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「金鉱の上に横たわる貧者」――アフガンに眠る地下資源と中国
2016年、タリバン平和会談促進のためにアフガン外相と会ったときの王毅外相(写真:ロイター/アフロ)
2016年、タリバン平和会談促進のためにアフガン外相と会ったときの王毅外相(写真:ロイター/アフロ)

アフガン人を中国では「金鉱の上に横たわる貧者」と称するが、タリバン勝利の前から中国がタリバンと経済協力を誓い合った狙いの一つにアフガンに眠る地下資源がある。これまでの動きと現状を考察してみよう。

◆アフガンに眠る地下資源の実態

中国の「商務部国際貿易経済合作(協力)研究院・中国駐アフガン大使館商務処・商務部対外投資経済合作司」は2020年、『対外投資合作国別(地区)指南 阿富汗(2020年版)』という調査報告書を発行した(以後、報告書)。商務部というのは中国の中央行政省庁の一つで、「阿富汗(アフハン)」は「アフガン」を指す。

アフガンには1兆ドルから3兆ドルにのぼる地下資源が埋蔵されたままになっていると言われ、報告書では「金鉱の上に横たわる貧者」という言葉でこの状況を表現している。

報告書によればアフガンには「鉄、クロム鉄鉱、銅、鉛、亜鉛、ニッケル、リチウム、ベリリウム、金、銀、プラチナ、パラジウム、タルク、大理石、バライト、宝石および半宝石、塩、石炭、ウラン、石油、天然ガス」などが開発されないまま眠っているそうで、その埋蔵量は現在わかっているものでは、おおむね以下のようになるとのこと。

図表1 アフガンに眠る地下資源の主要なデータ

『対外投資合作国別(地区)指南 阿富汗(2020版)』(中国商務部など発行)より

『対外投資合作国別(地区)指南 阿富汗(2020版)』(中国商務部など発行)より

コンデンセートとは、天然ガスの採収の際に地表で凝縮分離する軽質液状炭化水素のことで、天然ガスコンデンセートとも呼ばれる(常温常圧で液体)。

まだ探査が進んいないのか、ニッケル、リチウム、ベリリウム、パラジウム…などのレアメタルの埋蔵量に関しては書かれてないが、中国にとっては魅力的なものばかりだ。中国は世界的なレアメタルの生産地ではあるものの、最近では米中覇権における戦略的物質の一つとして益々需要が高まっている。

報告書には地下資源の分布図も掲載されている。

中国語で書かれているので、それを日本語に置き換えたものを以下に示す。

図表2:アフガニスタンに眠る地下資源の分布図

『対外投資合作国別(地区)指南 阿富汗(2020版)』(中国商務部など発行)より

『対外投資合作国別(地区)指南 阿富汗(2020版)』(中国商務部など発行)より

図表2で「新しく入札した」と書かれているが、この「新しく」は、上記分布図が作成された時のことで、この分布図がどの時点のものかは報告書には書いていない。おそらく10年ほど前にアメリカが調査した結果を参照しているのではないかと推測される。

中国企業に関しては「中国石油」や「中冶集団」などの名前が見られるが、これらは中国独自の情報として記入したものと思う。ここでは銅鉱山に関してご紹介する。

◆アフガン最大級の銅鉱山を早くから中国が押さえていた

実は銅鉱に関しては、2008年に中国冶金科工集団(中冶集団)と江西銅業集団が新たなコンソーシアム(共同事業体)を形成したとき、アフガニスタン政府はこのコンソーシアムがアフガニスタンの経済発展を後押ししてほしいと大きな期待を寄せていた。

そのためアフガン最大の銅山であるメス・アイナク銅鉱山(Mes Aynak)(世界で2番目に大きい未開発の銅鉱床)に関して、アフガニスタン政府は中国に「2008年から、30年間の採掘権」を与えているが、紛争が多く開発はなかなか進まなかった

2016年6月2日になると、中冶集団は中国五鉱集団に併合された(鉱は中国語では石偏)。

これは、2015年12月8日に国務院の国有資産監督管理委員会が世界に並び立つ企業を創設するための戦略的再編を行った線上にあるが、事実、五鉱集団はフォーチュン500社に選ばれている。五鉱集団は探査から高度な処理まで、サプライチェーンのすべての部分に精通した巨大企業となり、2016年にはアフガニスタン政府との契約が更新された。契約ではアフガニスタン政府への手厚い保険料やロイヤリティの支払いが約束されているだけでなく、現地で緊急に必要とされている鉄道や発電所などのインフラの建設も約束されていた。

前述の中国商務部を中心とした「報告書」にあるアフガン地下資源分布と開発現状のマップには、「五鉱集団」ではなく、「中冶集団」の企業名があることから、このマップは少なくとも2016年以前の情報に基づいていることが分かる。

もっとも、これも長引く紛争で実行に移されることはなかったのだが、「2016年半ば」に転機が訪れた。

◆「2016年」からタリバンと中国が取引開始

実は2016年にタリバンにとって衝撃的な事件が起きた。

2016年5月21日にタリバンの最高指導者だったアクタル・マンスール師が米軍によって殺害されたのだ。殺害を命じたのはオバマ元大統領。これによりタリバンを和平交渉の席に就かせようとしていた機運は遠のき、タリバン代表がその2ヵ月後の7月18日から22日まで北京を訪れ、中国に救いを求めている。

「外国の軍隊により占領されている屈辱」を訴え、「国際会議で取り上げてほしい」と中国に要望した。

中国がタリバン側に立って国際社会で主張してくれる代わりに、ある種の「交換条件」として「China gets an all-clear from the Taliban to mine for copper in Afghanistan(タリバンの許可を得て、中国がアフガニスタンで銅を採掘する)」

という事態にまで発展しているが、2016年における中国側からの公式発表は何一つない。

ということは、これらは秘密裏に進行していたことになり、このときタリバンは「中国に30億ドルの鉱山プロジェクト再開の許可を与えた」と言っているが、アフガニスタン政府は、「過激派グループがほらを吹いているだけだ」とせせら笑っていた。このときメス・アイナク銅山がある地域は、タリバンが支配していたようだ。

◆運搬手段は「一帯一路」のインフラ投資につながる

問題は地下資源を採掘しても、それを如何なる交通手段で運搬するかということである。

パキスタンやアフガニスタン一帯は山だらけなので、パキスタンとは「パキスタン回廊」とまで呼ばれるまでに至るほど、「一帯一路」によってインフラが整備され物流に困難をきたすことはなくなったが、アフガニスタンには紛争が絶えないためにインフラ投資をするまでに至ってない。

2008年にメス・アイナク銅山の採掘権を30年間獲得した時に、中国冶金集団公司がアフガニスタンで南北貫通鉄道を作る話を具体化しようとしていた。

たとえば2010年9月にはAgreement signed for north-south corridor(南北回廊に関する協定を締結)が成され、アフガニスタン政府のワヒドゥラ・シャハラニ鉱山大臣と中国冶金集団は、カブールとウズベキスタン、パキスタンを結ぶ鉄道の詳細調査を行う契約を締結している。

また、2011年10月にはConstruction on Kabul-Torkham Railway to Start Soon, Ministry of Mines Says(カブール~トーカム間の鉄道建設が間もなく開始されると鉱山省が発表)といったニュースもあったが、それらは全て、2016年の「タリバンと習近平政権」の水面下の話し合いまで待たなければならなかった。

その「水面下の話し合い」が表面化したのが、8月15日のコラム<タリバンが米中の力関係を逆転させる>で書いた今年7月28日の天津におけるタリバン代表と王毅外相の会談である。

ことのき中国が突如タリバンに接近したと思ったら大間違いだ。

地下資源開発、特に銅の採掘において、中国は長い年月をかけて用意周到に時期が来るのを待っていただけなのである。

◆駐アフガンの中国大使館が撤収しようとしなかった事実

その証拠に、タリバンの快進撃が始まった8月半ば、アメリカ大使館を始めとして多くのNATO側諸国の大使館が慌ただしくアフガニスタンから撤収しようとしていたのに対して、中国大使館とロシア大使館は微動だにしようとしなかった。

タリバンによって守られることを確信していたからだ。

この事実に注目している人は少ないが、これこそが「タリバンの背後に中国あり」を如実に示す、何よりの証左なのである。

◆2016年にもう一つの「交換条件」か?

2016年におけるタリバン訪中に始まり、その年に行われたインフラに関する商談に至るまで、中国はタリバンとの接触に関して一切公表しないのだから、ここからは「推測」となる。

中国の動向をじっくり見ていると、2016年あたりから中国における「テロ活動」が急激に減少していることに気が付く。

もちろんこの年は習近平が陳全国を新疆ウイグル自治区の書記に就任させて、ウイグル族の活動を徹底して監視するシステムを構築した年ではある。それが功を奏したこともあるだろうし、また顔認証や監視システムが導入されて2016年あたりを境にして「セキュリティ」が強化されたこともあるだろう。

しかし、2014年まで、あんなに盛んだったイスラム過激派グループによるテロ活動が一気に消滅したことの裏には、どうしても「2016年におけるタリバンとの接触」があるのではないかと思われてならないのである。

すなわち「タリバンを支援するので、その代わりにタリバンは東トルキスタン・イスラム運動の応援を絶対にしてはならない」という「交換条件」を中国はタリバンに要求したのではないかと思うのだ。だからこそ、8月18日のコラム<タリバン政権のテロ復活抑止に関する米中攻防――中露が「テロを許さない」と威嚇する皮肉>を書く必要に迫られた。

なお、2016年以降、中国はタリバンを前面に出した「和平協議」に注力していく。そこにトランプが乗ったという側面が、どうしても否定できないのである。

長くなりすぎた。これに関しては、また別途、考察を試みたい。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.