが大使館を存続させるのならば、他の西側諸国も大使館を戻し、タリバン政権が樹立する「アフガニスタン・イスラム首長国」を国家として認める可能性が出てくる。

タリバンがアメリカと協力してテロ組織を打倒するという戦術に出たのは、これが目的だろう。

タリバンもなかなかに強(したた)かだ。

◆カブール空港の管理はトルコに依頼

8月31日までカブール空港を管理しているのは米軍だが、米軍が31日に撤退してしまうと、カブール空港を管理する者がいなくなる。

タリバンは航空機を持っていなかったし、航空技術や空港管理に長(た)けた者もいない。したがって米軍が去ってしまったら、カブールの空は機能麻痺をきたす。

そこで、同じイスラム圏であるトルコにカブール空港の管理を引き継いでくれないかと頼んでいるのだが、エルドアン大統領は8月28日の時点で、まだ最終決断をしていない。これに関しても非常に多くの報道があり、たとえば8月26日の時点ではロイターの<タリバン、カブール空港の運営支援をトルコに要請=政府関係者>が、最も新しい情報としては8月28日の<タリバン、混乱続くカブール空港の運営をトルコに要請>などがある。

要は、タリバンは「トルコ軍は撤退させて、空港の管理運営だけをトルコに依頼したい」のに対して、トルコは「トルコ軍なしで労働者の安全を確保するのはリスクを伴うので、トルコ軍の完全撤退を要求するのならば、技術的支援に同意しかねる」という姿勢である。

特に26日には170人以上が犠牲になる爆破テロ事件が起きているので、安全の担保が前提条件であるとして、なおさら慎重な姿勢を見せている。そこで、妥協点が見つからない場合は、タリバンはカタールにも空港管理を依頼しているようだ。

タリバンは山岳地帯での戦いには長けているが、航空機を持っていなかった。但しこのたびの米軍撤退に伴う政府軍との戦いで、タリバンはアフガン政府軍が管轄していたシーンダハル空軍基地やカンダハル空軍基地などを墜としたので、航空機だけは獲得したが、操縦する技術を持っていない。ましてや空港管理となると一層困難で、どこかの国に頼まなければならないのである。

◆中共軍による敗戦直後の日本軍の取り合いを彷彿とさせる

2015年7月27日のコラム<中国の空軍を創ったのは元日本軍――軍事演習「跨越-朱日和2015」>に書いたように、1945年8月14日、日本がポツダム宣言を受諾したという情報が伝わると、中共軍を率いる毛沢東は、ただちに大陸の各地にいる日本軍陣営に向けて進軍させた。

8月15日に日本が無条件降伏を受け容れると、天皇陛下の玉音放送が始まる前に、国民党軍を率いる「中華民国」重慶政府の主席・蒋介石は勝利宣言を発表して、同時に「日本軍は中華民国重慶政府に降伏しなければならず、武装解除は重慶政府が行う。日本軍はそれまで待機し、武器を中共軍に渡してはならない」と指示した。

日本が戦っていたのは「中華民国」なので、当時は首都を重慶に遷していた「中華民国」に対して武器を渡さなければならなかったのである。

ところが日本敗戦後に待ち構えている国共内戦のための布陣を早くから準備していた中共軍は、河北省や山東省をはじめ、ソ連軍が掌握した(元満州国であった)東北三省へと突き進み、日本軍に武装解除を要求し、少なからぬ武器と捕虜を獲得している。

その中で最も注目すべきは、1945年9月末に中共軍に捕捉された関東軍第2航空軍・第101教育飛行団・第4練成飛行隊300余名と軍用機数十機だ。

東北民主聯軍総部(中共側)の林彪(りんぴょう)や彭真(ほうしん)は、第4練成飛行隊の隊長だった林弥一郎(少佐)と直接交渉し、中共軍の航空学校創設のために協力してほしいと頭を下げた。

というのも、当時中共中央は航空学校も飛行場も持っていなかったからだ。毛沢東は9月に入ると東北民主聯軍総部に航空学校の創立を急ぐよう指令を出した。しかし教官となるべき人材がいない。そこで目をつけたのが元日本軍航空関係者だったのである。

元関東軍として当時遼寧省にいた林隊長らはシベリヤ送りを逃れ、「捕虜」としてでなく「教官」としての扱いをするのであればということなどを条件に、中共側の申し入れを受け入れた。こうして1946年3月1日に、中共の「東北民主聯軍航空学校」が誕生した。中共側の空軍学校第一号だ(詳細は拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』)。

中華人民共和国誕生後の1949年末には、さらに6ヵ所の航空学校が開校され、こんにちの中国の空軍の基礎を形成している。

タリバンの動きは1940年代の毛沢東が率いていた中共軍の状況によく似ている。

◆中国大使館が居座り続けることへの危惧

いまアフガニスタンには中国大使館やロシア大使館を始め、いくつかのイスラム系諸国の大使館が残っている。トルコ大使館も空港に遷していたが、元の場所に戻そうとしているという噂が、英文のSNSなどで流れている。

となると、ひょっとしたら、アメリカは大使館を存続させるかもしれない。

タリバンは、いかなる国の軍隊も残らないでほしいと望む一方で、できるだけ多くの大使館が存続してほしいと強く望んでいる。国家として承認してほしいからだろう。

アメリカはこのたびも、アフガニスタンとパキスタンとの国境地帯から無人機を飛ばしてテロ組織の主犯を殺害したようだ。タリバンが「テロの主犯が誰で、どこにいるか」という詳細情報をアメリカに渡したのだろう。そうでなければ、あれほど短時間に正確に一個人を絞って殺害できるはずがない。

バイデン大統領は「何としてもテロの犯人に償わせてやる!」と強気だが、アメリカの最後の名誉を保つためにもタリバンとの協力が必要だという、とんでもないところに追い詰められていることだろう。あの強気の発言の裏には、水面下におけるタリバンとの連携があるにちがいない。バイデン退陣への声が高まる中で、タリバンと協力してテロ撲滅に動くことは、バイデンにとっても、案外に悪い選択ではないのかもしれない。

アフガニスタンからの米軍撤収は、もともとトランプ前大統領による「タリバンとの和平合意」から始まったことなのだから、「タリバン・アメリカ」が「和平合意」を軸に動くのは、そう不思議なことではない。

◆教育の向上と技術者養成が焦眉の急

中国のウェイボー(weibo、微博)に、おもしろいエピソードが書かれていた。

カブールにはチャイナタウンがあるが、そこにいる中国人の商人が、8月26日にタリバン政府の事務所に、ある許可証をもらうために行ったそうだ。すると守衛がいそいそとやってきて「何かご用ですか?」と丁寧な態度で尋ねた。通訳が「この人は中国人だ」と言うと、すぐさま「どうぞお入りください」と中に案内してくれたという。用向きを話すと、これがまたすぐさま許可証にサインしてくれて、ものの数分もせずに政府の事務所から出ることができた。

そこで、その許可証を持って空港に行くと検問があり、タリバンの兵士に質問された。許可証を見せたのだが字が読めないらしく、邪険に扱われて、なかなか空港内に入れない。それからすったもんだあり、いつまでも空港に入れないで困り果てていたところに、いきなり空港での大爆発があり、その人は一命をとりとめたというお話だ。

中国では「危機一髪だったねぇ!」という意味で話題になったが、これを通して見えるのは、アフガニスタンにおける教育水準の劣悪さだ。タリバン兵には字を読めない者が多く、アフガニスタン全体の識字率も非常に低い。

アメリカがアフガニスタンにある銀行を凍結させているので、お金を引き出すこともできない。そうでなくとも悲惨な経済状況にあるので、このままでは又テロの温床になっていく。

テロを生まないようにするためには教育をいきわたらせて経済発展を促すしかない。そうしなければ世界が又テロで脅かされる日々がやってくる。それを防ぐために、日本にもやれることはいくらでもある。

タリバンを助けるというのではなく、世界をそして日本を今後のテロから守るために日本に何ができるかという視点で考えたとき、アフガニスタン人の教育の向上と技術者養成は、焦眉の急であるかもしれない。

このウェイボー情報は、ふとそのようなことに目を向けさせてくれた。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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