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中国で略奪的国家資本闘争が進行中
2021年2月24日
アリババ系金融会社、香港と上海での上場延期(写真:Featurechina/アフロ)
アリババ系金融会社、香港と上海での上場延期(写真:Featurechina/アフロ)

一、「略奪的経済」の警鐘が全世界と中国国内に響き渡る

貿易戦争の最中、米国務長官のポンペオ氏は、中国政府が全世界で最も知的財産を窃取する国で、まるで「略奪的経済学101」(predatory economic 101)で前代未聞だと痛烈に批判した。中国は一帯一路のインフラ整備を通じて、労働力、技術、製品等を輸出し、一帯一路沿い諸国の中小企業の発展に打撃を加え、「中国製造」(MIC)の製品が全世界の市場の到るところで氾濫、米国や日本やEU等の西側企業であっても中国企業と競争するのはとても難しい。例えば、世界のアルミ生産能力が過剰になっている中で、国内圧力を解消する為、中国政府は国有企業に補助金を与えて廉価で輸出させ、市場価格を壊しただけでなく、全世界のアルミ市場を独占してしまった。

2020年、中国はRCEP調印式後に、CPTPPへの加盟を検討すると表明、また最近では声明で経済開放とグローバル化を発表、こうした動きは中国がグローバル化した略奪的経済発展の途に邁進しつつあるという懸念を懐かせる。全世界で略奪的経済を推進している以外に、中国は国内でも一連の略奪的経済手段を展開している。2017年の都市での「低端人口(=下層民)」排除、中産階級投資P2Pレンディングプラットフォーム業者の倒産ラッシュ、地方政府による地方債濫発の黙認、「国進民退(=国有経済の増強と民有経済の縮小)」下での計画的な民間及び私営企業資本の抑圧と吸収から、「螞蟻金服(アントフィナンシャル)」の突然の上場停止が党国権貴(=一党独裁国家の権力者層)派閥間の闘争を誘発するまで、何れも中共内部で「略奪的」な国家資本の闘争の渦が進行中であることを暗示するものだ。

二、都市での「低端人口」排除

2017年11月18日、北京大興区西紅門鎮で火災が発生、都市辺縁の廉価なアパートに居た他省出身の出稼ぎ労働者が、政府から救済を得られなかったばかりか、却って厳冬の中に追い出されるという憂き目に遭った。これら追い出された外来人口は、その多くが「低端人口」(low-end population)に属する。これは低学歴、低所得、ローエンド産業に従事する人口を指し、都市住民の生活の需要を提供し、運輸、建築、飲食配送等の諸サービスに従事する人々であった。

この一群の人々は他の省・市からやって来た貧困出稼ぎ労働者で、都市住民の労働市場を補う反面、より窮屈な景観及び建築居住の問題をももたらす。苛酷な都市・農村戸籍制度における多くの制限の下で、恰も「アメリカンドリーム」を織りなすように、いつか都市に落ち着いて根を張ることができる日を待ち望んでいるのだ。

北京から「低端人口」を排除し、「低端人口」の移動を規制もしくは強制し始めたのは、抑々単純な市街地再開発の過程であったのだが、それまで占拠されていた「低端人口」の集落があっという間に建設業者に取って代わられたことで、「低端人口」の排除が都市景観整備の準備ではなくて、建設業者に替わってより好い建設用地を提供することであったことが浮き彫りになった。

たとえ当局が再三に亘って「低端人口」を排除したことなど無いと釈明したところで、一般大衆にとっては言わずとも知れたことであり、北京市が政策と称して外来人口を「クリーンアップ」することが、社会進化論の実践なのかどうか、これら外地から来た底辺の労働者を正にこっそりと「浄化」中なのである。

三、「ニラ刈り」:P2Pレンディングプラットフォーム業者の無警告倒産ラッシュ

中国政府によるデレバレッジや強力な監督の推進に伴い、資産バブルがゆっくりと絞り出され、百兆元にのぼる民間の富が、行き場を失うという窮地に陥っている。北京・上海・広州の不動産価格は既に天井までつり上げられ、二線都市(=各省の省都や、経済発展した地域中心都市)でさえ手が届かないほどなので、新たな投資ターゲットを探すことが、既に中国の中産階級にとっての全民運動になっている。とりわけスマホのプラットフォームでオンライン引き落としが可能な、定期定額の少額投資なのに、10%を謳うか若しくは投資高利回りのP2Pソーシャルレンディング(クラウドファンディング)プラットフォームが注目の的だ。

目下、中国の1年ものの基準預金金利は1.5%、マネーファンドは約4%の収益を提供し、一部銀行の大口預金金利は4.2%に上る。2017年、国内信託商品も少なくとも6%のリターンを提供するが、他国の銀行及び理財等の提供するに較べると、10%の保証は決して最良の投資という訳ではない 。

但し2018年から、これら会社は10%の利益を保証することができなくなった。多くの中産階級が毎月定期定額でこれらベンチャー投資会社に投資する習慣であったのが、今となって全てパアになり、甚大な損害を被った。これらの会社は資金ギャップを埋める為に、またもや高レバレッジの国有企業発行の債券につぎ込んだ。米中貿易戦争から生じた緊縮の波の中で、犠牲者になったのだ。

「百年盛世(=いつまでも繁栄した世の中であってほしいという願い)」に加えて「発財夢(=いつか大儲けしたいという望み)」の下で、投資で金持ちになりたいという良からぬ夢想を中国中産階級に持たせたのだ。人々の訴えにも拘らず、中国政府はこれらP2Pレンディングプラットフォーム業者の無警告倒産に対し、何の規制もしなかったので、中国の民営企業と投資家が「ニラ刈り」の如く好きなように刈り取られることとなった。

四、「藏債於民」:地方政府の起債と債券公開販売

2020年は世界各国とも大規模な起債の年で、IMF予測によれば、世界主要国は今年12兆ドルを起債し、新記録を作った。Windデータ統計によると、11月30日現在、中国の地方債は既に合計6.26兆元を発行済みで、中小銀行に注入する人民元2000億元の特例債が間もなく発行されるのを加えると、通年の中国地方債発行規模は新記録の人民元6.5兆元に上る。

中国の地方債は2009年に発行が始まって以来、12年間の拡張を経て、目下その残高は人民元25.3兆元に上り、債務比率は100%‐120%の国際的に公認された警戒ラインに迫りつつある。中央からの経費注入が無い中で、地方政府が地方の建設と開発を望む場合、地方債券を発行するほかない。地方債券が大幅に伸びることは、中国の地方政府が資金面で厳しい逼迫に喘いでいることを反映するのだ。これら地方債の償還期限は5~10年の長きに亘るが、地方政府は抑々返済能力がなく、期限満了後もまた新債で旧債を相殺するので、中国の地方税収に大きな影響を与える。

地方財政の逼迫を解決する為、新しい地方政府債券の試験発行のつもりだった。他の国なら「藏富於民(=富を民間に蓄積する)」だが、中国の今のやり方は逆に「藏債於民(=債務を民間に蓄積する)」だ。地方債を開放し民衆に引き受けさせたが、地方債の販売成績が芳しくないことが後に発覚した。地方政府が地方債券を補填することができない中で、却って必死になって債券を発行すれば、連鎖ドミノが引き起こるのは必至だ。

五、「国進民退」が民営企業を打撃

2018年、習近平は東北視察中に、中共が民営企業、特に体質不良の民営企業を市場から締め出し、国営企業に取って代わらせたい考えであることを思わず暴露してしまった。中国で珍しく市場経済の消滅が出現したことは、鄧小平の改革開放が自由市場経済を強調したことからの一つの転換点を映し出している。

鄧小平の南巡(南方視察)で、地方経済と加速的民営企業の誕生発展が宣言されてから 比較的に効率の悪い国営企業が続々と市場から撤退した。これまで鄧小平の改革開放期間に創出された多くの中小企業もしくは民営企業が、一歩一歩、中共によって回収されるのだ。

上場を頼りに資金を調達する少なからざる民営企業は、株式の価値が腰折れした為、嘗てに較べて借金がより難しくなった。特に大陸A株の大幅な下落で、多くの上場会社で元々抵当貸付に用いていた法人株が、今や銀行の評価基準に晒され、株式が若しも特定価格まで下落したら、これら貸付は質入れされることになる。A株私営企業は正に国有化の憂き目に遭いつつあるのだ。株式の時価が暴落すれば、多くの上場会社が国有大型銀行に回収されるリスクがある。

たとえ中共中央が少しの揺るぎもなく非公有経済の発展を「奨励、支持、指導、保護」したとしても、最近の大陸の「国進民退(=国有経済の増強と民有経済の縮小)」恐慌に対する一つの「戦略的反応」だと既に看做されている。民営企業が所期の成長を果たしていない中、国家企業の失業が日増しに厳しくなる可能性を考慮すれば、中国政府は強硬措置を採用し、民営企業の撤退を迫らざるを得ない。これは中国がまたもや嘗て来た道に舞い戻ることを意味しているのだろうか?

六、「螞蟻金服」:国家機械が手を下して「錢袋子」を強奪

外部から価値2000億ドルに上ると見積もられている、世界最大のユニコーン企業「螞蟻科技集団(アントグループ)」(「螞蟻金服(アントフィナンシャル)」ともいう。)は、世界で最も価値のある新会社を元々2020年11月5日に上海と香港の両地で同時に上場する予定だったが、香港での上場前に、馬雲(ジャック・マー)ら党国資本家が失脚した。習近平が江沢民派と決裂し、前倒しで「錢袋子(=金蔓)」を奪うことにしたのだと多くの人が察知し始めた。

2017年中国共産党第19次全国代表大会中央政治局常務委員会で、習近平は中国共産党総書記に再任され、尚且つ「常務委入り」名簿と序列を完全掌握した。第18次全国代表大会で、王岐山中央紀律検査委員によった腐敗撲滅というメニューは、とりあえず終止符が打たれた。第19次全国代表大会で、「槍桿子(=軍)」を手中に収め「筆桿子(=メディア)」を厳しく統制した後、習近平は「刀把子(=権力)」をしっかり握って腐敗撲滅の取組を強化すると共に、金融改革を囃し立てて「錢袋子(=金蔓)」に照準を合わせた。

元々「錢袋子」を奪うのは第20次全国代表大会、即ち習近平の次の任期が始まってからだろうと予測されていたが、財力があって強気のジャック・マーは、「国務院金融安定発展委員会」(台湾の金融監督管理委員会に類する)による金融監督の仕組みなど全く歯牙にかけなかった。10月24日、アントグループの最初の株式公開(IPO)の前夜、上海外灘金融峰会(上海バンド金融サミット)において、ジャック・マーはイノベーションを通じて中国の金融問題解決の手助けをしたいと直言、更に中国の金融監督がますます厳しくなれば科学技術イノベーションを阻害すると批判した。「リスクのないイノベーションは、イノベーションをダメにする。リスクをゼロに統制しようとすることこそ最大のリスクだ。」

官民闘争の中、「螞蟻金服(発音:マーイーチンフー)」は「馬已經服(発音:マーイーチンフー/意味:馬は既に屈服)」に変わった。数ヶ月の失踪と沈黙の後、ジャック・マーは遂に「螞蟻金服(アントフィナンシャル)」の経営陣を退き、董事会は杭州市委員会書記が指名した関連事業機構によって経営されることになった。一旦「螞蟻金服」が国家資本体系に組み入れられたなら、「螞蟻金服」の公開上場の日程も遠くはないと見られる。

七、結論

中共と、嘗て党国資本を独占した権力者層との間の殺し合いが、とうとう始まりつつある。「螞蟻金服」が再び上場する時こそ、習近平が既に完全に掌握し、江沢民派を主とする銀行金融体系と対決しようとする時だ。これは中国大陸にとって三つの極端な現象を反映すると予測される。一つ目は習近平が大権を掌握し、江沢民派集団をやっつけること。二つ目は恐らくその反対で、習が中国経済鈍化の生贄になること。それは習近平が全く大権を掌握しきれていないことを意味する。三つ目は習派と江派の勢力争いの中で、中国の地下金融への打撃がより厳しくなる。「錢袋子(=金蔓)」の争奪が、中国の将来の政治経済発展を観察する際の重要な指標となる。

 

陳建甫
陳建甫博士、淡江大学中国大陸研究所所長(2020年~)(副教授)、新南向及び一帯一路研究センター所長(2018年~)。 研究テーマは、中国の一帯一路インフラ建設、中国のシャープパワー、中国社会問題、ASEAN諸国・南アジア研究、新南向政策、アジア選挙・議会研究など。オハイオ州立大学で博士号を取得し、2006年から2008年まで淡江大学未来学研究所所長を務めた。 台湾アジア自由選挙観測協会(TANFREL)の創設者及び名誉会長であり、2010年フィリピン(ANFREL)、2011年タイ(ANFREL)、2012年モンゴル(Women for Social Progress WSP)、2013年マレーシア(Bersih)、2013年カンボジア(COMFREL)、2013年ネパール(ANFREL)、2015年スリランカ、2016年香港、2017年東ティモール、2018年マレーシア(TANFREL)、2019年インドネシア(TANFREL)、2019年フィリピン(TANFREL)など数多くのアジア諸国の選挙観測任務に参加した。 台湾の市民社会問題に積極的に関与し、公民監督国会連盟の常務理事(2007年~2012年)、議会のインターネットビデオ中継チャネルを提唱するグループ(VOD)の招集者(2012年~)、台湾平和草の根連合の理事長(2008年~2013年)、台湾世代教育基金会の理事(2014年~2019年)などを歴任した。現在は、台湾民主化基金会理事(2018年~)、台湾2050教育基金会理事(2020年~)、台湾中国一帯一路研究会理事長(2020年~)、『淡江国際・地域研究季刊』共同発行人などを務めている。 // Chien-Fu Chen(陳建甫) is an associate professor, currently serves as the Chair, Graduate Institute of China Studies, Tamkang University, TAIWAN (2020-). Dr. Chen has worked the Director, the Center of New Southbound Policy and Belt Road Initiative (NSPBRI) since 2018. Dr. Chen focuses on China’s RRI infrastructure construction, sharp power, and social problems, Indo-Pacific strategies, and Asian election and parliamentary studies. Prior to that, Dr. Chen served as the Chair, Graduate Institute of Future Studies, Tamkang University (2006-2008) and earned the Ph.D. from the Ohio State University, USA. Parallel to his academic works, Dr. Chen has been actively involved in many civil society organizations and activities. He has been as the co-founder, president, Honorary president, Taiwan Asian Network for Free Elections(TANFREL) and attended many elections observation mission in Asia countries, including Philippine (2010), Thailand (2011), Mongolian (2012), Malaysia (2013 and 2018), Cambodian (2013), Nepal (2013), Sri Lanka (2015), Hong Kong (2016), Timor-Leste (2017), Indonesia (2019) and Philippine (2019). Prior to election mission, Dr. Chen served as the Standing Director of the Citizen Congress Watch (2007-2012) and the President of Taiwan Grassroots Alliance for Peace (2008-2013) and Taiwan Next Generation Educational Foundation (2014-2019). Dr. Chen works for the co-founders, president of China Belt Road Studies Association(CBRSA) and co-publisher Tamkang Journal of International and Regional Studies Quarterly (Chinese Journal). He also serves as the trustee board of Taiwan Foundation for Democracy(TFD) and Taiwan 2050 Educational Foundation.