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バイデン政権の中国企業制裁はポーズだけ?
バイデン大統領(写真:ロイター/アフロ)
バイデン大統領(写真:ロイター/アフロ)

9日、米商務部は中国企業23社を新たに制裁リストに追加したと発表した。どういう企業で、中国に痛手を与えるか否かを分析したところ、アメリカ製品を使っていない企業が多く、中国の痛手は軽微であることが判明。

◆アメリカ商務部が制裁追加を発表

7月9日、アメリカの商務部は中国政府による新疆ウイグル自治区での人権侵害に関わったとする中国企業14社を含む23社(22社+1人)を貿易の制裁リスト(エンティティ・リスト)に加えると発表した。これは、「アメリカの製品を、これらの企業に輸出してはならない」という決定である。

具体的な制裁対象リストはこちらにある。中国だけでなく、

  • カナダ:2社
  • 中国:23社(22社+1人)
  • イラン:2社
  • レバノン:2社
  • オランダ:1社
  • パキスタン:1社
  • ロシア:6社
  • シンガポール:1社
  • 北朝鮮:1社
  • 台湾:1社
  • トルコ:1社
  • アラブ首長国連邦:1社
  • イギリス:1社

と、かなり多くの国にわたっているが、ロシアを除けば、基本的に中国企業の支社だったり、これまでアメリカが輸出を禁止していたイランなどへの輸出を、こっそり行っていたりする企業が多い。

そこで、ここでは中国企業23社がいかなる生産活動を行っている企業なのか、そしてアメリカから何を輸入していたのかを徹底して分析してみることにした。

◆制裁を受けたのはアメリカから半導体を輸入していない中国企業ばかり

エンティティ・リストに載せるという形での制裁は、すなわち、「アメリカはこれらの(中国)企業にアメリカの半導体チップなどを輸出してはならない」ということを意味しているので、制裁対象となった中国企業が、アメリカから半導体チップを輸入しているか否かを調べることは非常に重要である。

それを知るには、その会社で使っている半導体チップなどのハイテク部品が、いかなるレベルのものであるかを把握しなければならない。それがわかれば、中国国内で調達可能か否かがわかるので、制裁を受けたときに痛手を受けるか否かが明確になるという論理だ。

それを軸に調べた結果が下記に示した「制裁対象企業分析表」(分析表と略称)である。

分析表

制裁対象企業分析表(アメリカから制裁を受けた中国企業の分類と分析結果)(分析:筆者)

左の列には制裁対象となった英文の企業名と、それに対応する中国語の企業名を日本文字に置き換えて表示した。真ん中の列にあるのは、アメリカが制裁理由とした分類である。米商務部に列挙してある企業名は、アルファベット順になっているので、それ等を分類した。右側の列に書いたのが分析結果だ。

この分析表から明らかなように、「軍事利用」として制裁された企業は5社あり、輸出制限違反企業は4社で、そのうち1社は個人なので、正確には「3社+1人」が輸出制限違反である。これは、たとえばイランに輸出してはならないとされている製品を輸出したといった事例を指している。

最後の「ウイグル」と書いてあるのは、新疆ウイグル自治区のウイグル人(ウイグル族)の人権侵害に関与した企業のことで、14社ある。

さて、分析してみた結果、たとえば軍事利用のトップにあるArmyflyは軍隊のIT製品を生産する会社で、もともとアメリカの半導体チップを基本的に使っていない。中国国内で生産されたものしか基本的に使わないので、制裁されても影響は受けない。

2番目にあるKylandは、Armyflyの親会社で、28nm(ナノメータ)の半導体チップ(KS2300X)を生産しており、アメリカからの輸入は必要ない。なぜなら、28nm半導体チップは中国内で十分に生産できるサイクルが出来上がっているからだ。したがって制裁を受けても影響を受けない。

3番目にあるKindroidは2番目にあるKylandの半導体チップを使用しているので、たとえば上位3社は互いに「内循環」として作用し、国内でのサプライチェーンを形成している。

中国には今「双循環」といって、「内循環」と「外循環」の二つにより経済を成立させ、できるだけ「内循環」を増やすという方向に動いているが、特に軍事に関しては早くから「内循環」に依存するようにしているので、ここに制裁をかけても、あまり有意義ではない。

「輸出制限違反」に関しては検討するまでもないので省略する。

問題は「ウイグル」という分類にある企業だ。

このカテゴリーでは、ほとんどが最後にまとめて列挙してある「ソフトウェア・システムの開発」をする企業なので、使うのは「頭脳」だから、制裁のしようがないと言っていいだろう。おまけに製品(ソフト)は中国政府の官公庁に提供しているので、サプライチェーンにおける支障もきたさない。

他に、ハイクビジョンと関係する会社があるが、ハイクビジョンは2019年のトランプ政権時代に制裁を受けており、結果、制裁の影響をあまり受けなかった。

というのは、ハイクビジョンが使用している半導体の80%が中国国内産で、残り20%はアメリカ以外の代替品で補うことができたからだ。分析表に書いた通り、その証拠に2020年における収益は落ちておらず、むしろ制裁後に増加している。

◆バイデン政権はポーズのみか

結果、何が言えるかというと、バイデン大統領は「さあ、私はこんなに強く対中強硬策を実施しているぞ!」と、アメリカの選挙民(トランプ支持者)に見せてはいるものの、実際は中国にそう大きな実害を与えていないという、実に狡猾なことしかしていないということだ。

これは6月7日のコラム<バイデン対中制裁59社の驚くべき「からくり」:新規はわずか3社!>と同じ構図である。

◆ウイグル問題に関しては一定の効果

もっとも、ウイグル問題に関しては、中国に対して一定の効果はもたらしているものと期待していいだろう。

日本のように、ウイグルの人権侵犯に対して制裁を与えることができる日本版マグニツキー法案(自民党の中谷議員らの呼びかけによって成立していた議員連盟により提唱された法案)を自民党の二階幹事長や公明党により菅政権は潰してしまったのだから、そういう国に比べれば、アメリカはよく頑張っているという評価はできるだろう。

対中包囲網に関して、あたかも日米が足並みを揃えているようなことを言っているが、ウイグル問題等に関しては、足並みはそろっていないのである。

世界情勢を見誤らないように注意を喚起したい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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