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中国CCTV:米大統領選_「札束」の力と「銭」のルール
2024米大統領選で勝利宣言をするドナルド・トランプ氏(写真:ロイター/アフロ)
2024米大統領選で勝利宣言をするドナルド・トランプ氏(写真:ロイター/アフロ)

11月3日、中国中央テレビ局CCTVは「央視新聞客戸端(CCTV新聞顧客端末)」で、<米国選挙_「札束」の力と「銭」のルール>という見出しで、「金」で決まる米大統領選のからくりを詳細に報道している。そこから、なぜトランプ氏が激戦州の一つペンシルベニア州で勝利したかが見えてくるのは興味深い。

 米大統領選に関して中国の官側メディアが中国の「視点」を披露するのは珍しいので、本稿ではまず、CCTV報道の概要をご紹介する。

 

◆選挙キャンペーン広告費は常に「史上最高値」を継続している

 2024年の米国選挙の支出総額は少なくとも159億ドルに達すると予想されており、2020年の大統領選挙で支出された151億ドルに次いで、再び史上最も高額な選挙となった。

 米国選挙では「焼銭(札束を燃やすように選挙のためにお金を使いまくる)」大型プロジェクトにおける寄付と資金の役割は、あまりに大規模で尋常ではない。

 今年9月、ハリス氏は選挙資金として2億7,000万ドルを支出したが、その大半は選挙広告に使った。トランプ氏の9月の選挙活動支出も7,800万ドルに達した。

 図表1に示すのは、年々増加する米大統領選における選挙費用の、2000年から2024年までの推移である。

図表1:米大統領選における選挙資金の推移

 

CCTVのグラフを基に筆者が和訳アレンジ

CCTVのグラフを基に筆者が和訳アレンジ

 

◆「スーパーPAC」を発明

 それなら、そのお金はどこから来るのだろうか?

 大まかに言って、米大統領選の資金調達には実は「ハードマネー」と「ソフトマネー」の 2 つの方法がある。その違いは、選挙資金が連邦選挙財務法に従っているか否かだ。

 米国の連邦法では、企業や労働組合が候補者の選挙運動に直接寄付することは認められておらず、企業、労働組合、活動家団体が主催する集会である「政治行動委員会(PAC、Political Action Committee)」(以後、PAC)にのみ寄付できると規定されている。

 しかし米国の法律は長いこと、個人の政治献金に明確な制限を設けてきた。それでは不便なので、アメリカの政治家は新たな「会計ツール」として「スーパーPAC」なるものを発明した。2010年、米国最高裁判所は選挙支援のPACへの個人や企業からの寄付の上限を撤廃したため、上限を設けない「スーパーPAC」が発足したのである。

 「スーパーPAC」は制限なく候補者の広告やバナー掲載を支援するために直接資金を支出することができる。特定の非営利団体は、実際の寄付資源を開示しないことを選択でき、寄付者が政治活動に参加しない限り、寄付金の使用を連邦選挙委員会に報告する義務はない。

 この一連の複雑な仕組みは、富裕層からの資金が公然と選挙活動に流れることを可能にした。

 Open Secrets(オープン・シークレット、選挙資金や政治献金などの統計を取る非営利団体)がによると、2012年から2024年に至るまで、毎回、米国史上最高額を更新した。図表2に示すのは、「スーパーPAC」資金の推移である。CCTVの画像を日本語に訳し、日本円に変換した金額も加筆した。

 

図表2:「スーパーPAC」募集資金の推移

CCTVのグラフを基に、筆者が和訳しアレンジ

CCTVのグラフを基に、筆者が和訳しアレンジ


◆「スーパーPAC」でどちらかの候補者側に立つメリット

 OpenSecretsのデータによると、2024年の米国選挙戦では、200ドル未満の少額寄付者からの資金は全募金のわずか16%しか占めていないとのこと。

 実際は、フォーブス誌の米国億万長者リストに載っている800人のうち、少なくとも144人が今年の米国大統領選に影響を与えるために投資している。今年の米大統領選では83人の億万長者がハリス候補を支持し、52人がトランプ候補を支持した。

 ハリスを支援したのは、ビル・ゲイツ氏などの大富豪がいる。

 トランプを支持した著名な富裕層には起業家イーロン・マスク氏などの大富豪がいる。

 その中で、トランプ氏に少なくとも1.1億ドルを寄付したことが明らかになったマスク氏は、7つの「激戦州」の有権者を対象にオンライン宝くじを開催した。

 異なる富裕層が両陣営に「味方」する理由は明らかだ。

 ゲイツ氏がハリス氏を支持することを選んだのは、医療や気候変動といった伝統的な政策における既得権を維持したかったからで、マスク氏の場合は、衛星、電気自動車、脳にチップを埋め込む事業、人工知能ロボットなど一連のビジネスを抱えているからだ。したがってトランプ氏が勝利すればマスク氏は事業を進めやすくなるのだ。(CCTVからの引用は以上)

 

 CCTV報道の最後の部分にあるマスク氏の事例は興味深い。

 なぜなら、大統領選の勝敗を決めるとされてきた「選挙人が19人の激戦州の一つであるペンシルベニア州をトランプ氏が制した」と11月6日午後に報道されたが、その原因の一つはここにもあるのかもしれないと思われるからだ。なぜ大統領選がトランプ氏に有利になったのかに関して、この時点における日本の報道では、「スーパーPAC」に起因する解説をしたメディアは見当たらない。

 その意味では、「スーパーPAC」という視点から米大統領選に切り込んだCCTVの当該報道は、非常に斬新であり、核心の一つを突いていると位置付けていいだろう。

 

◆マスク氏は習近平と緊密だが、トランプ政権になったらどうするのか

 中国政府が米大統領選候補のどちらかに味方したり、その感想のようなことを書いたりするようなことは基本的にない。外国メディアの報道を紹介することはあっても、中国政府側の「視点」のようなものを報道することは内政干渉になるので絶対にしないのだ。

 そういう意味では、候補者のどちら側かに立つことはしていなくても、アメリカの「大統領選」そのものに対する中国政府側の「視点」を報道したのは異例なことで、情報として非常に重要だ。そのため詳細にご紹介した。

 もっと踏み込んだ分析は中国政府としてはタブーだろうが、筆者として一番気になるのはマスク氏の存在と立ち位置だ。

 拙著『嗤(わら)う習近平の白い牙 イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』で書いたように、マスク氏の習近平との結びつきは尋常ではない。そもそもマスク氏は習近平がトップにいる清華大学経済管理学院顧問委員会のメンバーで、「中国経済をどのように増強していけばいいかを国際的視点から検討する委員会」の米側代表の一人だ。

 EVに関しては李強(国務院総理)とは、李強が上海市書記であった時代から非常に緊密で、李強が国務院総理(首相)になった後も、テスラEVの中国における権益のために会っている。

 いま原稿をここまで書いた時点で、トランプ有利のニュースが流れ始めているが、トランプ政権が再現された時には、マスク氏の立ち位置はどうなるのかと気になってならない。

 中国で莫大なビジネス権益を持つマスク氏は、おそらく米中貿易摩擦の緩衝材になる可能性があるのではないかと推測される。なぜならテスラEVのほとんどは上海工場で製造されているため「中国産」だからだ。となると、トランプ氏の対中高関税は鋭さを失うことになるかもしれない。

 

◆民主党のActBlueと共和党のWinRed

  CCTV情報には書いていないが、民主党のオンライン献金プラットフォームをActBlueと称し、2004年に設立されている。それに対して共和党は2019年になってようやくThey Act. We Win. – WinRed(彼らは行動し、われわれは勝つ)という標語でWinRedを立ち上げた。その意味では民主党が先にオンライン献金の仕組みを遂行し始めたと言っていいだろう。

 ActBlue Expressを見ると、14,763,137人の民主党の寄付者が、ActBlue Expressアカウントを通じて支払い情報を保存している。一番の魅力は、ユーザーは自分のアカウントを使用して、ActBlueの任意の候補者や組織に寄付できることだ。そしてそこには時々刻々変化していく寄付額が表示されている。すなわちこのツールの献金は透明公開であることが特徴だ。

 一方、WinRedには「WinRedは全米で共和党の候補者や委員会が勝利するのを支援するために設計された、公式の安全な決済技術だ」という説明の後に「すべての寄付は候補者に直接送られる」と書かれている。そこからサインして入っていくと、金額の累積などをつぶさに見ることができるようになっている。

 日本の自民党の政治と金の問題が注目されているが、米国の選挙に関しては、スケールが違う「金と選挙の結びつき」が存在する。しかしそれがネットで公開されていることに根本的な違いがあるように思う。

 本稿をここまで書いた段階で、トランプ氏の当確が決まった。トランプ氏も勝利宣言を行っている。トランプ勝利に関して、中国はどう見ているか、中国のネットがどのような反応をしたかに関しては、追って考察したい。

 

 この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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