2021年4月16日、日本の菅義偉首相は、アメリカのジョー・バイデン大統領が就任して以来、初めてホワイトハウスを訪れる外国元首となった。バイデン政権の発足から3か月も経たないうちに開催されたこの首脳会談が、菅義偉内閣の外交関係者を大いに励ますものとなったことは疑いようがない。日米首脳会談では、第5世代移動通信システム(5G)、新型コロナウイルス感染症、脱炭素化などの議題が取り上げられ、協力項目は、気候変動から軍事協力までを含む、米国の左派および右派の基本的な利益と関心に配慮するものとなった。
日本は、中国が尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺に公船を派遣し、日本の主権を一方的に脅かしている問題を提起し、日米双方は「安全保障条約」第5条が尖閣諸島に適用されることを再確認した。米国は、米中間のグローバル競争をめぐる陣営に日本を首尾よく引き入れた。日米双方は日米同盟がインド太平洋地域の安全保障の中核であることを再確認し、また「自由で開かれたインド太平洋地域の未来」を築くことを宣言した。
共同声明では、「武力または脅迫という手段によって東シナ海または南シナ海の現状を変更し地域を威嚇しようと試みる全ての企みに反対し、また、台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認する」ことへの稀に見る言及がなされた。また、尖閣諸島(中国では魚釣島、台湾では魚釣台と呼ばれる)の主権問題をはじめ、安全保障、南シナ海、新彊ウイグル自治区および香港の人権問題、さらにはめったに議論されることのない台湾問題、そして将来の国際産業チェーン、ハイテク競争など、インド太平洋地域と中国に関連する全ての「デリケートな話題」に焦点が当てられた。
二度の日米共同声明を比較してみると、その歴史的背景や時間が完全に変化したことが分かる。1969年、米国は、地域の同盟国に安全保障を提供し、「条約に従って中華民国(台湾)を守る」ことを約束した。当時、日米両国は中華民国(台湾)と国交があり、「中国」とは外交関係を結んでいなかった。2022年、日米は中国と外交関係があるだけでなく、重要な貿易相手国としての関係にもある。
日米共同声明には、米国が日米同盟という中核の再強化に力を注ぎ、また日米豪印(クアッド)の形成を促進することで、中国の全面的な挑戦に対応しようとする姿勢が見て取れる。 1969年の日米共同声明で言及されたような台湾の安全保障に対するコミットメントはないものの、「台湾海峡における平和と安定の重要性」を強調し、台湾問題の平和的解決を促すとされた。
台湾は米国の「反中国同盟」の犀の角になる
1972年に日本が中国と国交を結んで以来、日本政府は中国を刺激しないよう、台湾問題には慎重な態度を取ってきた。そして長期間にわたり、米国と中国の間でバランスの取れた関係を維持してきた。実際のところ、日本は米国を離れたことはなかった。経済と貿易の利益に後押しされ、日本はかつて中国に傾斜しかけたことがあったが、米中貿易戦争、ハイテク産業チェーンの断絶、新型コロナウイルス感染症を経て、菅義偉内閣は共同声明を通じ、米国への支持を行動で示した。
2021年4月18日、日本の新聞やメディアがトップニュースとして大々的に報じたのみならず、あらゆる報道が台湾に焦点を当てていたことからも、日米共同声明における台湾の重要性が見て取れる。米国のバイデン政権は、過去40年間における両岸問題上の「戦略的曖昧さ」を放棄し、「台湾の防衛を支援する」という明確な政策方針へと舵を切った。主な原因は、経済的成長を遂げた中国が、アジア太平洋地域における軍事的な実力を急速に伸ばし、台湾海峡両岸における軍事的な実力の格差が日増しに拡大していることである。台湾海峡の現状が維持できなくなれば、それは米国にとって、「自由で民主的な世界」がさらに縮小することだけではなく、第二次世界大戦後に構築された「第一列島線」が崩壊し、アジア太平洋地域の秩序が瓦解することをも意味する。
今回の「中国対抗」政策は、1950年代に米国が中国とロシアに対して採用した封じ込め政策に似ている。日本の菅義偉首相に続き、韓国の文在寅大統領が5月下旬にホワイトハウスを訪問する予定だ。また、米国は欧州の同盟国との関係についても積極的に修復を進め、中国大陸に対抗するための体制を強化している。インド太平洋地域で開催された日米豪印「4カ国首脳会談」は、表向きは自由で開かれたインド太平洋地域の確立を目指すものであったが、外部からは米国が同盟の形式で中国に対抗しようとしているものと評価された。
台湾の与野党による解釈の違い
「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」とされたのは1969年の日米共同声明以来初めてであり、その歴史的重要性は明白である。しかし、台湾の与野党はそれぞれ異なる解釈をしている。
野党国民党の文化通信委員会の副委員長である鄭照新氏は、声明全体は多くの議題を含む包括的な内容であり、台湾海峡はその一部に過ぎないと述べた。また、紛争リスクの増大を避けるために、台湾は中華民国の主権と台湾人民の利益を優先し、台湾海峡が強権国家の戦場となることを防ぎ、地域と台湾海峡の平和と安定を維持すべきだと述べた。
日米共同声明では、尖閣諸島が日米安全保障条約の範囲内であることが再確認された。また菅首相とバイデン大統領は、1960年の日米安全保障条約第5条が尖閣諸島(台湾では釣魚台と呼ばれる)に適用されることを表明し、米国は日本の管理下にある領土が武力攻撃を受けることがないよう防衛することを宣言した。国民党のスポークスパーソンであり国際部の副長官である何志勇氏は、蔡政権が自国の主権をしっかりと擁護するように要求し、また謝長廷駐日代表を名指ししたうえで、外交部が適切な対応をするよう要求した。
4月19日に財団法人国策研究院(The Institute for National Policy Research)が開催した「日米首脳会談と台湾海峡問題」シンポジウムにおいて、天弘茂会長は、中国の経済力が不断に成長し続け、近隣諸国も脅威を感じているということを指摘した。その脅威とは第一に、台湾海峡で台湾を周回する軍用機が増加していること。第二に、中国で海警法が可決したことが、日本の尖閣諸島海域の安全に脅威をもたらし、日本政府がどのように対応すべきかを模索していること。そして第三に、南シナ海をめぐる紛争の問題である。
米国と日本は、台湾を防衛するのだろうか?この問いには、米国が台湾の防衛に協力するかどうかという「戦略的曖昧さ」と、日本が米国を支援するかどうかという「支援の曖昧さ」の二つが関わっている。財団法人台湾智庫(Taiwan ThinkTank)の顧問メンバーである頼怡忠氏は、米国は戦略的な曖昧さを放棄しないと見られるものの、米国が台湾の防衛を支援するという方向性は明らかになったと指摘している。日本国憲法は、戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認について明確に規定しており、一般的に「非戦」または「平和」の憲法と呼ばれている。だが、憲法第9条(の解釈変更)と日米ガイドラインの2度の改定を経て、自衛隊の権利と責任はかなり緩和され、どのような条件下でどのような行動を取ることができるかが明記された。
「日米台湾三角同盟」の雛形
2015年、安倍内閣は「集団的自衛権」を含む「平和安全法制」を制定し、「重要影響事態」の概念を提唱した。「台湾」が直接名指しされてはいないが、日本が過去20年以上にわたって台湾海峡の安全を日本の安全保障問題の範囲に含めて考慮してきたことも明らかにされた。
日中首脳会談が台湾問題を共同声明の内容に盛り込んだことについて、中国外交部は、「強烈な不満と断固たる反対」を表明するとともに、「中国は国家の主権、安全、および利益を断固として守るためにあらゆる措置を講じる」と述べた。外界は中国が次にどのような対抗策をとるかを観察している。中国の習近平国家主席は、既に日本への訪問を1年以上延期しているが、2021年も日本への公式訪問を行わない可能性がある。表向きの理由は、中国と日本が依然として新型コロナウイルス感染症を対処しているためであり、また中国は香港や新疆ウイグル自治区の問題にも取り組んでいるためである。日米共同声明の後、日中関係は必然的に再び低迷するであろう。2022年は日中国交正常化50周年にあたるが、この重要な時期に習近平の訪日が影響を受けるかどうかは、外界の注目するところだ。
日米が台湾海峡の問題に共同で介入したことは、中国北京にとって最も神経を逆なでされる出来事であった。台湾海峡、日米関係、日中関係を取り巻く状況は、アジア太平洋地域の国々を不安にさせている。16日の日米首脳会談後に共同声明が発表されたとき、親台湾派と見做されている岸信夫防衛大臣は日本の最西端の島である与那国島を視察していた。この島は沖縄県の最西端に位置し、台湾花蓮から僅か111キロメートル、石垣島から117キロメートル、那覇から509キロメートル、東京からはさらに遠く離れた2112キロメートル離れた場所にある。岸信夫氏は、岸辺に立って台湾の方角を眺めている写真をツイッターに投稿し、曇り空のため台湾が見えなかったとコメントした。これにより、台湾と日本の距離が近く、両国が中国からの脅威に共に直面していることを表現したのである。
2021年、中国の全国人民代表大会常任委員会が「海警法」の改正法案を可決し、外国船との衝突における武器の使用を許可したことにより、南シナ海と東シナ海における緊張が高まった。先般は、中国の海警船が釣魚島周辺の海域に出没し、日本の漁船を追跡する出来事が生じた。日本はまた、中国が南シナ海に配備した「民兵船」の人数は数万人、船舶数は数千隻に上ることに気が付いた。海上民兵はグレーゾーン地帯を徘徊し、漁船の大群を使って相手を圧倒しながら、南シナ海全体の実質的な支配権と主導権を徐々に固めようとしている。これらの民兵船は、東シナ海に航路を変え、武力を使うことなく包囲を進め、日本に対して釣魚島の領土主権を主張する可能性もある。
台湾は「日米台湾三角同盟」に対応する準備ができているか?
2020年以降、中国人民解放軍の軍用機が「台湾海峡中間線」を継続的に横断し、台湾の防空識別圏の南西部に出入りする頻度が高まっている。だが、南シナ海における米国のインド太平洋戦略と自由航行権をめぐる対立ばかりではなく、台湾の北東に位置する宮古列島の上空において、日本、台湾、中国の軍用機が誤判により武力衝突し、台湾海峡の危機が発動する可能性についても留意する必要がある。
台湾政府が理解すべきなのは、日本と台湾との「国交がない」現状において、日本政府が台湾との軍事協力を直接強化するのは難しいということである。だが日本は、日米安保条約および米国との同盟関係を通じて、米国を「後方支援」するという形で「日米台湾三角同盟」に類似する実質的な協力関係を形成し、これに参加することができる。米国を中心とする軍事情報の共有だけではなく、何らかの形による三者間の軍事演習の可能性も排除されるものではない。
日米共同声明の発表を経て、今後、台湾海峡問題は「日米同盟」の枠組みで解決が図られることになるだろう。台湾政府は、日米台湾の三国間関係の今後の情勢に注目するだけでなく、日米同盟の二国間関係にもより多くの注意を傾け、日米双方とのコミュニケーションと対話のメカニズムを積極的に確立し、強化していくべきである。
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