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中国・「一帯一路」と台湾
2019年7月5日
中国「一帯一路」の国際会議に登壇する習近平(提供:アフロ)

王尊彦

助理研究員

国防安全研究院非伝統的安全および軍事任務研究所

(台湾)

 

1.様々な問題を抱えている「一帯一路」

中国の「一帯一路」は、恐らくいままで中国政府が打ち出したなかでも最も世界的に知られると同時に、批判される対外政策であろう。

周知のように、本来「一帯一路」は、経済の創設を目的とする巨大計画である。中国政府は、「一帯一路」がもたらす経済的メリットを、声高に喧伝してやまない。しかし、かえって国際社会は、それが引き起こしかねないネガティブな影響をますます懸念している。

「一帯一路」政策の下による工事のために自然環境や生態系が破壊されたことが批判を受けている。それに、「一帯一路」による債務問題もある。多くの「一帯一路」沿線国は途上国であり、経済発展のためにインフラの整備を必要とする。しかし、「一帯一路」に参加すれば、今度は中国からの莫大の融資を返済できなくなり財政的困難に陥ってしまう。最悪の場合は、債務返済のため国家主権を譲ることを迫られる。例えば南アジアでは、スリランカ政府は、中国資本で建造したハンバントタ港(Port of Hambantota)の99年間の運営権を、結局中国の国有企業へ譲渡せざるを得なくなった。そして、パキスタンのグワダル港(Gwadar Port)も似たように、中国に43年間租借されることになっている。東南アジアでは、カンボジアのコッコン港(Port of Koh Kong)も99年間の使用権を中国に渡している。

2006年、クリストファー・J・ぺーソン氏はアメリカ国防総省部内報告書の中で、中国が地政学的に重要な港の使用権を入手して影響力を世界的に拡張している、といった動向を、「真珠の首飾り」戦略と名付けた。これはエネルギー海上輸送ルートの安全を確保するための政策だと解されるが、それに脅威を感じる国は反対する。例えばインドは、それを「洋上からのインド包囲線」と見なしている。国際社会は、「一帯一路」を懐疑的な目で見ている。

 

2.国際社会からの警戒の目

今年1月29日、ダン・コーツ米国家情報長官(DNI)は参議院情報委員会で、「一帯一路」はインフラ整備に過ぎないのではなく、「一帯一路」で指定される地域は地政学的・軍事的含意を持つものだ、と「一帯一路」の戦略性へ注意を喚起している。

同年5月2日、米国防総省は議会への年次報告書『中国に関わる軍事・安全保障上の展開2019』 を発表した。同じ報告書の中では「一帯一路」の現状や動向を論じており、中国がアフリカのジブチに基地を擁することを例に挙げ、中国は「一帯一路」の工事・人員の保護を理由に海外で軍事基地を建造して軍事的プレゼンスを増やそうとしている、と「一帯一路」に隠れ得る軍事的企図を示唆している。

同月4月に米・国防情報局は、すでにこの報告書に先立って『中国の軍事力』と題する報告書を発表していた。そこでは、「一帯一路」は経済発展や貿易促進を目的とすると言われるが、運輸が「一帯一路」プロジェクトの核心的な部分なので、中国人民解放軍(または解放軍、中国共産党の指導する中国の軍隊)は改善された運輸システムの利用によってメリットを受けることになると指摘している。

また、シンクタンクも「一帯一路」に関して警鐘を鳴らしている。例えば、米シンクタンク・新アメリカ安全保障センターのダニエル・クリマン研究員は、米議会の超党派諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」の公聴会(2018年1月25日)で、中国は「一帯一路」及び海上運輸の需要から海外の軍事基地が必要となり、それによって解放軍の内部で海外戦力投射の能力増強を呼びかける声も大きくなろうと述べた。

 

3.「保護」という名のもとに

中国が「一帯一路」の背後にいかなる戦略的意図を抱えているかを、今の時点では確固たる証拠をもって証明できない。しかし、「一帯一路」関連の工事やスタッフに脅威・被害を与えた事例はすでにある。パキスタンでは、一度ならず「一帯一路」プロジェクト関連の中国人が地元の武装集団・バロチスタン解放軍(BLA)の攻撃を受けて死傷者が出た。

また、こういった「一帯一路」に関わる安全面の含意について、民間の警備会社の存在も注目する必要がある。中国では、経済が成長するにつれて警備産業も急速に発展してきている。アジア・タイムズによると、2017年には中国内の警備会社は5000社に上り、約500万人が雇用されている。一方、前述した「一帯一路」プロジェクトの安全確保の需要から、セキュリティー・サービスの提供も求められている。そこで重要なのは、国策の観点から「一帯一路」を保護するため警備産業の発展を支持すべきだとの声はすでに中国政府関連者から出ている点だ。朱成虎・中国国防大学教授(階級は少将)も、その中の一人である。実際、前述のアジア・タイムズの報道では、中国の警備会社には元・解放軍兵士のスタッフが多数いると指摘される。

 

4.「一帯一路」の台湾に対する戦略的含意

台湾政府は、「一帯一路」に反対しないと立場を表明している。なお、中国は現在に至るまで台湾の主権を否定し、台湾とは依然として対立関係にある。そこで台湾は、ほかの国とは異なる視点から「一帯一路」を見る必要がある。

中国は、台湾に対して硬軟両様の戦術を講じている。一方では、千基以上のミサイルの照準を台湾に当てたり、台湾の周辺に軍機を飛行させたり、軍艦に台湾を周回する航行をさせたりするなど、台湾政府にプレッシャーをかけている。他方では、台湾の人心を収攬すべく、今年2月下旬に中国でビジネスを行う台湾人に対して「31項目の台湾優遇措置」といった懐柔策を打ち出している。

こうした中・台関係を背景に、台湾政府にとって「一帯一路」はもはや単なるインフラ整備や貿易促進のグランド・プランだけでなく、台湾統一(いわゆる「統一戦線」もしくは「統戦」)策ともなりうる。すなわち、北京は「一帯一路」の経済的利益を以て台湾企業を引き寄せ、そして中国に取り込む。もちろんその場合は、「国家統一を支持する」台湾企業にしか「一帯一路」への参入の機会を与えない。

中国政府の高官や台湾工作担当の機関は、特にに中国で操業する台湾企業に対して「一帯一路」のメリットを宣伝し、参加を呼び掛けている。例えば、当時中国全国政治協商委員会主席を務めていた兪正声は、中国と台湾は「一帯一路」で協力すべきだと明言し、国務院・台湾事務弁公室も「一帯一路」への参加を呼び掛けている。

実際、台湾の内部でさえ、一部のマスコミも中国の呼びかけに呼応するかのように「一帯一路」支持を煽って憚らない。例えば、今年5月13日付の『旺報』の記事(「一帯一路応結合台商的長処」)は、「大陸でビジネスを行っている台湾企業者にとって、一帯は将来の発展への重要な機会だ」と報道している。

 

5.「一帯一路」の安全保障的側面も統戦的含意

もし台湾企業が続々と「一帯一路」へ参加することになれば、台湾政府にとっては、先に触れた解放軍の海外基地や「一帯一路」プロジェクト関連の警備会社も、単なる安全面の話でなく、統戦的な含意を有すものとなる。

「一帯一路」プロジェクトは、政治的・社会的に不安定で危険な地域に及ぶことが少なくない。それでは「一帯一路」に従事する台湾人も、同様にリスクに晒されてしまう。また、中国の警備会社に元解放軍人が多いことは前述した通りだが、彼らは制服を着た現役の軍人と比較すれば、より台湾人に接し易いと思われる。もし北京当局が警備会社にも国家統一の「神聖なる使命」を課すとすれば、彼らも「統戦」の力にもなりうるかもしれない。

そもそも台湾は外交関係を持つ国が少なく、台湾に正式な大使館や領事館を置く国は少数である。駐在事務所(代表処)の数も中国の在外機構に比べものにならない。万が一テロや襲撃などの事件が起きたら、台湾人は地理的に一番近い中国の軍基地または警備会社に保護を求めに行くしかない。これは、あたかも「祖国・中国が台湾同胞を守ってやる」というように国際社会の目に映り、台湾政府のイメージダウンにつながることになろう。

2018年9月、日本駐在の台湾ベテラン外交官が自殺した事件はまだ記憶に新しい。台風で関西空港に残された中国人観光客を、中国の大阪総領事館がバスを手配して退避させる、といった内容がネット掲示板に書き込まれた。そこで、「台湾政府は台湾人観光客への支援が不十分だった」との批判が蘇啓誠(そ・けいせい)台北駐大阪経済文化弁事処代表(当時)に殺到した。「同胞」への対応における中台間の比較と、それが引き起こした国内からの責任追及は、責任感の強い蘇氏にとって耐えられないプレッシャーとなっただろう。

このような台湾海峡両岸の比較は、「統戦」そのものにほかならない。こう考えると、台湾にとって「一帯一路」もある種の「統戦」の「前線」と言えなくもない。今後、台湾政府が対中政策(いわゆる両岸政策)を検討する際、「一帯一路」も一つの重要な論点として深く考えなければならない。

 

(この評論は6月30日に執筆)

王 尊彦
助理研究員 / 国防安全研究院非伝統的安全および軍事任務研究所